アーシェと沙耶のプール遊び!⑤(自堕落要素何処いった! プールで遊ぶって自堕落じゃねぇぇぇぇぇッ!!)←BYこの世界の神

「よっしやー! 滑ってやるぜぇぇッ!!」


 やっと順番が光季ちゃんに回り、覇気のある事を言って蛇スライダーの入り口に飛び込むと、勢いよくズザーッ!と水しぶきを上げて滑った。


「ヒャッホー気持ちィィっ!!」


 排水管のようなスライダーから、楽しそうな声が聞こえてきた。光季ちゃんの楽しい声を聴く限り、これは期待してもいいやつだね。

 そして、ドボンと下から落ちる音が聞こえた。どうやら最後まで滑りきったんだろう。私は柵から下の方を見てみると、ザッバーンとまるで人魚のように美しく水の中から出てきた。そして、上に居る私に向けて大きく手を振ってくれた。私も手を振った。


「楽しーよーアーシェちゃーん! 早く滑ろーよー!」


「うん」と私は答えた。やっぱり、こっちにして正解だった。

 色々悩んだけど、最初は巨大スライダーの方から遊ぶと決めた。まあ、そんな訳だから私と光季ちゃん、沙耶ちゃんと奈都ちゃんと二手行動したわけだ。勿論、これを終えたら流れるプールで二人と合流する約束した。


「はい、次の方~! どうぞ~!」


 従業員に呼ばれて、私はスライダーの入り口に座った。スライダーの入り口から噴き出る水が体をひんやりと濡らす。これで滑りはよくなるって事かな?


「よし……行こう!」


 縁にかけた手を離し、蛇スライダーに飛び込んだ。


(ひょわわわわっ!! は、速いいいッ!)


 水の勢いのおかげなのか、ものすごいスピードで滑っていく。蛇状みたいな配管構造なので、うねりくねりと三六〇度滑りながら回っているような感覚だ。

 ズザーッ、ズザーッ、と水しぶきをあげながら滑り進む。ヤバい……これ、爽快感と迫力あって楽しい! この楽しさをどう表現したらいいのか分からないけど、例えるならジェットコースターに乗っている気分だ。


「ひょわわわわっ! うわっぷッ! み、水が鼻と口に入ったあッ! がぁぁぁッ、鼻いてぇぇぇッ!!」


 滑る際の水しぶきが顔面に当たってしまい、そのせいで鼻と口に水が入ってしまった。口ならまだしも、鼻に入り込むなんて最悪だ! このツーンとした独特の痛み、中々引かないんだよおおっ!


「おわああっ! 楽しいィィッ!!」


 でも、そんなひどい目にあってもスライダーは楽しい! 


「ヒャッホー! 気持ちいいィィ!!」


 楽しかったスライダーも、そろそろ終点に近づいてきた。はぁ……あっという間だったなぁ……、迫力のあるスライダーが永遠と滑り続いてくれればいいのになぁ……。

 ――ドッバーン!と、終点の浅瀬のプールに派手に水しぶきをあげて到着した。


「ごぼぼぼぼっ! おぼぼぼっれれる!!」


 浅瀬のプールに派手に突っ込んで、頭がぐるりとひっくり返って下向きなってしまった。幸い浅瀬のプールだった事からすぐに立ち直ったのはいいが、また鼻に水が入り込んでしまった。これはきつい……ツーンとした痛みを通り越して頭痛してきた。


「ぶはっ! はぁ……はぁ……溺れるかと思った」


 ふんふんと鼻に入った水を吐き出す。けど、殆ど鼻の中に沁み込んでしまったのか全然でなかった。あぁ……いくら何でも鼻に吸い込み過ぎだろう……。自分がひっくり返っちゃったことが原因なんだけど……。


「アーシェちゃん~!」


「み、光季ちゃん……ごほっ! ごほんッ!」


 誤嚥した水がまだ残っていたのか、思わず咽(むせ)てしまった。クソ……苦しい……ゴホッゴホッ! 元々肺が弱いから誤嚥すると咳が止まらないんだよなぁ……。そういや、最近そんな症状が起こっていないからすっかり忘れていたわ。


「アーシェちゃん!? 大丈夫?」


 近くに駆け寄った光季ちゃんが、私の背中を優しくさすった。毎度思うんだけど、背中をさする事によって咳き込みを緩和できるのはなぜだろう? 何かのおまじないなのかな?


