アーシェと沙耶のプール遊び!④(もはや、自堕落要素が無くなったんですけど……)←BYこの世界の神


「来たぜーッ! 上御リゾートプールッ!!」


 物静かな沙耶ちゃんから一変、子供みたいに大はしゃぎしていた。


「沙耶ちゃん……子供っぽい」


 後ろに立っていた私は彼女の背中を見て、何処かの漫画の一コマをイメージしてしまった。これは、ワン〇ースのル〇ィのポーズに似ている……。まさか、プールで大海賊時代を築かせるのか!?


(―――なんて、冗談だけど)


「ヒャッハー!! 待ってろぉぉっ!! 私の水着でいい男をかませてみせるぜぇぇッ!!」


 なんてはっちゃけた様子で言いながら、プールの入り口の方に猛ダッシュしていた。これって……漫画でモテない女が叫ぶシーンに似ている。まさか沙耶ちゃん、美少女容姿しているのにモテていないの?


「まさかね……あはははっ……」


 そんな事はないだろうと苦笑しながら、沙耶ちゃんの後を追った。




         ※




「ほへぇ……大きいー!」


 入り口を通り抜け、エントランスホールに入った。その時、私は中の大きさと空間に驚きの声を上げた。

 このエントランスホールは二階と一階が立体交差しているため天井が高くガラスの吹き抜けが施され、ヤシの木とパイナップルの木が植えていて、まるで南国に居るかのような雰囲気を漂わせている。


「暑っ……それにしてもこのエントランス、クーラーが効いていない?」


 パタパタと服を煽(あお)って風を入れ込む。けど、クーラーが入っていないのか効いていないのか分からないが、蒸し暑い空気が入り込むだけだった。


「アーシェちゃん、ちょっと来てー!」


 券売所の方で入場券を購入している沙耶ちゃんが、私を呼んだ。


「はーい! 今行く!」


 呼ばれた私は、すぐに券売所に向かう。


「あ、すいません。私と彼女で二人です」


 沙耶ちゃんがそう宣言すると、券売員が「一二〇〇円になります」とお支払い金額を伝える。「あー、はいはい」と言って、沙耶ちゃんは金額分を払い、入場リストバンドを貰った。


「アーシェちゃん、入場リストバンド腕に巻いておくね」


 沙耶ちゃんは、くるりと右腕にリストバンドを巻く。


「これ、リストバンドに書かれたQRコードを入場ゲートにかざしてね」


「う、うん」


 QRこーどって何……と思いながら、言われたとおりにQRコードをかざして入場ゲートを通る。その後、私たちは入ってすぐに更衣室に向かった。


「さーって着替えて、友達と合流しよう!」


 更衣室に入って、私たちは先ほど買ってきたばかりの水着を取り出す。脱ぎ脱ぎ……男が居たら楽園ともいえるこの場所で、二人は会話を交えながら着替える。

 これはお色気のあるBGMを流してもいいのでは……と、夏奈実くんがそう言いそう。


「あれ、もうプールに入ったんですか?」


 大きいサイズのブラを取り外して、水着のブラを装着する。


「うん、さっきラインでそう言っていた」


 スポーツブラを取った沙耶ちゃんは、何枚かパットを水着にぶち込んで装着した。


「じゃあ、急いだほうがいいんじゃ……」


 下の水着も装着してパレオを腰に巻き付けると、あら不思議、可愛い水着姿の私が完成しました。


「だね……っておわわわッ!! かわ、可愛いいっ!! いいセンスじゃないかぁぁぁッ!!」


 可愛いと言ってくれるのは嬉しいが、なんだか彼女の言うセリフがおっさんくさいんだけど……。


「ではでは……私の方も――水着をお披露目しまーすっ!!」


 テレビのお披露目ショーみたいな演出で、ばさりとタオルを地面に落とした。

 白を基調としたビキニ水着で、ショルダーに伸びる紐とスカートの裾に青のラインが入っている。とても沙耶ちゃんにとてもよく似合う水着姿だ。


「おおーすごい……私の水着にはかなわないぐらい眩しさ……!」


 思わず、沙耶ちゃんの姿をまるで太陽を見るかのように手で遮る。私にはエロゲのヒロインを参考にして買ってしまった自分が情けないと思ってしまうぅぅっ!!


