アーシェとVR編(自堕落と恋愛シチュアリ?)
アーシェとVR①(夏奈実くんがVRを!? 私にもやらせてぇぇぇッ!!)→By駄々をこねるアーシェ
――酷い場所だった。
アスタリア王国で起こっている邪竜封印の戦争のような血生臭い異臭が充満し、周囲は焼け野原が広がり地面が無様に捲れあがっていた。
その戦場のような場所に、私と夏奈実くんは居た。堕天使・ルシファーに気付かれないように身を伏せて。
「夏奈実くんッ!」
私は傷ついた夏奈実くんを抱きかかえて、揺さぶりながら声をかける。体に刻まれた十字傷は全身にまで広がっている。何時、息絶えてもおかしくはない……と私は悟った。
「アーシェ……俺は大丈夫だ。目の前の敵をぶっ倒せ……」
夏奈実くんはそう言い残して、ばたりと息絶えた。
「全然大丈夫じゃないじゃーん!! な、夏奈実くぅぅん!!」
どうしてこうなったのだろうか……?
それは遡るほど数時間前、夏奈実くんがVRをやっている所から始まる――
※
八月のお盆――私がこの世界にやってきて、二か月が経った。世間では夏休みが終わるーという学生の嘆き声を聞く今日この頃――私はいつも通り、客室でごろんと寝転んで夏奈実くんのお下がりのノートパソコンでエロゲを楽しんでいた。
『あはははっ……お兄ちゃん、待ってよー!』
『早く来いよー、置いていくぞ!』
あーあ……なんかテンプレ……。早くエッチシーン出せよ。私、その為にこの恋愛ゲームを買ったんだから。
カチカチ……テキストを読み進めていく。このゲームは『シンプルなIは好きですか?』と言う恋愛ゲームだ。主人公は平凡な大学生だ。ヒロインたちは幼馴染だったり、ロリ容姿の大人だったり、ツンデレだったり、風紀委員長だったりと個性豊かなキャラクターと恋をする物語。しかもこのゲームはリーズナブルな価格で販売しているため、数少ない私のお小遣いでも買えちゃう嬉しい品物だ。本当の理由はしょうがなしにナマゾで買ったゲームなんだけどね。評価も高かったから試しに買ってみたんだけど……まぁ、シンプル過ぎて殆どスキップ状態で読んでいるんだ。
うん、とりあえず例のシーンまでスキップ――と。そんな訳で、例のシーンまでたどり着けましたとさ……。
『(自主規制モード中)』
「あぁ……夏奈実くんもこんな風に私を犯してくれな――なッ、なッ! わ、わわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわ私、な、なんて事を呟いているんだぁぁぁぁッッ!!」
自分で変態発言を発した事に吃驚し、近くに敷いてある掛け布団に頭を隠した。は、恥ずかしい……な、なんでこんな事を……? エロゲと夏奈実くんと恋人になったせいなの?
……最近、変な妄想癖が付いてしまった。夏奈実くんと恋人?になってから、エロゲみたいな事してくれないかなぁーとか、夏奈実くんの(自主規制)で私を壊してくれないかなぁーとか……なんて、エロゲみたいなシチュエーションが私の脳内で渦中している。
「マジでどうしよう……ちょっと前、食事中に『夏奈実くんの(自主規制)が入って――』って言っちゃったしなぁ……。そのせいで家族にドン引きされかけて、その後に夏奈実くんにこっぴどく怒鳴られちゃったけど」
なんて怒鳴られた苦い思い出を蘇ってしまった。そりゃ、いきなり変態的な事をポロリと呟けば怒られるに決まっているよな……。
「やめよ……また変な妄想癖がポロリと出てきそうで怖い……」
そう思った私は、ゲーム画面を閉じてやめた。エロゲに毒されて変な妄想が付いたのか?
まあ、いいか……とりあえず下に行って水飲もう。喉がカラカラだ。夏が終わるというのに、なんでこんなにも暑いんだ? これが所謂残暑ってやつなのか?
