アーシェとクローネ編
アーシェとクローネ①(オープンワールドゲームと地獄)
――八月が終わり、新学期が始まる九月の初日。世間では新学期が始まっていやだぁぁ……と泣き喚いている時期である!
「――頼む、夏奈実くん! VRゴーグルを買ってくださいッ!」
女神なのに土下座のポーズを取り、VRゴーグルを買ってくださいと懇願するアーシェであった。
「ダメだ! そんな金は無いッ!」
そうきっぱりと断ると、アーシェは俺の襟首を掴んでぶんぶんと体を揺らしながら、わぁぁぁんと某駄女神様のように泣き喚いていた。
「わああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!! 夏奈実くんのいぢわるぅぅぅぅうううううううううううううううううううううううううううううううう!! エロゲはしばらく我慢するからかてでぇぇぇぇぇぇぇッッ!!」
狂喜乱舞のような表情をするアーシェに、思わずぶぶっ……とにやけてしまった。バレないように口元を手で押さえた。やべぇ……某駄女神様に似ている……。うぜぇのに……笑ってしまう……ぶぶッ!
「かなヴぃくぅぅぅぅんんんッ!! VRゴーグルかっでぇぇぇ!!」
なんでアーシェがVRゴーグルを欲しがっているのか……それは数分前に遡る。
突然アーシェは俺の部屋に殴り込み、VRゴーグルを買って欲しいと要求してきたのだ。理由を聞いたところ、最近沙耶から『アスタリア戦記』をくれたお礼にS〇Oの原作小説をプレゼントしたのだ。そいつを読み進めているうちに、急にVRゲームをやりたくなったらしい。まあ、今のご時世――VRゲームは少数ながら出てはいる。けど、俺には無理な相談だった。だって――VR本体セットだけで約五万円するのだから。
「だぁぁぁッ! 無理なものは無理だって言っているだろぉぉぉぉ!!」
アーシェを突き飛ばして、VRゴーグルの購入は無理と怒りながら言う。
「な、何でぇぇぇぇぇぇッ!! このラノベのように抽選やら親の権力を使ってVRゴーグルを入手してよぉぉぉぉぉ!!」
「無理。抽選に当たる運なんて無いし、ソフトウェア関連の会社で働く父さんの権力使ってもVRゴーグルは入手出来ねーよ」
「な、何でぇさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!! ここはラノベのお約束でしょぉぉぉぉ!? MMOVRゲームがでるラノベなんてみんなこの展開でやりくりしてきたじゃぁぁぁん!!」
「アーシェ……」と、涙交じりに訴える彼女を見つめる。
「――――無理に決まっているんだろがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!! 何でもかんでも簡単にVRゴーグルを入手できると思ったら大間違いだぁぁぁぁぁッッ!! 大体ああいうのはな、VRゲームが発展した近未来のお話なんだよ! お金持ちのボンボンがスター○○トス○○ームする事や、親が詩作のVRゲームを楽しんで来いって言われる事なんてなぁぁぁぁ……ぜぇぇぇんぶフィクションなんだよぉぉぉ! ラノベ展開なんて絶対あり得ねぇんんだよぉぉぉ! 俺だってなぁぁ……親からVRゲームやってみな――って言われてぇよぉ……フルダイブVRゲームでスター○○トス○○ームをぶっ放してぇよ……!」
俺も非現実の出来事が羨ましくなって、思わず涙を溢してしまった。だっでぇぇ……俺だってVRゲームやりてぇよ! だけどよぉぉ! 先月エロゲ買っちゃったから、マネーピンチなんだよぉぉぉぉッ!!
「だからな……VRゲームは無理なんだ。分かってくれ、アーシェ」
ポンと彼女の肩を置き、涙交じりに訴えた。買えない……そう伝える。
「うええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええん! 買ってよおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!! 一生のお願あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああい!!」
結局、アーシェに俺の気持ちなんて伝わるはずもなく、シャツの襟首を掴んでぶんぶんと揺らし始めた。
「だヴぁからぁぁぁ……むりヴぁって……言っているでぇぇぇぇしょぉぉぉぉ!」
か、勘弁してくれよぉ……こっちは学生で金欠なんだぞ! 今月末学校始まる。昼食は自分で出すって決めているから、それを購入する金が無くなるわッ!!
「た、頼むから……や、やめろっ! か、代わりにG〇A5貸すから……それで我慢してくれ!」
「G〇A5?」
アーシェが首をかしげる。そう言えば、アーシェってオープンワールドゲームってやった事無いんだっけ?