「ちょ……私は太陽じゃないって……。あと、アーシェちゃんの方が水着を選ぶセンスがいいと思うよ。だって、私の水着とアーシェちゃんの水着って今年のトレンド水着上位に入っているぐらいだもん!」


「そ、そうかな……?」


 正直、私には今年のトレンド水着がどんなものか分からないけど、とりあえず男子の視点から見たら私たちは可愛いって事だよね、うん。


「そうだよ! 私たちってお洒落のセンスがあるね!」


 沙耶ちゃんはそう言うけど、お洒落のセンスなんて私にはないと思うんですが……。


「えへへぇ――はっ! こんなのほほんとした会話している場合じゃなかった! 早く友達と合流しないと!」


「ですね! 急ぎましょう!」


 バタバタと脱いだ下着や衣服をロッカーにぶち込み、リストバンドのQRコードでロッカーにロックをかけた。


「よし、貴重品は持った。さあ、プールに行こう!」


 ぱしっと海賊の男みたいなポーズをきめる沙耶ちゃん。なんというか……私より中二病感あふれ出ているですけど……。とりあえず、知り合いと思われたくないので颯爽とプールの方へ移動した。


「うわぁ……すごい! こんな場所見た事無い……!」


 プールサイドに移動した私は思わず驚きの声を上げた。沙耶ちゃんのスマホで見た写真のプールが、そのままドームに収容しているかのようだ。流れるプール、スライダープール、学校プール、人工波のプール……ちょっと前に沙耶ちゃんから教わったけど……それが全て入っているなんてすごい。こんな施設、アスタリア王国にも設置したら国民のみんなは喜ぶかな……?


「へぇ……スライダープールが二つもある」


 近くにあった案内地図の看板を見つけて、色々場所を確認する。巨大スライダーが二つあったり、流れるプールがこの施設を一周するようになっていたり、二階と一階が立体交差するような構造になっていたりと、このプールのすごさを知った。


(先ほどのエントランスと言い、プールサイドの方もデカいなぁ……)


 感心して眺めていると、突然背中をパンと押されて思わずよろめいた。


「おっと……誰、私の背中を押したのは……?」


「はいはいー! 私でーす!!」


 子供っぽく返事をする沙耶ちゃんがいた。


「沙耶ちゃん、驚かさないでよぉ……ちょっとびっくりしたんだけど」


「ごめんごめん、驚かすつもりは無かったんだけどね……」


 何処が驚かすつもりがないんだ? 完全に驚かそうとしているんじゃないか。


「みっちゃーん! なーちゃーん! こっちー!」


 沙耶ちゃんは誰かを呼んでいた。


「おーさやっちー!」


「沙耶ちゃん、移動が早いって……」


 二人の女の子がこちらの方へやってきた。一人は黒いロングヘアの活発な女の子、もう一人は少し茶色がかったショートヘアの大人しい女の子だ。


「あーごめん、アーシェちゃん探すのにちょっと戸惑っちゃって……。あ、紹介するね。この子が家でホームステイしているアーシェちゃん」


 沙耶ちゃんが私を紹介する。友達の方は私の方を注目していた。


「ア、 アーシェ・アーガリアです。よろしくです」


 礼儀正しく深々と一礼する。


「初めまして、私は空倉(からくら)奈都(なつ)。よろしくね、アーシェちゃん」


 ショートヘアの友達――奈都ちゃんが最初に自己紹介をして、手を差し伸べる。私は「よろしくね」と挨拶してその手を握手した。


「はいはいー! 私は衛藤(えとう)光季(みつき)! さやっちーからみっちゃんって呼ばれていまーす!」


 ロングヘアの活発な女の子――光季ちゃんは握手の代わりにハグしてきた。私とほぼ同じぐらいの大きさのある胸が私を包んでくる……ヤバい、これはムフフ……エロゲの主人公みたいで悪くないかも……。


「よ、よろしくねぇ……」


「ちょっと、アーシェちゃんが苦しんでいるよ」


 きつく抱きしめる光季ちゃんに対して、どうどうと馬みたいに落ち着かせる仕草をさせる奈都ちゃん。


「あ、ごめーん。アーシェちゃん、苦しかった?」


「い、いえ……大丈夫ですよ!」


 ちょっと苦しかった……なんていうのは黙っておこう。まあ、ちょっと嬉しい行為だったから良しとしよう。


「じゃあ全員揃った事だし、みんな何して遊ぶ―?」


 光季ちゃんが落ちついたところで、みんなに向かって質問をする。


「うーんどうしよう……私ここ初めてだからなぁ……」


「わ、私もです」


「私も」


 沙耶ちゃん、奈都ちゃん、私の順にその質問に答えた。まあ、要するにみんな初めてこのプールに来たという事らしい。


「そいや、みっちゃんはこのプールに来た事あるって言っていなかったっけ?」


「うん、何回か家族と一緒に来た事あるよー!」


 光季ちゃんは、ピースポーズをしながら笑顔で答えた。


「じゃあ、光季ちゃんのおすすめの場所を最初に行くってのはどうかな?」


 私はそう提案してみた。


「お、いいねえ! じゃ、いきなり巨大スライダー行っちゃいます!?」


「えぇ、いきなり巨大スライダー?」


 嫌な思い出があるのだろうか……沙耶ちゃんは驚いた表情で呟いていた。


「おやぁ……沙耶ちゃん。しょっぱなから巨大スライダーは嫌なのかなぁ?」


 ニヤニヤと挑発的な事を言う光季ちゃん。なんか、私までイラっと来るのは気のせいだろうか……?


