アーシェとVR④(自主規制の向こうへ……それはアーシェの部屋!)→Byアーシェ

 ちゅんちゅん……と雀の囀りが聞こえる。あれ……もう朝なの? 私、何時から眠っていたんだろう? 二二時……いや、一時? ダメだ……寝始めた時間が思い出せない。

 それと、寝る前の私って一体何していたんだろう? 読書でもしていた? ゲームのステータスを確認していた? ……それもダメだ、思い出せない。思い出そうとすると頭がズキズキする。例えばそう、眠った記憶と言う錆びついたドアを無理矢理こじ開けるような感じだ。


「う……ううん…………」


 呻き声を上げて、私は眠気が残った状態でむくりと体を起こした。なんだか、体が異常にスースーする……風邪でも引いたのかな? ちょっと服を――ん? 

 偶然下を向くと、上半身裸の状態だった。あれ……なんで私は上着やらブラやら付けないで寝ていたんだろう?


「――そういえば、夏奈実くんは何処?」


 キョロキョロと夏奈実くんを探していると、隣に貧相な果実と(自主規制)のソーセージが露わになった状態で寝ている夏奈実くんの姿があった。なんで夏奈実くんまで裸になっているの!? と言うかッ! 夏奈実くんのキャラって男の娘だったのッ!? 初めて知ったんだけどっ!!


「――ん? 待てよ……全裸の男の娘・夏奈実くんのキャラと、半裸の私――――は、は、はわわわわわわわわわわわわわわわわわわッ!!」


 そ、そうだ……お、思い出したッ!! 私は昨日の夜――淫魔に取りつかれて、夏奈実くんを捕食していたんだ。

 行為方法は、あの某PCノベルゲームのサブタイ「覚めない夢」の行為をしていた。あぁ……ついに私と夏奈実くんは一線を越えてしまったんだ……。

 まあVR世界だし、現実世界ではこんな事はしていないから大丈夫だ。いっそ、今後の為の練習と思えばいいんだ。


「…………」


 しかし、本当にこれで大丈夫なんだろうか? VRとはいえ、(自主規制)にカルピスが入っていないか不安だ。ちょっと確認してみよう。

 温もりのあるパンツを下ろして、若干湿った(自主規制)を触れて――


         ※


 ル~ル~ルル~ルルルルル~~と、どこか聞き覚えのある音楽が流れる。もしかしてこれは……と思った方、正解です。あれをやります。ここでちょっと話違くない?って思った方、大丈夫です。この話はまだアーシェとVR編です!


「ここからは、アーシェの部屋をお送りしたいと思います!」


 先ほどのファンタジック世界から一転、徹○の部屋になっていた。え、VRゲーム? そんなの知らんわ。


「えーと、今日のゲストは葵夏奈実さんです!」


「ど、どうも……って、おい! 何で勝手に徹○の部屋担っているんだよ! 俺たち、VRゲームで遊んでいたんじゃないのか!?」


「ごほん……それにつきましては、私の行為が小説サイトの規制にひっかりそうなので代替のシナリオを入れていまーす……とのことで」


「代替シナリオって何!? まさかあれかっ! A○―Xなら、無修正の(自主規制)が見られて、地上波じゃ全部カットか白い線が入るっていうあれかっ!!」


「ま、まあーそんな感じです。ただ、A○―Xみたいに無修正バージョンはやりませんけどねぇー」


「何でだぁぁぁぁっ!! なんで、無修正版をやらないんだぁぁっ!!」


「仕方がないでしょ! やったらこの作品、ノクターンノベルズの方へ移動になっちまうわ!」


「あ、まぁ……うん、そうだな」


 こくり、と夏奈実くんが項垂れていると、私の背後に私たちの創作の神様が立っていた。


「どうしました?」


「ここら辺で終わりにしてください。もうすぐ、通常モードに戻りますので」


「あ、はーい」と、相槌を打って、カメラの方へ視点を向ける。


「はーい。残念ですが、本日はここまでです! それでは皆さん、次の完全規制モードの話で会いましょう~~」



「おいいいいいいいいいいいいいいっ!! これで終わりなの!? 俺って出る必要あったのっ!?」


「それでは、ごきげんよー」


 ぱちぱちと拍手喝采を響かせて、アーシェの部屋は終わった。


「俺の出番はああああああああああああああああッ!!!」



        ※


「と、とりあえず……なんともなかったみたいだ」


 私はさっとパンツを戻した。異常なかったんだから、まぁ……うん、これで良しとしましょう。


「とりあえず起きよう……腹減った」


 ベッドから降りて、乱れた服を着直した。よし、夏奈実くんを起こそう。


「おーい、夏奈実くん~~! 起きて―朝だよー!」


 ゆさゆさ……と夏奈実くんの体を揺さぶって起こす。


「う……ぅ……ん……なんか体がスースーする」


「ほら起きて、もう朝だよ!」


「あ……さ……? も、もう……朝なのか?」


「何寝ぼけているのッ! さっさと起きんかい!」


 寝ぼけた夏奈実くんの頭にバシッと一発叩いた。


「痛っ……あ、あれ……アーシェ? お前、珍しく早起きだな」


「そんな事はいいから、早く起きて! 私腹減ったのっ!!」


 ポコポコと夏奈実くんの体を叩く。いい加減早く起きろよ……、このバカ夏奈実ッ!


