アーシェとVR②(ク〇アナウンスのせいで、キャラ変更できませんでした。ク〇ヤロぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!)→Byブチ切れアーシェ
――少しの間、私の意識が途切れていた。眠っていたような怠い感覚が全身に伝わる。あれ……VRゲームの世界に入れたのか?
「ふぇ……真っ暗!?」
恐る恐る目を開けると、真っ暗な世界に立っていた。まるで無の世界……異次元の空間に迷い込んでいるかのように思えた。
一体どうなっているんだろう……キョロキョロと周りを確認する。すると、機械声の案内アナウンスが聞こえ始めた。
『貴方に合ったアバターを自動作成します――』
「ふぇっ!?」
な、なに……? わ、私の脳内に案内アナウンスが直接語り掛けているの!? び、びっくりしたぁぁ……。
「――ひゃぁん!?」
触手みたいな柔らかくてうねうねしたモノが、私の体を触れている!? い、一体何なのこれぇぇぇッ!!
『動かないでください――スキャン中です――』
(え、これがスキャン!? なんで触手みたいな触れ方なのぉぉッ!? 普通に病院とかにあるCTスキャンみたいな感じでいいでしょぉぉッ!!)
なんて脳内でツッコミして、案内アナウンスに言われたとおりじっと動かないようにした。なんで拷問プレイのようなスキャンを受けなきゃならないんだよ……。このゲームを開発した責任者に文句を言いたいわ!
『スキャン終了しました。キャラを作成します――』
ふぅ……と拷問プレイもどきのスキャンを終えた事に安堵した。さて……どんなアバターに仕上がっているのかな?
『キャラ作成終了――これでよろしいでしょうか?』
真っ暗な世界に鏡と小さなスポットライトが現れた。
「うわっ……眩しっ!?」
スポットライトが鏡に反射して目を背けた。暫く経ち目の順応が良くなったので鏡の方を見つめると、ゲーム世界での私の全体像がお披露目した。
「これが……わたし?」
銀髪のロングヘアに双方の青い瞳、凛々しい顔だ――って、これって――現実世界の私そのままじゃないかぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!
「ちょっとーッ! 一体どうなっているわけぇぇぇッ!!」
全力ツッコミと共に、案内アナウンスに向けて抗議する。
『――これでよろしいのですね?』
全然話を聞いてくれないんですけどぉぉぉッ!! よろしいですか?じゃねえよッ! キャラを作り直してよおおおっ!!
『――承認されました。これより、ゲーム世界へ転送します』
ちょっとぉぉぉぉッ! 勝手に承認されたんですけどぉぉぉぉぉッ! 同意もしていないのに承認されたんですけどぉぉぉぉぉぉぉぉッ!! とりあえず、承認していないからキャンセルしてぇぇぇぇぇッ!
『申し訳ございませんが、一度承認されたキャラをキャンセルする事はできません』
私の心を読み取ったのか、案内アナウンスがそう言った。お前が勝手に承認したんだろうがぁぁぁぁぁッ! え、なに? めんどくさい事を言う奴には、さっさと承認しろって言うのか? 勝手すぎるだろぉぉぉぉぉッ!!
『チッ……転送三秒前――』
「ちょっとーッ! 話を聞いているのおおおっ!! というか、さりげなく舌打ちするんじゃねぇぇよ!!」
『二秒前――一秒前――転送します』
案内アナウンスは話を聞かずに、真っ暗な世界にホワイトホールを出現させた。そして、そのホールが掃除機のように私を吸い込み始めた。
「ちょっ! 私の話を聞けええええええっ!! この糞アナウンスがぁぁぁぁぁっ!!」
必死に吸い込まれないように抵抗するが、このホワイトホール……吸い込みが強いんですけどぉぉぉっ! 成す術もなく、私はそのままホワイトホールへ吸い込まれていった――
※
――眩い光が瞼裏に差し込んで、私はふと目を覚ました。
「う……うぅ……ん」
あれ……青空が広がっている。私って外で寝ていたの?
