アーシェとクローネ②(不法侵入したクローネと朱禰)

「――うぅぅ……この私がぁぁ……」


 なんてアーシェは涙を流して屈辱を受けたようなセリフを言っていた。


「アーシェ! 手を止めないで、しっかり埃を掃え! あと、フローリングは水拭きしておけよ! べたべたが取れないからな!」


 俺は、鬼教官の如くきびきびとアーシェに指示を出す。目を離したすきに怠けるかもしれないからな!


「うぇぇぇん! ベタベタして気持ち悪いよぉぉ……埃に目が入って痛いよぉぉ……」


 何でもすると言ったアーシェの末路は、アーシェの部屋――客間の大掃除する事だった。これ以上ポテチや炭酸水などに出来た脂汚れで部屋をベタベタにされては困る。急に泊まりに来た人に不快な思いをさせたくないしね。

 まあ、アーシェ一人で掃除させるのも可哀想だし少しばかり手伝っている。


「ほらそこッ! 泣き言を言うな! こんな風になったのは自業自得だろ! 俺がオッケーを出すまでゲーム・パソコン類すべて預かる! 早くやりたかったら、キビキビ動く事だな!」


「う、うえぇぇぇぇん! 私、女神なのにぃ……なんでお掃除しなきゃならないのぉぉ……? メイドじゃないわよぉぉ……」


「居候の分際でよく言えたもんだよな……」


 ぼそりと呟いて、俺は埃吸着ハンドモップでアーシェのパソコンに付いた埃を取り除いた。うわぁ……パソコンが手汗や菓子系の脂がべったりとこびりついているじゃん。仕方がない……アルカリ電解水を含んだ除菌オフィスクリーナーを使って脂を取り除こう。

 部屋から持ってきたオフィスクリーナーを使ってキュッキュッと手汗と脂汚れを落とす。あら不思議、きれいさっぱりと汚れがなくなった。そして、画面クリーナーで乾拭きをして……これで新品に近いような状態まで綺麗になった。


「夏奈実くん、床の埃取り終わったよぉ……目が……沁みるぅ……」


「ご苦労さん、後はフローリングを水拭きすれば終わりだ。ほれ、クイックルワイパー」


 ドア付近に立て掛けておいたクイックルワイパーをアーシェに渡した。


「ん、ありがとう……。早く拭き終えてG〇A5のプロローグを終えて、オンラインをやるぞぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」


 最後の仕事にやる気を出したアーシェは、フィギュアスケートのような美しいフォーメーションを決めながらフローリングの水拭きを行っていた。


「おぉ……すげぇ……って、フィギュアスケートのようなポージングで掃除しているんだよ……普通にやれよ、普通に」


「おっしゃぁぁぁぁぁぁッ!! G〇Aオンライン、G〇Aオンライン、G〇Aオンライン、G〇Aオンライン、G〇Aオンライン、G〇Aオンライン、G〇Aオンライン、G〇Aオンライン、G〇Aオンライン、G〇Aオンライン、G〇Aオンライン、G〇Aオンラインッ!! 早く終わらしてやってやるぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」


 G〇Aオンラインを早くやりたい為にハッスルしているな……アーシェの奴。まあ、目標達成すればG〇Aオンラインが出来るんだもんね。とりあえず、パソコンとゲーム一式を部屋に戻しておくか。

 没収したゲームとパソコンを取りに自室に戻った。


「さてさて……これで全部か。それと要らないコントローラーでもあげよ」


 ――ピーンポン……と、インターフォンが家中に響いた。


(誰だろう……宅急便じゃないよな?)


 アーシェのゲーム機とパソコンを自室に置いて、「はーい」と返事をしながら玄関に向かった。


「今開けます」と言って玄関ドアを開くと、二人の若い女性が立っていた。年齢は二人とも俺と同じぐらいだろうか?


 金色の塗料を絹に染め上げたような滑らかなロングヘアとブルーサファイアのような青々とした瞳……アメリカのファッションモデルのようなスラッとしたグラマラスな体型をした女性で上下ジャージを身に纏っている。もう一人は、黒色のロングヘアと黒曜石のような丸い瞳、でっかい城の城主の姫君のように清楚で美しい女性だ。彼女は隣にいる女性とは違い、ファンタジー世界で見かけるドレス型の騎士装束を纏っている。

 なんというか……世界観が違う雰囲気を醸し出す二人が、俺の家に何の用だろう?