「うぅ……まだ寝たいけど、仕方がねぇ……起きるか」


 むくり……と気怠い表情をしながら、夏奈実くんは起き上がった。


「……あれ!? 俺、何時から裸になっていたの?」


「さ、さぁ……寝ているときに脱いだんじゃないの……?」


「そうかな……? それに夕べ寝た時の記憶が朧気なんだけど……あれ、一体何していたんだっけ?」


 その一言を聞いた瞬間、ビクンと体が反射的に跳ねた。


「なあ、アーシェ。昨日、なんかあった?」


 ご、誤魔化そう。夏奈実くんに本当の事を知ってしまったら、確実に淫乱女神のレッテルを張られてしまう。そして最悪の場合、破局――――そんなのは絶対嫌だ!


「何もなかったよ。夏奈実くんぐっすり寝ていたし……」


「そうかな……?」


「そうだよ! 疲れているんだから!」


 グイッと夏奈実くんの顔に向かって、自分の顔を近づけた。絶対に思い出させてたまるか……!


「ちょ……アーシェ、顔が近い……」


「え……? あっ……ご、ごめん!」


 反射的に顔を後ろに下げた。か、顔、近づけちゃった。や、ヤバい……VRゲームの世界で顔つきも全然違っていたから普通に顔を前に出しちゃったけど、よくよく考えたらこの人の中身って夏奈実くんじゃん……。

 ――ドッドッドッドッ……と心拍数が上昇している。撫子美人の中身が夏奈実くんって判ったら、純粋な恋心が起動しちゃうよッ! 本当にヤバい! 弾けるぐらいヤヴァイ!


「どうした、アーシェ? 顔真っ赤だぞ?」


 はっ……! いけないいけない……恋心が爆発しかけそうになったわ!


「あ、ううん! 何でもない! ちょっとこの部屋が暑くて、汗が出ちゃったのよっ!」


「そ、そう? 汗で風邪ひかないようにね」


「う、うん! ありがとう。とりあえず、服を着てよ」


 今更気づいたけど、夏奈実くんのキャラって男の娘じゃないか。しかも全裸だし、(自主規制)も丸出しだ。映像化なら、夏奈実くんの姿にモザイクをかけてもいいぐらいだ。


「あ、そ、そうだな……」


 よっこらせと、ベッドから降りて全裸の姿が露わになる。まあ、当然(自主規制)も露わになるのだが……っておい! エロゲの主人公よりも肌の色綺麗じゃね? 


 ――って、んな事はどーでもいいわッ!!


「ちょ……ッ! 夏奈実くん! その……(自主規制)を仕舞ってください!」


「あっ……いっけね。アーシェに男の娘と言う事、言うのを忘れていたわ」


「それ、今気づくこと!? と、とりあえず! 服を着てくださぁぁぁぁぁいッ!!」


 羞恥な事を高らかに吠えた。この声は、この施設中に響き渡る。


「ちょ……こんな公共の場で変な事言うんじゃねーよ、バカッ!」


「はっ……聞こえていないよね……多分」


 やっばーっ! 私、つい吠えちゃったけど……よくよく考えたら、公共施設じゃん……恥ずかしい……涙が出る。


「……まあ、その……悪いけどアーシェ。着替えるから、ちょっと部屋を出てもらってもいいか?」


 ポリポリと頬を掻き、恥ずかしそうに夏奈実くんは言う。って、なんでお前が恥ずかしがるんだ! 何もしていないだろうッ……と言うツッコミを内心で呟いた。


「わ、分かった……」


 私は部屋を出てすぐに廊下の方を確認した。キョロキョロ……うん、どうやら私の声に反応した人はいないようだ。


「はぁ……朝っぱらからなんか疲れたぁー」


 はぁーと大きなため息をして、ドアに寄りかかる。早く着替えおわってくれよーと思いながら、廊下の窓越しに見える雀を眺めて時間をつぶした――

 



 あれから数十分後、夏奈実くんが着替えを終えて民宿をチェックアウトし、宿泊施設に近いバイキング店で朝食をとった。その時に一緒にクエストをやろうという話をしたのだ。そんなわけで、クエスト探しにギルドに向かっている。