「い、嫌ってわけじゃないわよ! じゃあ、スライダーの方に行こう!」


 沙耶ちゃんは強がる様子で、スタスタと巨大スライダーの方へ向かっていった。


「あ、待ってよ! 沙耶ちゃん!」


 私たちも沙耶ちゃんの後を追って、スライダーの方へ向かった。



 ※



 案内地図の記憶では、先ほどの位置から右手方向の場所に二つの巨大スライダーがある。

 一つは一直線に伸びたスライダー、二つは蛇のようにうねりくねりとした配管式のスライダーだ。光季ちゃん曰く、ここのスライダーは滑るときの迫力が凄くて、アトラクションが好きな人にはたまらないとか。


「ほへぇースゲーでけぇ……」


 私は目を凝らしながら、二つの巨大スライダーとそれを滑る人たちを見ていた。「ヒャッホーッ!」と楽しそうに滑るカップル、「いえーい」とはしゃぐ子供……この楽しんでいる姿を見ている内に、早く滑りたい!という衝動に駆られた。


「よーし、滑ろー!」


 元気溌剌な光季ちゃんが先陣を切って、スライダーの入り口に向かった――が夏休み期間という事もあってスライダーは大行列になっていた。


「うひゃー、これまたすごい行列……子供連れの人が多いなぁ……」


 光季ちゃんが背伸びとジャンプをしながら、列の様子を確認する。


「やっぱり夏休みだからみんな遊びに来ているの……? どのぐらい待つんだろう?」


 当たり前な事を言っていると、このプールの従業員の人が呼び掛けていた。


「えーただいま、巨大スライダーは一五分待ちでーす! スライダー利用者は白線テープに沿って並んでくださーいー! ただいま一五分待ち――――」


「一五分待ちだって、なっちーどうするよ?」


「そうねえ……流れるプールの方に行く?」


「えー流れるプールはデザートでしょ!」


「みっちゃん、デザートってなによ……」


 二人がトークしているのを聞き流していた。それよりも、私は今の従業員の声がどこかで聞き覚えのある人っぽいんだけど……一体誰なんだろう?


「――ただいま一五分待ちでーす! 利用者は白線テープに沿って並んでくださーい!」


 やっぱり聞き覚えのある声だ。一体誰だ……?

 そんなこんなで考えていると、従業員が案内誘導のために最後尾の客である私たちの方へ近づいてきた。


「最後尾はこちらになりまーす! スライダーご利用のお客様はこちらの方へ―――あれ、アーシェ?」


 帽子をかぶって気がつかなかったが、私の名前を呼ばれた時点で確信した。


「あ、夏奈実くん? なんでこんなところに居るの?」


 帽子の鍔を後ろ向きにして、やっと素顔の夏奈実くんがお披露目した。少し汗だくで頬が真っ赤になっているけど……。


「沙耶から聞かなかったのか? バイトだ、バイト」


「バイト……え、ここで!?」


「そうだよ。まあ、夏休みだけの短期バイトだけどね」


 えぇ……夏奈実くんって本屋さんのバイトしているイメージが強いと思っていたけど、こんな体を使うバイトするんだぁ……ちょっと意外だ。これなら、すぐにでも勇者になって邪竜を倒してくださいよ……。


「あ、言っとくけど、勇者には絶対にならないからな」


「え、なにも私は言って――」


「嘘つけよ。お前は気が付いていないかもしれないが、隠し事している時って右手薬指がひくひくと動いているぞ」


「え、嘘!?」


 全然気が付かなかった……。と言うか、なんで私の嘘を見破る方法を知っているの?


「あれ、お兄ちゃん?」


「おう、沙耶。なんだ、お前もプールに来ていたのか」


「まあね! 一様、プールで遊びたいってアーシェちゃんが言っていたからね!」


 勝手にプールに行く理由を捏造されているんですけど……。沙耶ちゃんが行きたいって言っていたでしょ! 私は仕方がなく付いてきただけだよ!と内心で呟いていた。


「へぇーアーシェ、お前がプールに行こうなんて珍しい。ゲーム漬けしていると思っていたのに……」


「うっさい! 私はそこまで落ちこぼれていないよ!」


 流石にずっとゲーム漬けしているわけじゃない。たまにだけど、家のお手伝いしていますよ!