「あのぉ……どちら様でしょうか?」


 とりあえず、どちら様なのか尋ねる。名を知らぬものに家を上がらせるわけにはいかない。怪しすぎるので家には絶対に上がらせないがな!


「どちら様? ――フフフッ! 私の事を知らない愚弄な輩! 私の前に跪きなさいっ!」


 金髪の女性が、ひょいひょいと指で挑発してそう言ってきた。

 言っている事が不明――それに腹立たしいお嬢様口調で跪きけだぁ? ふん……こういう輩は相手にしない方がいいな。


「N〇Kの集金人ですか。すいません、うちはちゃんと納付しています。二度と来ないでください、クソが」


 最後に陰口を溢して、とりあえず適当に言い返して素早くドアを閉めた。ドアを開けて勝手に入られないようにガチャリと鍵をかける。


「何だったんだ? あのやじ馬は……まあ放っておこう。アーシェの部屋にパソコン類を返しておかないとな」


 ふぅ~~ふん~~と鼻歌を奏でて二階へ上がって自室に戻り、アーシェのパソコン類を持ってアーシェの部屋に向かった。


「おーいアーシェ。床拭きは終わったかい?」


「うん、終わったよ! ほら見てよ! 鏡みたいにピッカピカにしたからね!!」


 じゃーんとアーシェは商品をお披露目式のようなポーズを取り、手を床の方に指した。床を見ると本当に鏡みたいにピカピカに綺麗になっている。まるで誰も触れられていない新品のフローリングと見間違えてしまいそうだ。


「すげーやればできるじゃん、アーシェ」


「えへへへっ……私だってやれるもん!」


 エッヘンと胸を張って威張るアーシェさん。言っておくけどね、これは子供でも出来る事なんだよ。マメに掃除しろよ、威張っているんじゃないわい!


「そう言えば誰か来たみたいだったけど、一体誰だったの?」


「あぁ……赤い羽根の募金の人さ。お金ないから断ってきたの」


「ふぅ~~ん。ね、ね! G〇A5の続きやってもいい!?」


「綺麗になったからな。G〇A5やってもいいぞ」


「わーい! ヤッタぁぁぁッ!! やっと掃除地獄から解放されたぁぁぁぁ!! うっ写ぁッぁぁぁッ!! プロローグクリアしてオンラインやるぞぉっぉぉぉぉぉぉッ!!」


 メリハリのある声を出して、アーシェは俺の部屋に向かって行った。


「全く……ゲーム以外でも元気にやってほしいもんだよ」


 なんて呆れた表情して、いそいそとゲームをプレイしたいと飛び出して行ったアーシェの姿を眺めながら皮肉交じりに呟く。


「さて……アーシェのパソコンにG〇A5を入れておくか」


 よっこらしょ……とアーシェのパソコンを手に取って立ち上がり、自室に向かうと扉の前でアーシェが仁王立ちになって窓の方を睨んでいた。


「アーシェ、何ぼーッと立っている――――んだ?」


 部屋の方向を振り向くと、そこには先ほど追っ払ったはずの異色の二人が俺の部屋に居座っていた。って、こいつらどこから入ってきたんだぁぁぁ!?


「お、お前ら! なに、勝手に上がり込んでくつろいでいるんじゃねーぞ!! 警察呼ぶぞ!」


 ビシッと指差しして怒鳴った。許可なしで家の中に入りやがってッ!


「――久しいね、アーシェ。思ったより元気そうじゃない」


 金髪の女がペットボトルの紅茶を飲みながら、アーシェに向けて言った。な、なにを言っているんだ? まさか、アーシェの知り合いなのか?


「……はぁ」とアーシェはため息を溢し、続けてこう言った。


「――えぇ、おかげさまでね。現代世界にやってきて何しに来たのよ、クローネ。それとアスタリア王国の勇者――朱禰津軽まで」


「何しにって貴方を探していたのよ――」


 フフフ……と不気味に微笑む金髪少女――クローネ。


「私はアーシェ様を探しに行ったクローネ様が行方不明になったから探しに来たの」


 黒髪の少女――朱禰はペットボトルの麦茶を飲みながら言った。

 こ、この少女達……アーシェを知っているのか? い、一体、この二人組は何者なんだ?


『――次回、アーシェの秘密!? デ〇エルスタンバイ!』と、空から勝手に次回予告ナレーションを言った。


「おいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!! 何勝手に次回予告しているんだぁぁぁぁぁッ!! デ〇エルスタンバってねーから!!」と、全力で天からのセリフを突っ込んだ俺であった――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る