(とりあえず、起きよう……)
ぐーっと体を伸ばした後、私はむくりと体を起こした。
「――――」
起きた先に広がっていたのは、風の音が聞こえるだけの広い草原だった。牧草のような爽やかな草の匂いが漂い、鳥がひゅきゅるるるるーと鳴いている。本当に何もない――一体ここは?
「はっ……これがゲームの世界?」
ホワイトホールに吸い込まれて朧気になっていた記憶が徐々に戻ってきた。そうだ、私はVRゲームをやっているんだ。そして、自分の姿を変更できなかったんだっけ……。
自分の姿を変更できなかった――その事を思い出すと、私はぴきっとこめかみを軋ませながらそこらへんに生えている草をむしり取った。
「くっそぉぉ……あのクソアナウンス……ふざけるなよぉぉッ! 何がキャラ変更できないだぁ? うるさいやつは追い出せって魂胆に設定されていたんでしょッ!」
案内アナウンスのクソ対応に関しての怒りをライオンのように大声で吠えた。普通ならこんな事はしない。こんな態度を取るゲームなんて、二度とやるかって―の!
「はぁ……はぁ……でも、VRゲームの世界に入れたんだからいいか」
……まあ、案内アナウンスにしつこく文句言ってもまた舌打ちされるに違いない。これ以上突っ込むのは止めよう。
「とりあえず、どうしよう……こんな何もない草原に転送させられるなんて。夏奈実くんの部屋にあったラノベなら、そのまま街の方まで召喚か転移しているんだけどなぁ……」
なんて、ぼりぼりと頭を掻きながら今の状況にぼやく。ほんと、こんな人気の無いところに転送されても困るのだが……。
「はぁ……めんどくさいけど、人のいるところまで歩くかぁー」
こんなところで呆然と待っていても人なんて通るはずない。トボトボと重い足取りで、私は先の見えない草原を歩き始めた。
「はぁ……フルダイブ式のVRゲームでも、現実みたいに疲れが出るんだなぁ……」
ぜえぜえ……と運動もろくにやっていない私は歩くだけで息が乱れていた。くっそ……ネトゲみたいにじっとしているかと思っていたけど、結構体力使うんだな……(大袈裟)。
「ま、まぁ……草原を抜けて微かにだけど、街も見えたから結果オーライだな、うん」
私は何分か歩いて、ようやく果ての無い草原から抜け出せたのだ。そして運がいいことにその先には微かにだけど街のシンボルっぽい鐘の塔が見えた。
「あれが街かぁー! 早速行ってみよう!」
私は先ほどまで重い足取りだったが、町が見えた事に歓喜しスキップ感覚で歩き始めた。
「ランランランラン~~」
適当に作曲した鼻歌を奏でる。本当に良かった……一時はどうなるかと思っていたけど、近くに街があってよかったー。確かラノベやゲームの話なら、街に着いたらまずギルドの方へ行って冒険者登録するんだよね……。まあ、それは街に着いてから考えよう。
(……そう言えば、ゲームの設定変更とかどうやってやるのかな?)
