女神様、俺の家に住むことになりました!(勘弁してくれよ……)
カチカチ……カチカチ……と、秒針の音が無音の部屋を響かせていた。
その音がうるさく感じた俺は目を覚ます。……二度寝でもしたのかな……?
欠伸をしながら目覚めると、俺の顔を覗くアーシェの顔が目に映り込む。
「…………あ、アーシェ?」
「大丈夫ですか?」
そう呟いて、アーシェは心配そうな表情で声をかけた。今更……出会った時のようなお淑やかな振る舞いは止めろよ……。だけど……そのお淑やかな表情を見ていると……ドクンと心が熱くなるのはなんでだろう……?
ただ言えるのは、俺は今のアーシェの姿の方が好き……かもしれない。
「あぁ、大丈夫――いてっ……!?」
ピッキン、と高圧電流が流れ走ったような痛みが腰を襲った。そういえば、妹に横腹蹴られて腰を痛めたんだよな……。その後、強烈な痛みに耐えられなくて気絶していたんだ……。
「はっ……今何時だ!? 一九時過ぎている!?」
近くにあった時計を見ると、もう十九時十分を示していた。
ヤバッ……! 父さんと母さん、もう家に帰ってきている時間じゃん……!
勢いよく起き上がると、そこはリビングだった。まあ、そんな訳だから両親と妹もそこに居た。……どうすればいいんだろう?
「夏奈実、これはどういう事だ……? 家にこんな美人さんを家に連れ込むとは……お前の彼女か?」
きつい質問がされると思ったが、親父が少しムフフとした表情で質問する。
「沙耶から聞いたんだけど、胸倉掴んで怒鳴っていたんだって? 別れ話してもいいけど、警察沙汰にならないようね……」
母さんは涙をこぼしながら、注意してきた。一体俺が何をする前提で警察沙汰と言うワードが出てきたんだ?
と言うか親父と母さん……、アーシェを受け入れているのか? まあ、これはこれで好都合だ……。さてどうやって説明しよう……。
「おい、アーシェ」
アーシェを呼んで、「お前、両親に何か説明したか?」とひそひそと質問する。
「していませんよ。全部妹さんが説明してくれましたので」
「沙耶が?」
「はい。なんでも、私たちの関係が恋人で、別れ話の喧嘩みたいになっているみたいです」
アーシェの聞く限り、妹がギスギスした誤解話を親に伝えたって訳か……。
うん……これはマズイ状況だ。一刻も早く、この誤解を解かなければ……。
「アーシェ、ちょっと来て」と、俺はアーシェを引き連れてリビングから出る。
「どうしたの?」
「あぁ……そのだな、親が俺たちの関係を勘違いしているんだ。だから、本当の事を伝えた方がいいと思うんだ」
アーシェに説明する。これ以上、変な誤解はさせたくない。
「私が女神様って正直に言ってもいいの?」
「いや、女神様って言うのはやめてくれ」
「何でよ! 女神様って言えばあなたの家族も信用するんじゃなくって?」
「女神様って言っても、多分俺以外信用しないと思うが。実際、アーシェが着ている羽衣だってコスプレに見えるし、どう考えても中二病に目覚めた残念女子に見られてもおかしくないような……」
「おかしい訳ないじゃない! 私はアスタリア王国を担う女神様なのよ!」
「それを言っている時点で、お前は中二病に見えるって言っているんだよ」
「じゃあどうすればいいのよ!」
「――ホームステイの来日、という事にしよう」
「ホームステイって?」
「まあ、簡単に言えば日本で体験生活する事だ。とりあえず、友人の親戚がホームステイしたけど、お前だけトラブルがあって俺の家でステイすることになった、と伝えるから。もし親から質問されたら、俺が言う事をオウム返しするように言えよ」
「分かった」
アーシェがこくりと頷く。正直不安もあるが、とりあえずこの作戦で行くしかない!
