私、美少女ゲームの素晴らしさに気が付きました!(やらせなければよかった…)
「あぁ……地獄だった。でもまあ、腹の痛みがなくなってよかった……」
トイレを出た後、夏奈実くんが持ってきた胃薬を飲んで、そのまま痛みが消え去った。
「さー、続き読もう」
颯爽と二階へ駆けあがって、デスクチェアに座った。まだ話の途中の画面が映ったままなので、早速づづけた。
「アーシェ、俺少し出かけてくる」
「いってらっしゃーい。私はこのゲームの続きやっているから」
この続きが気になっている以上、私はこのゲームをやり続ける。例え、邪龍がやってきても私は絶対にゲームをクリアしてみせる!
「そう……じゃあさ、行ってくる。――あ、あと家鍵かけておくから絶対家に出るなよ。インターフォン鳴っても絶対に出るなよ!」
「――なんで?」
「出たって、宅急便とか勧誘とかの対応の仕方が分からないだろ? だから、絶対に出るなよ」
「わかった。絶対出ない」
彼なりの配慮してくれているのだろう。まあいいか、どうせゲームに集中で気付かないし、玄関に向かうのも面倒くさい。それだったら玄関に出ない方がいいな。
「行ってくる」
「いってらっしゃーい」
バタン、と扉を閉めて夏奈実くんは出かけて行った。
「続き――えっと」
私はストーリーを読み、ゲームの中に再びダイブした。
『(自主規制)……お兄ちゃんッ! お兄ちゃんッ!』
また営みのシーンから始まった。一日に何回やれば気が済むんだろう……。てかこの人たち、疲労していないのかな?
『お兄ちゃんッ! お兄ちゃんッ! (自主規制)』
営みの先にある頂点へ向かおうとしている二人。そして限界突破した――前に選択肢が現れた。一体なんだ――そういえば夏奈実くん曰く、(自主規制)と(自主規制)のどちらかを選ぶと、汐ちゃんの好感度が変わるって言っていた。つまり――この二択によって、汐ちゃんの好感度が変化する重要な二択なのだ!!
『はぁぁぁぁああああん……、はぁぁぁぁああああん……』
選択肢を悩ましく選んでいるのに、映像の背後から早く(自主規制)来ないの? と誘惑しているように喘ぎ声が聞こえてくるんですけどぉぉぉッ!
(ど、どうすればいいい? (自主規制)か、(自主規制)か……。どっちを選べばいい? えぇい! こっちだぁぁぁッ!)
(自主規制)を選んだ。多分これで汐ちゃんの好感度ががくんと上がるはずだ!
『はぁぁぁぁああああん! お兄ちゃんッ! (自主規制)』
妹に熱したカルピス(飲み物)をかけた。これなら、汐ちゃんの話が展開になりそうだな!
『……何やっているのぉぉ? 私という恋人がいるのに……なんで(自主規制)しちゃうのかな? かな?』
『ご、誤解だ! 俺はッ!』
『シネ――』
ヤンデレの妹・未海ちゃんが現れ、修羅場化とした汐ちゃんの部屋。そして、未海ちゃんは――主人公と汐ちゃんの喉を掻き切った。ぶしゃぁぁ――と、二人の赤い液体が汐ちゃんの部屋を彩った。
『アハハッ! 死んだ! 死んだ! 死んだから、私も死のう……』
そう言った後、未海ちゃんも自分の喉を掻き毟って絶命した――
「あーッ! またバットエンドかよぉぉっ!? なんでッ! (自主規制)すれば、好感度上がるんじゃないのぉぉっ!?」
ま、まさか……このゲームは全部バットエンドしかないのでは!? それじゃ……このゲームは、ずっと泥沼な運命にハマり続けるのではッ!?
嫌だ……そんなの……絶対に――
「うん! バットエンドしかないゲームは止めよう。こんなのクソゲだわ! ハッピーエンドのゲームでもないかなぁ……」
バツボタンをクリックして、ゲームを閉じる。他にゲームは無いかなぁ……。確かファイルをクリックすれば、何かあるって夏奈実くんが言っていた。とりあえず、確認してみるか……。カチカチ……カチカチ……、何処だろう。違うゲームは無いのか?
(ん? 何だこのファイル……)
クリックすると、ごっそりと大量のゲームがあった。先ほどの欝なゲームとは違い、愉快な話っぽい内容のタイトル。これは何だろう……、カチカチ……とクリックする。
『まーおうそふとぉ』と可愛い声でブランド名を言い、『可愛い同棲っ!?』と言うタイトル画面が出てきた。三人の可愛い女の子が彩られたタイトル画面だった。
「同棲かぁ……、イチャラブな話かな?」
『ゲームスタートッ!』と可愛い声と共にゲームの中に飛び込んだ。
ストーリーは、主人公が大学に進学して賃貸を探すところから始まる。やっと住める場所を見つけたのはいいのだけど、その場所に三人の女子しかいない貸家だった。しかも偶然にも、全員今年から主人公と同じ大学に通う事を知った。
ここから主人公と三人の女子との同棲生活が始まる――と言ったストーリーだ。
「へぇ……結構いいじゃん。まあ、主人公は相変わらずのハーレムなんだけど……」
まあ、そんな愚痴は置いといてストーリーを進めよう。
『きゃっ!? ななななななななななぬぅ……!?』
『むごふっ!』
主人公が一人のヒロインとエッチなハプニング。ヒロインのスカートの中に主人公の頭がダイブしたのだ。
『ふにゃあああああああああぅ……!?』
人間の当たり前の行動、息を吸ったり吐いたりする。しかし、主人公の息を吐くことによりヒロインの(自主規制)がムズムズしてしまうのだ!