「あ、あっ! ちょ、そこッ!」
部屋を出て階段を降りようとしたところ、夏奈実くんの部屋からガタガタと物音が響いた。うるさいなぁ……一体何をやっているんだ? ちょっと部屋の様子を見てみるか……。
「夏奈実くぅーん~~! 何やっているのー?」
コンコンと夏奈実くん部屋に通じるドアをノックする。だが、夏奈実くんはノックの音に気づいていないのか全く反応していなかった。
「ごめーん、入るよー!」
ドアノブに手をかけ、ガチャリとドアを開いた。
「おぉぉッ! そこ、そこだああああっ!!」
発狂をしている夏奈実くんの姿を見る。頭にでっかいゴーグルみたいなものをかぶり、手にはコントローラーのような物を握りしめて何かを殴る仕草をしていた。
「おーい夏奈実くぅーん! 何やっているのー?」
私は夏奈実くんの方へ近づいて声をかける。だが、私の声に気づいておらず空振りに殴り続けていた。
「よーし! いけっ! あと少しだぁぁぁッッ!」
「おーい夏奈実くん! 聞こえるぅぅ――ぶはあああっ!?」
聞こえないてないのか……と少しむっとした表情で近づいた瞬間、バギッ……と空振りに殴っていたストレートパンチを喰らってしまった。
「あっ……何かぶつかった!?」
いそいそとゴーグルを外して、周りの状況を確認する夏奈実くん。そして、目の前で唇から血を流す私を発見した(らしい)。
「ア、アーシェッ! ご、ごめん……何処にぶつかった?」
気絶しかけそうになった私を抱き上げて、大丈夫かと必死に声をかける。
「いってぇぇ……唇が切れたぁ……」
殴られたけど、幸い唇を切っただけで済んだみたいだ。
「ご、ごめん……周囲には気を付けて遊んでいたけど、まさかアーシェが部屋に入ってくるなんて思ってもいなかった……」
あたふたした様子で近くにあったティッシュを持ってきて、血に染まった唇を優しく拭ってくれた。
「あ、ありがと。あと、さっきの件……許すわ」
悪気があってやったわけじゃないし……怪我も大したことじゃなかったし。それに本気で心配している夏奈実くんの行為を見て、なんだか怒る気が失せてしまった。
「え……いいの?」
あっさりと許せた事に疑問に思った夏奈実くんは、私に問いかける。信用していないのかよ……。
「うん、許す。こんなのかすり傷程度だし、治癒魔法ですぐに直せるから」
私は目を閉じて魔法を発動させ、自己治癒力を高めた。じわじわと怪我したところに熱が籠る。魔法によって治癒が早まっている証拠だ。ゆっくり目を開け、傷口を軽く触れてみるとすでに血が止まっていた。
(そういえば、魔法を使うなんて久しぶりだ……。何カ月使っていなかったんだろう?)
一応説明するが、私は無限魔法を使える。詠唱、魔法陣を使わずに魔法を発動できると言う優れものだ。ただ、その代価として私の肺が弱くなってしまったのだ。まあ、車の排気ガス程度なら咳き込まないけどね。
まあ、説明はこの辺にしておいて……夏奈実くんは一体何をしていたのだろう……。
「夏奈実くん、私の声に気付かない程ほど夢中になっていた『それ』はなに?」
私は、ベッドの上に置いていたでっかいゴーグルの方に指をさして質問する。
「あぁ……これね」と相槌を打って、でっかいゴーグルを手に取った。
「これはVRヘッドギアだよ」
「VRヘッドギア……あ! 最近話題のバーチャルリアリティーのヘッドギアなの!?」
確か……そのヘッドギアをかけると、まるでその世界に入ったような体験が出来るという次世代の映像技術だとか……。まさか、夏奈実くんの家にVRヘッドギアがあるなんて……すごいよッ! 感激しちゃう!