「こ、こいつだよ」
引き出しからG〇A5のPC版パッケージを取り出し、アーシェにそれを渡した。
『説明しよう! G〇A5とは、ヒルクライムオープンワールドゲームだ。数年前に発売されたゲームだが、世界中から未だに人気が絶えない超絶大ヒットを打ち出している。PS3、PS4、PCなど様々なフォーマットで登場しているのだ。なおこのゲームは九つのギネス世界記録を持っている輝かしいゲームなのだ!』という、ナレーションが天から流れるのであった。
「あっ! グラ〇フ5やん! 夏奈実くん、持っていたの!?」
「あ、あぁ……うん。まぁ……実況動画見ているうちにやりたくなって……」
G〇A5は世界中で人気のゲームだ。そしてユーチューブでそのゲームを実況しているユーチューバーが多数いる。つまり、俺はユーチューブの実況動画を見てやりたくなったのだ。
しかし、このゲームはPS3から発売されているゲーム――何故PS3のソフトで購入せず、PC版のソフトを購入したのか? こいつにはオンラインプレイもできる仕様になっている。PS3はだいぶ前にバージョンアップのサポートを終了している――つまりプレイするにはPS4以降に登場したバージョンでないとダメなのだ。そしてもう一つ……PC版にはMODという機能を導入する事が出来る。簡単に説明すると、MODとは既存のプログラムモデルデータなどを書き換えや追加することで、新たなゲーム世界を作れるというやつだ。勿論、この機能はPC版にしかできない。だから、あえてPC版のG〇A5を買った。まあ、こいつを導入してからパソコンの動作がクソ重くなったけど……。
「私もやりたかったんだよぉぉぉ~~これ! やってもいい!?」
「あぁ、やってもいいぞ。その代わりVRゴーグルはあきらめろ」
「うんうん! 諦めるから、やらせてェェェ!!」
「ハイハイ……ちょっと待っていろよ」
アーシェを抱きつかせたまま、G〇A5を起動させる、このゲーム……いちいち認証しなきゃならんから、時間かかるんだよね……。
「ローディング終わったぞ、ほれやってみ」
ゲームコントローラーをアーシェに渡して、俺は席を立った。立ちっぱなしでやるのも
「どれどれ……」
早速、G〇A5をプレイするアーシェ。パソコンの画面を見ると、G〇A5ストーリーの初っ端から始めていた。まあ、初心者にもわかりやすい操作方法を教えているから、その方がいいかもね。
「って……俺、今日どうすればいいんだ?」
買ったばっかりのエロゲの続きをやろうと思ったが、アーシェによって占領されちゃったからゲームできないんだよな……。どうしようかな……? 何をすればいいんだろう?
(――そうだ、アーシェのパソコンにG〇A5のソフト入れるか。あのノートパソコン、ゲーミングノートパソコンだし、スペックも高性能だからすぐに落ちる事は無いもんな)
「アーシェ、この前あげたノートパソコンちょっと使ってもいいか?」
「何するの?」
「アーシェのパソコンに、今やっているゲームソフトをインストールするんだよ。いちいち俺のパソコンを占領されたら困るし……」
「あーなるほどね……いいよ。床に置いてあるから」
パソコン使用にアーシェの了承を得たので、隣のアーシェの部屋に向かう。ドアノブを握りしめて部屋に入り、パソコンを探し始める。
「さーて、パソコンは――ど、こ……」
パソコンを探し始めようと瞬間、強烈な異臭とおぞましい光景を眺めて俺は言葉を失ってしまった。
「――――あぁぁ……? な、な、な、何じゃごりゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!! あ、アーシェええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッ!!!!! お、お前えええええええええええええええええッ! なんくぁにしとんじゃぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
今まで以上にブチっと、ブチッと、ブチブチッ! 某キャラソンのリズムでキレた!
「う、うるさいよ……夏奈実くん――一体叫ん―――ゲッ……」
ちょうど俺の部屋からアーシェが出てきて、部屋を見られたことにマズイと言わんばかりな表情をしていた。
「ゲッ……じゃねえだろ? なんなんだ、このゴミ屋敷みたいな部屋はッ!!」
びしぃっ……と部屋を指す。数週間前までは綺麗だった客間が、異常なまでにゴミと衣服が散らばり、甘酸っぱいような異臭に包まれていた。
「あぁ……そのぉぉ……私、そのぉ……あはははっ――――す、すんませぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんんん!!!!」
この事を誤魔化そうと笑っていたアーシェは、膝をドスンとフローリングの床に叩きつけて土下座した。
アスタリア王国の女神様として国民に崇められているアーシェが、まさか俺に土下座ポーズを決めるなんて……。この姿、国民に見せたら幻滅するだろうな、多分。
「わ、私……昔から、その……片付けが苦手で……そのごめんなさいッ! 何でもするから許してくださいッ!」
片付けが苦手とか、子供の言い訳レベルだな……。俺ならもっとマシな言い訳をするぞ。例えばゴミ袋に入れるのを忘れた―とかさ。
まあ、そんな事はどうでもいいとして――さっきのアーシェの発言、聞き逃しはしないぜ! エロゲだったら命取りになるセリフを言い放った事、後悔させてやる!
「……アーシェ、さっき何でもするって言った?」
MADとかで使われる某ゲイビデオのセリフを真似て、アーシェに問いかける。
「う、うん言ったわ」
「そうかそうか……言っちゃったかぁ~~ムフフフッ! アーシェ、何でもするって言った事後悔するがいい!」
ムフフフ……と微笑み、指を触手のように動かしながらアーシェに圧をかける。
「ふ、ふぇぇぇぇぇっっ!? か、夏奈実くん! い、一体何を……!?」
ふふっ! 動揺しているアーシェ、可愛い! ビクビクと肩を震わせて……まるで寒さに震える子犬みたいだなぁ~~。俺、怯えるアーシェを食べちゃいたいぐらいだ!
「何をって――何でもするって言ったんだから、何かをするつもりだけど! ヌフフフフ!」
俺は、変態鬼畜騎士ラ〇スのような表情で、アーシェを壁まで追い詰める。なんでもするって言われたら、あれをやるしかなえーだろうがぁぁぁッ!!
「い、い、いやァァぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!! だ、誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
アーシェの悲鳴が家の壁を突き抜けて木霊した……。
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