アーシェと沙耶のプール遊び!⑨(ベタな恋愛シュチュエーション! 夏奈実くんはどうなるのかッ!!)←Byこの世界の神

「ふぅ……」


 医務室に着いてから、アーシェをベッドに寝かせた。ぐっすりと寝息を吐きながら、すやすやと寝ている。先ほどまで溺れていた事なんて、まるで気づいていないようだ。


「全く……世話のかかるやつ。早くアスタリア王国に帰れってーの……」


 なんて愚痴を溢しながら、俺は近くにあった椅子をベッドの前まで持ってきて座った。とりあえず、アーシェの様子を見る。正直、見る以外やる事が無いなぁ……。


(スマホ……いじってよ)


 ポケットにしまったスマホを取り出して、適当にLINEニュースやツイッターを眺めていた。アニメとか、陽キャ野郎の煽りツイートとか……何か見た事あるような記事ばっかだなぁ……。まあ、それがあるから時間をつぶせるんだよな。


「すぴーすぴー……」


 可愛い寝息が聞こえて、ふとアーシェの方を振り向く。


「アーシェ……」


 名を呟くと同時にスマホをシーツの上に置き、彼女の絹糸のような髪を梳かすように触れた。


「……なあ、アーシェ。俺の事が好きなのか?」


 寝ていて聞こえない事を理由に、俺は明弥が言っていた質問をアーシェに問いかけた。


「勇者を探しているくせに、なんで俺に拘るんだ? 他にも俺と同じスキルを持つ人なんていっぱいいるだろ? まさかだけど、俺が勇者になるまで待つって言うのは嘘か?」


 なんて勝手な予測を問いかけても、寝ている彼女は答えてくれなかった。まあ、当然だよな……寝ているんだもん。

 この際だ、本音をぶちまけてみよう。どうせ聞いていないだろうし……。


「アーシェ……本当はお前の事、ちょっとだけど気になっているんだ。先日キスされた時から、ずっとな。……ハハッ、最初に出会った時は最悪な相性だなって思ったんだぞ。自堕落なるやら、勇者になれやら……アホな奴だけど、怖がる一面もあって純粋な女の子なんだって思った」


 俺は、淡々と語り始める。まあ、全部独り言だから気にしないでくれ。


「って、何を言っているんだ? 本音をぶちまけるってそう考えていたけど、これじゃまるで告白しているみたいじゃん……。べ、別に好きになったわけじゃー無いんだぜ! ちょっと気になっているだけさ……」


 ……ツンデレみたいな口調になってきた。本当、俺って一体どうしたんだ? アーシェなんて勇者に仕立てるためにアスタリア王国から来た女神様だ。多分、アスタリア王国の国民にとっては高値の花みたいな存在だろう。そんな奴と恋人になるなんて無理!

 だってしつこく勇者になってくださいって言うんだし、話を聞かずに召喚させられるし、勇者になるまで待つ始末になるし……最悪な事ばっかりだ。早く縁を切りたい――そう思うんだ。


(けど……アーシェと縁を切った後の事――モヤモヤしてしまうのはなんでだろう?)


 まるで埋まったはずの心が、突然空っぽになってしまう虚空感が出てくるのはなんでだろう?


「……考えない方がいいな、これ。ちょっとトイレ行こう」


 アーシェの救護とかで、尿意が出ている事をすっかり忘れていた。一階気分晴らしにがてらに行こう。そうすれば、モヤモヤした気持ちもすっきりするはずだ。


 そう考えて席を立った瞬間――がっしりと俺の体を抱きしめるように掴まれた。誰だと思って、後ろを振り向くと寝ていたはずのアーシェが起きていた。


「あ、アーシェ? お前、何時の間に起きていたのか?」


「――――」


 俺の質問に答えず、顔を暗くしながらだんまりしていた。


「アーシェ……返事ぐらいしろよ。大丈夫か?」


「……私、夏奈実くんの事――好きだよ」


 その事を聞いた瞬間、俺はドクンと心臓が弾んで鳥肌が立った。


 ――はい? 今なんて言ったの? 俺の事が好きって? アーシェが?


「私……あの日に雷で怯えていた時ぐらいから、ずっと気になっていたんだ。いつも私を拒んでいるくせに、優しい一面もあるんだなぁーって……」


 これって、あれかな? 俗に言うつり橋効果ってやつか? 


「ねえ、さっきの事……本当なの?」


「さっきの事?」


「夏奈実くん、私の事好きなんでしょ?」


 ……本音、全部聞かれていたぁぁぁぁぁぁッ! 恋愛漫画では定番なシーンだけど、実際に起こるとめっちゃ恥ずかしいイッ!!


「い、いや……その――」


 ポリポリと頬を掻く。一体、どう答えればいいのだろうか……?


「私は本気だよ……。たとえ小さなきっかけだとしても――」


 ぎゅっと俺を抱きしめる。おおい……俺の背中に豊満な果実が押し付けられているんですがぁぁッ……! 息子が、息子がぁぁぁッ!


「……アーシェ」


 俺は彼女の方に振り向いた。頬を真っ赤に染め、ウルウルとした紺碧の瞳が俺の顔を見つめている。そして、チラチラと恥ずかしく下の方を見ていた。


「――私の初めて……奪ってもいいよ」


「―――――ッ」


 その甘く蕩けるような誘惑する言葉を発して、俺は彼女を押し倒――――さなかった。

 俺は、彼女の事が好きだ。けど、ここで手を出したら突然訪れた沙耶たちにどう説明すればいいのか分からないし、公共の場でヤったら犯罪者になってしまう。


「ごめん、トイレ行ってくる」


 ぐっと肩を掴んで、アーシェを離した。そして俺は逃げるようにトイレに向かった。


「やべぇ……告白されてしまった。どうすればいいんだよぉぉぉッ!」


 涙を流して葛藤していた。ガッツポーズしたいんだけど、何だろう……誘惑して勇者なりなさいという催眠をかけられそうで怖い。一体どうすればいいんだ?



 一方、取り残されたアーシェは、「――バカ夏奈実。鈍感……」と、ぼそぼそと呟いていた――

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