「あぁ……ごめん。ちょっとアーシェと一緒に部屋に戻っていたの」
なんて適当な素振りを見せて、俺達はリビングに戻る。
「父さん、母さん、沙耶。彼女――アーシェさんをこの家に泊めてくれないかな?」
「夏奈実、どういう事だ?」
「実はアーシェさん、ホームステイをしているロシアの方なんだ。昔から日本が大好きで今朝方に来日したんだけど、ホームステイ先の家主が急病で緊急入院する事になって。それで、偶然居合わせた俺が彼女を頼む……とお願いされたんだ」
「え、アーシェちゃん。今、何処に泊まるのか決まっていないのですか?」
母さんが、アーシェに質問する。
「ま、まあ、そんなところです。すいません、お邪魔でしたらすぐに出ます」
と、家から出る素振りを見せるアーシェ。
まあ、本当ならそうであって欲しいのだが。
「とんでもない! アーシェちゃん、家でホームステイしてもいいわよ。ね、あなた?」
「あぁ、ホームステイを楽しみにしていたのに、家主さんが急病になって泊まる所もないのは可哀想だもんな」
どうやら、親はアーシェのホームステイ(嘘)を受け入れるようだ。
「そうと決まれば、早速歓迎会を開かなきゃね!」
母さんがそういうと、隣にある台所へ向かった。
「お母さん、楽しそうですね」
アーシェは、俺の耳にひそひそと言う。
「そうだな」
ふふっと微笑む。まあ、アーシェが親にホームステイ(嘘)する事を認められたのなら、それはそれでいいか。
「夏奈実ぃ! 少し手伝って!」
母さんが俺を呼ぶ。皿をこっちに持ってきて、と言わんばかりの顔をしていた。
「わかった」
「あと、沙耶も手伝って!」
沙耶の方は、野菜を剥いてくれとお願いしているのだろう。
「了解っす」
母さんの横に立った沙耶は、大根、ジャガイモ、ニンジンの皮をむき、タンタンタンと、リズムよく素早い包丁さばきを見せる。まるで包丁の演舞しているようだった。
ついでだが俺の後を付いてきたアーシェが、皿運びを一緒に手伝い始めた。
「アーシェちゃん。もうすぐできるから、ソファーでくつろいでいて」
「いいえ! くつろいでいるわけには……私もお手伝いしますね!」
「わかったわ。じゃあアーシェちゃん、夏奈実の代わりにお皿を運ぶのを手伝って」
「はい」
「夏奈実、悪いけど収納棚からジュース持ってきて!」
「はいよ」
言われたとおりに、俺は廊下にある物置棚から二リットルジュースを持って、食卓の上に置いた。
「もうすぐご飯出来上がるからね!」
ジューと炒める音と、ぐつぐつと煮る音が聞こえる。この香ばしくさっぱりした香りは……野菜炒めだな。昨日、「明日は野菜炒めだからね」って母さん言っていたし、もう一つは野菜スープかな?
はいよ、と返事して台所を見ると、俺の横を通り過ぎるアーシェと沙耶の姿が見えた。
(相変わらず、料理作るの早いなぁ……)
母さんは、調理スピードが十分で終わらせるというスゴ技を持っている。なんでも、母さんの実家が、提供時間が短い事で有名な定食屋という事なので、家庭料理でもその癖が今でも続いている。
俺が食卓の方へ視点を戻した時には、もうシンプルな夕飯がずらりと並んでいた。
「さ、食べましょう!」
母さんがそういった瞬間、妹、父さん、俺はすぐに食卓の椅子に座った。
アーシェは余りのスピードに追い付けていなかったのか、少し困惑した表情で俺を見ていた。
「座りな、これが家のルールなんだ」
そう言い、アーシェは予備に用意した回転いすに座った。
「では、アーシェちゃんの歓迎会を始めまーす!」
母さんが指揮を執り、家族全員でぱちぱちと拍手喝采を送る。
「それでは、乾杯する前にアーシェちゃん、何か一言お願いします!」
「え、えぇ……、その……」
ぎこちなく言うアーシェ。そして勇気を振り絞って言う。
「ごほん……、では――私を歓迎してくれてありがとうございます! 乾杯!」
乾杯っ、と声を上げ、コップをからんと当てぐびっと飲み干した。
「さ、食べましょう……の前に――」
母さんがそう言うと、みんなで「いただきます」と言って、少し遅めの夕飯を食べ始めました――
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