女神様、美少女ゲームをやり始めました!(クズな目で見ないでぇ……やりたいっていたんだよぉ……)前編

「ただいまぁ……」


 俺は、誰もいない家に気怠い声で返事をする。


「ふぅ……おも……」


 どさりとアーシェの私服が入った紙袋を床に置いて、凝った肩を回した。


(あぁ……疲れた。女の子の服を選ぶの……本当に大変だった)


「すいません。私用の服を買ってもらって」


「いいって事よ。まあ……コスプレみたいな羽衣姿で街を歩き回るよりマシだろ?」


「確かに……服の店に入った時、やたら視線が痛かったような……。これってコスプレに見えますか?」


「うん見える。どんなに否定しても、絶対コスプレイヤーさんに見えてしまうから。とりあえず食卓の部屋の隣にある洗面所で着替えてきなよ」


 二袋あるうちの一つをアーシェに渡して、洗面所まで一緒に行って扉を閉めた。


「はぁ……結局服しか買えなかった」


 朝早くから開店する本屋が十時開店と知った俺たちは、あの後、もう一軒朝早く開店する別の本屋さんへ向かった。だが、別の本屋さんも今日に限って臨時休業するという張り紙があった。本屋さんに行くのを諦め、スマホで九時から開店している服屋に向かって、アーシェに似合う私服を二着購入しました。

とほほ……、クレカで支払ったけど来月に諭吉が二枚消えるな……。趣味の費用と食費を少し減らさないと今月の小遣いがスカスカになるな、これは。

まあ、嘆いたところでお金は戻らないと考えた俺は、洗面所に通じる扉に向かってこんこんとノックをして「アーシェ」と扉越しに呼んだ。


「着替え終わったら俺の部屋に来いよ」


「うん、わかった!」


 正直、俺の部屋に来てやる事なんてない。ただ、アーシェと一緒に居たい……そんな気持ちがある。なんで、そんな恋を抱くような気持ちに満ちているのか……。一緒に居れば解決するかもしれない……。

 そんな事を考えながら、二階へ上がって自室に入った。


(パソコンでも開くか……)


 小学校から使っている勉強机の上に置いてあるデスクトップパソコンの電源を起動させた。素早くOSを読み込んだパソコンは数秒で、デスクトップ壁紙が映し出した。

 マウスを手に取り操作する。カチカチ……と美少女キャラが描かれたアイコンをクリックすると、「かーれぇーはうすぅ」と可愛い声で美少女ゲームブランドの名前を言う。


「少しだけ、汐ちゃんを攻略しよう!」


 ――え? アーシェが着替えている間俺は何しているのだって? うん、「ブラコンとヤンデレの妹たちが、俺の竿を捥ぎ取ろうとしている件について」と言うエロゲをやっています。

 このゲームは、ヤンデレとブラコンの個性のある二人の妹と、真面目な主人公が繰り広げる恋愛ゲームだ。ストーリーを進めると、ブラコンの妹が主人公の足を勝手に舐め始めたり、ヤンデレの妹が勝手にスマホをいじって知らない女の子と話していないかチェックしたり……、妹たちによる異常な生活が起こり始める。

 後に、その二人の妹とどっちに付き合うのか選択してずっこんばっこんとするのだが……間違えた選択肢を選ぶとヤンデレの妹に殺されたり、ブラコンの妹が自殺したりと嫌なバットエンドが待っている(攻略チャート確認済み)。


「さーて、ブラコンの妹・汐ちゃんのルートは……」


 カチカチとフローチャート画面を開く。白色の四角いチャートと緑色のチャートがあるが、緑色の方は今読んでいるストーリーの位置だ。

 その緑色のチャートの隣に、白色の伸びる線が縦と横に分かれている。つまり、このシナリオは選択肢があるという事だ。


『はぁぁぁぁああああん!!!? お兄ちゃんぅぅん!? (自主規制)』


 そして今読んでいる話は、ブラコンの妹をお仕置きしている行為だった。

――主人公が持つお仕置きの棒を妹に刺し穿ち、華奢な躰を壊していく。


『(自主規制)いの……(自主規制)! お兄ちゃんも一緒に、……(自主規制)』


 びゅく、と全身に電流が走るようなスッキリとした快感が主人公を襲った。それと同時に妹の体が弓反りになって痙攣していた。


「へぇー、主人公ってこんなにハーレムしているんだ」


「うんそう。妹をお仕置きと言う名目で犯し――――あ、あ、アーシェ!?」


 忍者のように気配もなく現れたアーシェに吃驚して、デスクチェアから転げ落ちた。


「痛ええッ!」


 腰を床に殴打し、激痛が走った。不意打ちに現れるなんて……、ビックリしたぁ……。


「だ、大丈夫?」


「いたたッ……、まあな。それよりもアーシェ、もう着替え終わったのか?」


「うん。それにしても夏奈実くんが選んでくれた服、結構センスいいね!」


 嬉しそうに俺が選んだ服を眺める。――黒色のTシャツの上に重ね着した無垢のワンピースを纏ったアーシェは、ふわりとバレリーナみたい一回転する。その光景を見た俺は思わず、アーシェに見惚れていた。


「うぅん……、そうかな? 俺が沙耶の服を選んだ時は、イマイチだなって言われた」


「全然イマイチじゃないよ! 結構イケてる!」


(……アーシェのやつ、服のセンスってねえのかな? 正直言って、ミスマッチの服を選んでしまったような気がする)


 多分、この服を沙耶に見せたら絶対似合っていないって言われそうだな。まあ、後で沙耶にお願いしてコーディネートさせてもらおう。


「ねー、さっきの話。妹を犯すって言っていたけど、これって何なの?」


 誤魔化すか、正直に言うか……。選択肢は二つある。だけど、アーシェに見られてしまった。もう誤魔化しは効かない。


「――――あぁ。これは美少女ゲームっていうんだ。やってみるか?」


「うん、やってみる」


 立ち上がって、デスクチェアをアーシェに譲った。


(……こんな無垢な女神さまにエロゲやらせていいのだろうか)


 そんな疑問に思いながら、アーシェに簡単にパソコンの操作を教える。


「ほほう……、アスタリア戦記よりも読み応えあるわね……。ひゃっ!? な、な、何を入れているんですか、この人は……」


 説明したいが、性的な関係をズバッと説明するのは……アーシェの人生を狂わすような気がする。少し回りくどい説明するか……?


「――そんなもんだよ。このゲームの主人公は」


 結局説明できないので、適当な事を伝えた。


「ふええええええっ……。あぁっ……、ずぼずぼ……いやらしい音が聞こえるよぉ」


 アーシェが戸惑うような声で言う。なんだろう、彼女の声が淫乱に聞こえ始めてきた。


「まあ、そんな訳だから勝手に遊んでくれ。ちょっと頭痛がひどいからひと眠りするね」


 布団の上にどさりと物を置くように、俺はうつ伏せに倒れ込んだ。まあ、アーシェに現代の娯楽を楽しませればいいか。それに今日は二度寝出来なかったし、アーシェが楽しんでいる間は寝ていよう……。


「ふああああっ……」


 大きく欠伸をして、俺は夢の中へダイブした――

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