『す、すまない! 今すぐ退くから――って足を絡めるなぁぁッ!』
あまりにも動揺しているのか、主人公の頭を関節決めするようにがっちりと足を絡ませていた。
『ひゃうっ……!?』
あぁ……ヤバいなぁ。この主人公、めっちゃうらやましいよぉぉっ! こんなハーレムの展開、マジでたまらねぇぇぇ……。はぁはぁはぁ……。
(おっとイケナイ……、つい興奮してしまったぁ……。眼福だから良しとしよう)
なんやかんやで、ストーリーを進めていき、最初のスカートハプニングのヒロインルートを選んだ。そしてゲーム内の二人は甘々な行動を取っていた。
ウエディングドレスを纏ったヒロインと、濃厚な口付けを交わし――そして……。
『ふにゃあああああああああぅ……、(自主規制)ッ! (自主規制)ッ! 熱いぉ(自主規制)。も(自主規制)して、(自主規制)、(自主規制)』
ウエディングドレス姿のヒロインに(自主規制)した主人公はついに、そのままの状態で営みを始めた。
やがて、主人公とヒロインとの行動が激しさを増していく。これは確定するのでは? と思ってしまうぐらい。そしていよいよ、二人の限界のカウントダウンが始まる。
『うぐっ……』
『(自主規制)ッ!』
「いいよ、いいよ! 主人公ッ、そのままヒロインを堕とすんだァァッ!」
カウントダウンがゼロになったと同時に発狂した。
「よっしゃッ! 主人公殺されずに済んだッ! これで二人の愛が強くなったぁッ!」
限界に達して喜びの舞を上げる。もう、こんなハッピーなエンドに近い話を見られるなんて嬉しい! 前にやったクソゲのシナリオよりは、清々しいシナリオだ!
『ふぅ……大丈夫か?』
『うん、大丈夫。ほら見て、(自主規制)が溢れているよ?』
『ほんとだ』
『ねえ。赤ちゃんの名前、何がいい?』
『まだ早すぎだろ……、まだ付き合ったばっかりだし』
『えぇー、もう結婚したのも同然よ。ほら、実際にウエディングドレス着ているんだし』
『確かに。あと――その花嫁姿可愛いよ』
『ありがと、そして大好き』
主人公とヒロインが口付けする。まるで誓いのキスをするような幻想的な光景だった。
『あぁ、俺もお前の事が好きだ』
主人公がそう告げた瞬間、「FIN」とエンド画面が表示された。どうやらハッピーエンドを迎えたらしい。
「うっしゃっ!! ハッピーエンドを迎えたっ! 誰も死なずに済んだッ!」
やった、と自画自賛して、ハッピーエンドの舞を踊った。嬉しい、こんな素敵なエンドを迎えるなんて――これはよく読むアスタリア戦記より、素晴らしいハッピーエンドですわっ! もう――久々に感動の涙が出てしまったわッ!
「やった、やってやったぁぁッ!」
喜んでいる中、ガチャリと後ろのドアが開いた。夏奈実くんのお帰りだ。けど、私はハッピーエンドに迎えた事の嬉しさで夏奈実くんが居た事に気づかなかった。
「ただい――ま。……ア、アーシェ?」
「よっしゃ! これで他の――」
グルグルと回りながら踊っていた瞬間、やっと彼の存在に気づいた。
「――――」
「――――」
無言で見つめたまま、お互い時が止まったような感覚に陥って体を硬直させていた。
(――見られた? 見られたの……?)
見ていたのか見てなかったのか……疑心暗鬼になる私。なんか言ってよ……夏奈実くん。見ていたの? 見ていないの?
じっと夏奈実くんの方へ強く睨みつける。そして、彼はこう答えた。
「――あ~~そのだな……、元気でなによりだな……。じゃあ、俺。風呂の準備する」
適当に私の踊っていた場面の良い事を言って、硬直が解けた彼は颯爽と部屋を出て行った。この発言を聞いて、彼は私が踊っている所を見ていた――と。私はそう確信した!
「い、い、いやぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
は、恥ずかしい! な、なな、ななっ……、わたたっ……しの舞い踊りを見たのぉ……?
「ハハッ……、恥ずかしい所を見られてしまったなら――夏奈実くん、いや――この世界をほろぼしてやるぅぅぅッ!!」
大声で嘆いた瞬間、ドドドドッと二階を駆け上がっていく音が響いた。
「あほったれぇぇぇッ! 勝手に世界を滅ぼすなぁぁぁっ!!」
盛大なツッコミと共にドアを蹴破った夏奈実くんが入ってきて、私の体に足蹴りを食らわせた。
「ウボツッ……!?」
私は呻き声をあげて、その衝撃が強かったのか意識を失った――
◇
「全く――何勝手に世界を滅ぼそうとしているんだよ……」
がたっ、と外れたドアを立てかけた後、ぐったりと気絶しているアーシェをベッドの上に寝かせた。
「しっかし、どうしよ……ドア壊しちゃった。まあ、ドア自体へこんでいないし、金属部品だけ変えればいいか」
ドアの被害状態を確認して、一階に置いてある修理部品を取りに行く。
「アーシェ・アーガリア……との生活か。まだ一日目だけど、こんな生活も悪くないだろうな……」
生活するのが楽しみになってきたなと嬉しくて、思わず鼻歌を奏でていた。
「さーって、壊したとばれる前に修理終わらせよー」
玄関の隙間から差し込む夕日がまぶしい。明日はどんな風に一日を迎えられるのかな?
……………………………………………。
これが、自堕落女神の出会いだった。出会った時は、お淑やかだけど時折破天荒な性格だったんだけど――今ではもう見る影もない……。
そして――女神さまの自堕落は続くのだった――
「言っとくけど、これで終わりじゃないからな! 女神との出会いの事しか言っていないからな!」
――まだ続くよ!
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