「ふぅ……腹いっぱいだぁー。朝食をこんなにたくさん食うなんて久々だな」


 ぽんぽんと夏奈実くんは相撲さんみたいに腹を叩く。


「ぶほっ……腹減ったから朝食したのに、結構胃もたれが凄い……」


「そりゃそうだろ、朝っぱらから脂っこいものを食べていればな」


「うぐっ……だって、肉とポテトがおいしかったんだもん……ついつい食べたくなっちゃうんだもん!」


 むぅーッと、言い訳じみた事を夏奈実くんに向けて言った。


「ははっ……確かに、肉とポテトはついつい食べちゃうよなぁー」


 なははっ……と、夏奈実くんが笑っていると、いつの間にかギルドの入り口までたどり着いていた。

 ギルドに入ると、昨日と同じく賑わっていた。飯屋と併設だから、ワイワイと朝食をとったり酒を飲んだりしている人が殆どだな。まあ、ギルド内を見るのもいいけど、今日はクエストをやるんだ。クエスト依頼が貼られている掲示板の方へ向かう。


「へぇークエスト依頼がいっぱいあるなぁー」


 私は掲示板に貼り出されたクエスト依頼の紙を見る。一体、どんなクエストがあるんだろう……?


『スライム討伐……初級~中級向けの人に最適。(服を溶かすスライムが生息しているので、着替えは必須です) 報酬五千メル』


『ビックフット調査……町の外れのある雪山にビックフットいるという目撃情報があったので、生存しているか確認してほしい。報酬三千五百メル』


『娼婦募集……』『猫探し……』『洞窟内にあるヒカリコケを取ってほしい……』『子供を探しています――』と言ったヤベーのから、ネトゲではテンプレにあるクエストがたくさんある。中に娼婦募集と言う張り紙があったんだけど……、歌舞伎町みたいなヤバい張り紙が掲示板にあって大丈夫なのだろうか? それにメルってなんだろ? 一応このゲームの常連者の夏奈実くんに聞いてみよう。


「ねぇー夏奈実くん、メルってなんなのー?」


 私は夏奈実くんに質問する。


「メルはこのゲームの通貨だよ。一メルは日本円で一円だからね」


 なるほど……つまり、さっき書いてあった報酬の五千メルは五千円って事か。通貨に関しては、そこまで難しく考えなくてもいいか。


「おすすめのクエストってないのー?」


「うーん……おススメのクエストって言われても、これと言った目ぼしいクエストが無いんだよなぁー。出来れば、初心者のアーシェにもやりやすいクエストがあればいいんだけど……」


 ひょいひょいとちょっと前にはやったエグ〇イルのダンスのような体勢で、先ほど言った私たちにベストなクエスト依頼の貼り紙を探し始めた。


 どういう体勢で探しているんだよ……と言うツッコミを内心で呟いた。


「――アーシェ、このクエストはどうだ?」


「ん、どんなクエスト?」


 夏奈実くんが指をさした依頼の貼り紙を見る。一体、どんなクエストなんだろう?


「えーと、なになに? 『堕天使の討伐……この街の近くの村が突如現れた堕天使によって滅んだ。滅んだ村に堕天使が住処にしている。いつか、この街を滅ぼしかねないので討伐をお願いしたい。初級~上級向け、職種は剣士が有利。報酬三万メル』……って、いきなり序章のボス戦みたいなクエストッ!?」


 おいおい……レベル低い私にいきなりボス戦をやれって言うのか? 一体どういう考え方したら、このクエストを選んだよぉぉッ!!


「うん、アーシェってこういうやつ好きじゃないの? まあ、初級でも大丈夫だって言うんだし、アーシェの職種の剣士が有利だし、これにしたんだ」


 ま、まぁ……確かにネトゲでこういうボスと戦うの好きなんだけど、初っ端からボス戦なんて……初心者殺しじゃないか!? どう考えても、私に敵いっこないと思うんですけど!?


「まあ、大丈夫だ。俺もアーシェと同じ剣士だからな」


「……ホント?」


「あぁ、言っておくが俺は剣士レベル一〇だぜ」


 どやーっと威張る夏奈実くん。頼りになるという事は分かったけど、ちょっとイラってするんだけど。ねぇ、やり込み過ぎてないよね。あと、ぶん殴ってもいいよね。こういうドヤ顔を見ると、歯ぎしりするぐらいムカつくから殴ってもいいよね。


「そ、そうなんだぁー」


 ぴしりとこめかみの血管を膨れ上がらせてわなわなと震える拳を抑えながら、夏奈実くんの話にわざとらしく吃驚する。ど、ドヤ顔ぐらいでキレるなんて、普通居ないよね。ま、まぁ……うん、落ち着こう。こんなんでキレたら、ただの短気者だよ!


「と言う訳で、アーシェ。一緒にこのクエストやってみないか!」


 ……うーん、どうしよう? 初心者殺しみたいなクエストを易々やってもいいモノだろうか? それとも素直にスライム討伐みたいな簡単な奴にするべきか?


 ――さて、一体どれを選ぼう?

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