「ゴホッゴホッ! ご、ごめん、光季ちゃん……」


「いいって。とりあえずプールを出よう、スライダーで滑り終えた人にぶつからないようにしないと」


「うん」


 私の腕を光季ちゃんの肩に乗せた後、プールから出た。


「ゴホッゴホッ! ゴホッ……! く、ぐるじぃ……」


「大丈夫大丈夫……咳なんてすぐに止まるよ――」


 まるでお母さんのような優しい仕草で、私の背中をさすり続ける。ヤバい……本当にお母さんに見えてしまう。


「ゴホッ……ゴホッ……あ、治った。光季ちゃんって咳を止める魔法使いみたい……」


「あはははっ……そのセリフ、よく弟と妹に言われるよ。『おねえちゃん、魔法使いみたいぃぃ!』なんてね」


「へぇ……妹と弟がいるんだぁー」


「まあね。結構わがままな性格だけど……」


 最後に口ごもりながら弟と妹のディスった事を言う。まあ、妹と弟って大体はわがままな性格って夏奈実くんが言っていたっけ……。


(そういえば妹で思い出した……。リサ……元気でやっているかな?)


 ふと妹――リサ・アーガリアの事を思い出した。私より生意気で待つ事が嫌いなちょっと短気な性格なんだよなぁ……って自分の妹の事なんて今はどうでもいいわい!


「アーシェちゃん、何か考え事でもしていた?」


 疑問そうに私の顔を見る光季ちゃん。「ううん、何でもない」と返事した。


「遊んだ事だし、そろそろ沙耶ちゃん達がいる流れるプールの方に行かない?」


 と、私はそう提案する。


「だね! 流れるプールの方にいこう!」


 光季ちゃんは楽しそうに言って、全力ダッシュで流れるプールの方に向かっていった。って……私を置いていかないでよおおっ!


「こらーっ! そこのロングヘアの活発な女の子! プールサイドを走らなーい!」


「ごめんなさーい!」


 少し出遅れて彼女の後を追うと、プールの監視員に全力ダッシュしたことに対して注意されていた。まあ、滑りやすい場所で走るのは危ないって、さっきの看板に書いてあったからなぁ……。



         ※


 

 巨大スライダーから数メートルの場所に、施設を一周する流れるプールがある。そのプールは、全長三キロの県内では最大級を誇る。しかも、このプールはぐるりとただ流れるだけのプールじゃない。なんとこのプール、流れが速くなったり、大波が来たり、渦潮が発生したり、途中に高低差の低い滝があったりとデンジャラスな仕掛けのあるプールなのだ!

 まあ要するに、アトラクション型の流れるプールという事らしい。

 そこで後で合流しようと約束して、流れるプールに入っている筈の沙耶ちゃん達を私と光季ちゃんは探しているのだが――


「うーん……人多くてわからねぇ……アーシェちゃん、そっちの方はどう?」


 目を凝らして流れるプールの人々の中から、二人を探す。


「うーん……こっちも二人の姿が見えない……」


 沙耶ちゃんの髪色ですぐに分かるかなーって思っていたけど、外国人観光客や髪を染めている人がいて正直誰が誰だか分らなくなってきた。外国人に沙耶ちゃん似た髪色をしているばあさんだったり、オカマみたいなじーさんが水色の髪だったり……あー紛らしい!


「ああっ! ほんと、何処にいるのよッ!」


 どいつもこいつも、髪を染めたやつか外国人しかいない! 一体どこにいるのよおおっ!


「しょうがない! プールに入って探そう!」


 ほいっちにほいっちに、と軽く準備体操して、人気のない場所をピンポイントに狙って流れるプールにぴょんと飛び込んだ。


「こらー! そこの女子! プールの飛び込み禁止!」


 また監視員に注意されているんですけど。なんか三歩で忘れる鶏みたいにバカだ……。


(まあ、それよりも光季ちゃんを追いかけないと……)


 光季ちゃんが先ほどやっていた準備体操を真似して、私は階段を使ってプールに入った。


(あれ……結構深い? そう言えば思ったけど、私って泳いだ事あったっけ? 全然記憶ないんだけど……?)


 そんなこんな考えていると、つるんと思わず足を滑らせてしまった――


(ヤバッ! 足が滑った……早く立て直さないと……!)


 ドボンと体が水に沈む。必死に体を動かして起き上がる――と思っていたが、がぼがぼと水泡を吹きだしてもどかしく暴れているだけだった。


(あれ……おかしいな? 動いているのに体が起こせない……? 寧ろ、体が沈んでいる?)


 ブクブク……と儚い水泡が上へ昇っていく。水面に向かって手を伸ばすが、青い空みたいに遠く届かない。一体どういうこと? どんどん水面が遠くなっていくんだけど……。


(あ……そうだ、思い出した。私って泳いだこと無かったんだ――――)


 こうして私の体は、深―い深い水の中に沈んだとさ。めでたしめでたし――





 ………………………………………………………………………。





「ふがッ! ふがふがごぼぼぼぼぼぼばぼぼばばぼっ!! ふが、ふががががっががばっばばばばばばっ!!(って、勝手に終わらせるんじゃねぇ!! 私は人魚姫かッ!!)」


 なんて物語に耽る私自身にツッコミを入れたところで、早く水面の上に出なければ死んじゃう! 