「はいはい。お前が落ちこぼれていない事は分かった」


 何よその言い方……と思った時、夏奈実くんはチラチラと恥ずかしそうに私の姿を見ていた。何でそんなに照れながら見ているんだろう……?


「それよりも――――か、可愛いな、お前の水着姿……」


「――ふぇ? か、可愛い……?」


 なんと夏奈実くん、私の水着を褒めてくれた。その褒め言葉を聞いて思わず、私の頬が熱く感じてしまった。あれ……これって恋愛シチュみたいな展開だ。


「ねえねえ、アーシェちゃん」


 私の体につんつんと指で刺す光季ちゃん。「なに?」と返事した。


「アーシェちゃんってさやっちーのお兄さんの事、好きなの?」


 光季ちゃんの唐突発言に思わず、「ぶうううっ!!!!」と噴き出してしまった。

 な、なにを言っているんだ、この小娘がぁぁぁぁぁぁッッ!!


「あ、好きなんだ! ヒューヒュー!」


「なななななななななななななななななななな、な、な、何を言っているのおおおおっ!! そ、そんな関係じゃないわよ! 私たちはッ!」


「えーじゃあ、どんな関係ぇ?」


「そ、それは……勇者―――いててててっ!?」


 夏奈実くんが急に耳を引っ張り始めた。痛い、痛い! 急に引っ張らないで!


「悪いな、俺達はただの家族なんだ」


「えーそうなんですかぁー? さっき、アーシェちゃんが動揺していましたけどぉ?」


「こいつ、恋愛小説が好きでね。よく変な恋愛感情が出るんだ。まあ、気にしないでくれないでくれ」


 フ、フォローしてくれるのは嬉しいけど、何変な癖をつけているのよ……! 

 私は耳を引っ張る夏奈実くんの手を払いのけ、胸倉を掴んだ。


「ちょっと! 何変な事を教えているのよ! 恋愛感情を出しているわけないでしょ!」


「あぁ……うん。そこは悪かった――が、アーシェ! お前、勇者ってボロ出そうになっていたぞ!」


「え……?」


「……まあ、次から気を付けろ。そんじゃ、俺は仕事に戻るわ。女の子と話してバイトしていなかったなんて言われたくないし」


 ぽんぽんと私の頭を軽くたたいて、夏奈実くんは仕事に戻っていった。


「じゃーね、お兄ちゃん!」


 沙耶ちゃんは、夏奈実くんに向けてバイバイと手を振った。


「おう! きーつけて遊べよー!」


 注意事を残して夏奈実くんは本当に仕事の方へ戻っていった。


「さーて。話を戻すけどー、どーするよ? 私はスライダーが前菜かな!」


「みっちゃん、前菜ってなによ……?」


 なんて奈都ちゃんがツッコミを入れている間、私はどうしようか悩んだ。

 うーん、スライダーは待ち時間があるからなぁ……。待つならほかの場所で遊びに行く手もあるが、流石にまた一五分並ぶのは嫌だなぁ……一体私はどちらを選ぶべきなのだろうか?




〈選択肢〉

 ・待ってスライダーで遊ぶ。

 ・待つのは嫌だ。




 ふと、恋愛ゲームの選択肢画面を思い出した。そうだよ……今、選択肢に立っているんだ。この二択の中から、選べって言うの? クソぉ……本当に悩む。待つか、待たないか……どうすればぁぁぁぁッ!!


「アーシェちゃん」


 聞き覚えのある声に私の事を呼ばれた瞬間、思わずビビってしまった。


「ひょわあああああっ!? さ、沙耶ちゃん!?」


「ど、どうしたの? そんなに驚くことはないでしょ?」


「ご、ごめん。ちょっと考え事していた」


 ふーん、と沙耶ちゃんは頷く。な、なに……そのニヤニヤした顔は?


「そう言えば、好きな人っているのって聞かなかったよね。あとでゆっくり恋バナでもしますか?」


「な、な……私に好きな人なんていないですよッ!」


「本当かねぇ? まあ、あとで聞くから焦らない」


 後で聞くのもプレッシャーあるんですけど……。


「それよりも、スライダーと流れるプールどっちに行く? 私となっちゃんは流れるプールの方に行こうと思っているんだけど」


 はっ……そろそろ行く場所を決めないと! えっと……何処に行こう?


(えぇい! あそこでいい! その方が絶対楽しいに決まっている!)



 勢い任せで決めた場所。私が最初に遊ぶ場所は――――――

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