今気づいたけど、ゲーム世界からログアウトしたい時や個人設定を変えたい時の設定画面ってどうやって開くんだろ? クソアナウンスから設定画面の開き方とか聞いていないんだよね。まあ、ここはラノベやゲームのような展開でやってみるか……。
「せ……設定画面んー!」
き〇ら漫画の魔族が言っていた、あの名台詞似の言葉を大声で叫んだ。このセリフと共に変身フォームの着替えタイムに入るのだが……そんな事は無いよね……うん。
『――設定画面を開きます』と、最初の案内アナウンスとは違う声のアナウンスがそう言って、SF映画のように瞬時にホログラムディスプレイを表示させた。
嘘……本当に開いちゃったよ。夏奈実くんの住んでいる国って、ここまで進化しているんだねぇ……。
「えっと……これが設定画面ね」
空中に浮くディスプレイに手を触れると、タブレットのようにしゅんっと画面を動いた。
「上から……キャラステータス管理、装備詳細、音量設定、BGM設定、軽量モード、画質調整、フレンド設定、データ一括ダウンロード、ブラックリストの設定、ログアウト……まあ、ここら辺はネトゲとあんまり変わらないか」
パッチンと指を鳴らして、ディスプレイを閉じる。あ、指パッチンで画面閉じられるんだ。今度から、指パッチンでディスプレイをオンオフしよう。
「よし。設定画面の開き方も分かった事だし、街の方へ行こう。夏奈実くんも多分そこに居るかもしれない」
私はすぅーと息を吸って、一気に街の方まで駆け抜けた。
そこに、何かがあると信じて――
「ぜえ……ぜぇ……も、もう二度と走らねぇ」
一気に駆け抜けて十分後、息を切らして街の入り口付近にあった井戸の縁に寄りかかる。
「ば、はぁ……み、水ッ!」
すぐさま桶を投下し、井戸水を汲む。そしてそのまま汲んだ井戸水をがぶ飲みした。
「ゴクゴクゴクゴクゴクゴク……ぶっはぁぁぁぁッ! うめぇーッ!」と、まるでビールを一気に飲むおっさんのような声を上げた。ふぅ……息切れに水を飲むと生き返るなぁー。
とりあえず息切れも治まった事だし、街を見に行ってみるか……。ちょっとふらつきながら、街の中心部の方まで歩き始める。
この街の造りってまるでアスタリア王国に似ている。石畳の道、交差点に大理石でできた噴水、レンガや木、藁で出来た建物……。これが、日本中のヲタクが行きたいと叫ぶ異世界ワールドなんだ。
しかし――異世界から来た私が見ても、これほど驚く要素が無いよなぁ……。だって、長年アスタリア王国の街並みを歩き回っているんだし、街の住人もエルフやら言葉を喋る動物がいるのも当たり前だったからね。
(夏奈実くんや沙耶ちゃんみたいに、異世界へやってきた時の高揚感が全く起こらないのは全部見慣れているって事なんだ……)
ヲタクになり始めた今日の私にとって、この高揚感が味わえなくて残念だな……と、悲観な表情で街並みを眺める。
「……でも、なんかアスタリア王国に里帰りした気分だなぁー。みんな元気にしているかなぁー」
しみじみと懐かしい感覚に浸る。この街並みを見ていると、アスタリア国民の皆が「アーシェ様だ」って呼ばれていたんだよね……。ああ、あの呼ばれた時の感覚が恋しくなってきた。もう一度、アーシェ様って国民の皆に呼ばれたいなぁ……。
なんて思いながら、街を歩く。というか、ギルドって何処だよ? さっきからずっとギルドの場所を探しまわっているけど、それっぽい建物が無いじゃないか。
「しょうがない、誰かに聞くかぁ……すいませーん」
私は近くにいたおばさんにギルドの場所を尋ねる。
「おやぁ……かわいいお嬢さんやねぇー」
「あのーギルドの場所って何処ですか?」
「ギルドなら、この通りをまっすぐに行って最初の交差点を右に曲がればあるぞよ……」
「そうですか、ありがとうございます!」
「ギルドに用事があるのかい?」
「え、えぇ……まあー」
「それは……ギルドは冒険者たちの集まる所――お嬢さんも冒険者になるのかい?」
「まあそんなところですね……」
「それはまあ大変な道のりになるでしょうね……お嬢さん、頑張ってね」
「……ありがとうございます、おばさん!」
よし……場所が分かったところで、早速ギルドへ行こう。
私は少しウキウキした気持ちになって、駆け足でギルドの方へ向かった――
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