「ぼぼばばぼっ!(やばいやばい!)」


 ヤバい……本当に泳げない。いくらバタバタやっているのに体が上に上がらない。流れを使って浮上するという行動も同時にやってみたのだが、結果は上がらずじまいだった。


「ぼが、ぼがぼぼばばぼぼぼばばぼぼぼばばぼ!(誰か、お、溺れるぅぅ……!)」


 必死にこいてもう一度手を水面に向けて伸ばす。しかし、ただ潜って遊んでいるのだろうと思っているのか、誰も私の手を取ってくれなかった。


「ぼっがぁぁぁぁっ! ぼがばおおぼぼぼっ!(クソがああっ! はよ、助けんかい!)」


 誰も助けない事にキレそうになった時、伸ばした手にギュッと握りしめてくれる人がいた。その人物は――


(光季ちゃん?)


 光季ちゃんに引っ張られ、「ぷはっ!」と顔を出して息を吸った。


「た、助かったぁ……光季ちゃん、ありがとー!」


 ゴホッ……ゴホッ……とりあえず、深呼吸しよう。くるじい……。


「アーシェちゃん、プールに潜って何やっていたの?」


 ぷかぷかと水に浮かぶ、光季ちゃんが質問してきた。


「お、溺れていたんだよ……ゴホッ……ゴホッゴホッ! あぁ、苦しかった」


「え、溺れていたの? てっきり人魚姫の練習をしていたかと思った」


「ちゃうわ! 誰が金槌人魚姫じゃッ!」


 怒鳴り気味に突っ込む。ゴホッゴホッ! 突っ込んだせいで、咳き込みが悪化してきたんだけど……!


「ごめんごめん、冗談だよ。探していたら溺れていたんだもの」


 もう……と私は呆れた顔で彼女をじっと見つめた。


「ねえ、悪いけど握っている手を絶対に離さないでよ」


「どうして?」


「溺れるからだよ! と言うか、溺れている人がいるのになんでそんな質問をする!?」


「だって……もうちょっとで、滝に入るから。手を握ったら危ないじゃん?」


 ……え、もう滝のゾーンに差し掛かるの? ちょっと冗談でしょ……まだ入ったばっかじゃん……。


「と言う訳で、ごめんね。このコーナーだけは派手に体験したいからさ!」


 ただ楽しみたいという理由だけで、光季ちゃんは握りしめた手を放してしまった。まあ当然ながら、少し溺れかけそうになる私であった。


「ちょ……ごぼぼぼぼっ! 私を一人に……ごぼぼぼぼっ! しな……ごぼぼぼぼっ!」


「アーシェちゃん、先に下流で待っているね~~! よーし、いっくぞオオオオオッ!」


「ぶはっ……はぁ、やっと浮かぶ事が出来た……」


 やっと体を水に浮かび上がせる事が出来たと同時に、「ヒャッホー」とターザンに似たようなポーズを取って滝から落ちた。


(――って、光季ちゃんを見ている場合じゃない! 滝からどうやって降りるんだ?)


 どうやって降りよう……? 頭から突っ込むのはさっきみたいな事が起こりそうで嫌だし、そのまま降りるのは……さっきみたいな結果になりそうだな……。

 いや、逆に仰向けにして落ちるのはどうだろう? そうだ、それしてみよ――う――


「のばばばばっ! た、滝いいッ!」


 仰向けになる前に私の体は滝のゾーンに入り、どっぼーんとそのまま下に向かって落ちました。

 一体どうなっているの……? もう視界が真っ暗で何が何だか分からない……。早く状況を確認して――――


「ぶはっ! はぁ……はぁ……た、立ち上がれたぁ?」


 どんな状況になれば地面に立つ事が出来たのだろうか……? まあ、そんな事はどーでもいい。とにかくプールに立てたんだ!


「アーシェちゃーん~~! だいじょ―――ぶ――――」


 下で待っていた光季ちゃんと合流すると、突然顔面真っ赤に染め上げて口をパクパクしながら私の方を見ていた。


「?」


「あ、アーシェちゃん……その、ですね……。ぶ、ぶらが取れてますよ……」


 直球で卑猥な事を言い始めて、私は豊満な胸元を見てみると……。


「あ……」


 ぽろりと肩紐がほどけてブラが取れていたのだ。まさか、滝に落ちた時に外れたのか?


「おおおおっ!」


 近くにいる男たちが私に視線を向けながら、ちょっと興奮気味に声を張り上げていた。


「あっ……見るな! しっしっ!」


 外れた事に呆然としている私の前に光季ちゃんが入り、胸元をガードした。けど……見られたことは変わらないんだよね。見られた……見られた……私の豊満な胸を夏奈実くん以外に見られた……。

 キューと顔の温度が上昇し、あわわと口をパクパクと震えさせて――


「い、い、い、い、いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっッ!!」


 ちゃぽんと肩までつかり胸元をしっかりと腕でガードしながら、羞恥な悲鳴をプールサイドに向けて響かせた。

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