「そうそう。やっぱ、ゲームをやりつくしているお前ならすぐに分かっているじゃん」
「まあねぇ!」
誉め言葉だろうな……嬉しい! 私はぼさぼさになった髪を靡かせて、どうよとドヤ顔で夏奈実くんに見せつけた。
「まあうん……そうだね」
え、なんでそんなに悲しそうな目で見ているの? 私、何かやらかしたの? まあ、そんな事はどうでもいい。
「それよりも、このVRヘッドギアどうしたの!?」
「この前、プールの短期バイトの給料で買ったんだよ。まあ、これ買ったせいで貯金がプラマイゼロになったけどな……」
名残惜しい表情でVRヘッドギアを見つめる夏奈実くん。まあ、そんなバイトの苦労を知らない私は「へぇー」と頷いた。
「そんな事よりも、私もVRやりたいやりたい!」
「ダメ、働いている俺の特権だ。働いていないお前にやらせるかッ!」
「むぅーッ! なんでぇぇよおおっ!!」
「『なんでぇぇよー!』じゃねーよ! この前、エロゲ買ってあげただろ! それで十分だろうがっ!」
「えーッ! あのゲーム全クリしちゃったよーッ!」
「はあっ!? 四日前に買ったのにもう全クリしたのかッ!?」
「そーだよー、ずっと読み直しているんだよーッ!」
わんわんと私は泣き喚いた。夏奈実くんだけがVRやっているなんて、ずるくない? 私は、ずっとパソコン越しで美少女たちの(自主規制)をTPS視点しか眺めていないんだよ? それなのに、夏奈実くんはFPS視点でがっつりアクションゲームなんかやっちゃってー! ずるいずるい!
あと、さっきの話、マジですよ。二日ぐらい徹夜しちゃったけど、結構面白いゲームだった。主人公が異世界に飛ばされて、その世界の美少女と(自主規制)してハーレムを築き上げる。美少女ゲームではテンプレな展開だけど、何故か過去に事故で失った幼馴染似のヒロインが出てきたり、決闘後に(自主規制)するお侍さんが居たり、千夜一夜物語に出て着そうな美少女が誘惑したり……。ゴホン……まあ、これ以上長く語ると日が暮れそうなのでここでやめておく。
「やりたいやりたいやりたいやりたいッ!! VRやりたいッ!」
「だーッ! お前は駄々をこねる子供かッ!」
「やりたいやりたいやりたいやりたいッ!! VRやりたいッ!」
駄々をこねる。こうでもしないと、やらせてくれないんだから。
「……あぁ……うるさい……分かったよッ! アーシェ、一緒にVRやろうッ!」
ついに私の駄々をこねる事にうんざりしたのか、夏奈実くんは観念した。
「や、やったーッ! 優しい夏奈実くん、ありがとーっ!!」
許しをもらえた事に私は歓喜し、夏奈実くんの体をぎゅっと強く抱きしめた。
「ちょ……アーシェ……く、首を絞めるなぁ……。く、苦しいィィッ!」
ぎゅーっと首を絞めている事に気付いた私は「ごめんごめん」と謝って、腕の力を緩ませた。
「あぁ……苦しかった……。ちょっと待って、VRヘッドギアとコントローラーがもう一機あるからそれ使え」
「え……もう一機あるの!?」
「うん……父さんの仕事用のVRヘッドギアなんだけどな。まあ、壊さなきゃ大丈夫だって」
「わーい! やったー!」
「それ、取りに行ってくるから待ってな」
「うん」
「はぁ……やれやれ……」とため息交じりに呟きながら、夏奈実くんはVRヘッドギアを取りに向かった。
――数分後、夏奈実くんは父親の部屋からVRヘッドギアを持ってきて、私の頭にそのヘッドギアをセットした。
「ちょ……? 何も見えないんだけど!?」
セット時に目を瞑っていたので、目を開くとそこには闇が広がって何も見えない。一体どうなっているの!?
「セットアップしているからちょっと待ってな……。そろそろアーシェのヘッドギアに映像が映っていると思うんだけど……どうだ? 映った?」
「ちょっと待って……」
画面の方を見ると、じぃ……とローディング画面が映り始めた。
「うん、映ったよ」
「よし……これでネットに繋いで……」
カタカタとキーボードを操作する。一体キーボードを使って何の操作をしているんだろう?
「アーシェ、ゲーム画面が出たか?」
言われた通りにヘッドギア内に映る映像を見ると、古風レンガの建物がずらりと並んだゲーム画面が映り始めた。これは……異世界ファンタジーものかしら? まるでアスタリア王国に転送されたみたいだ。
「うん」
「よし」と夏奈実くんは相槌を打った。
「操作方法は……え、このゲームって意識をそのままゲームにダイブするものなの!?」
今映し出されているゲーム画面を見ると、ゲーム世界にダイブしますという文章が書かれていた事に私は驚きを感じた。こ、これはまさか……S〇Oの世界にもあったフルダイブ式のVRゲームですかッ! す、すごい……アニメで見たVRゲームが今ここで体験できるなんて……私、生きていてよかったぁぁぁッ!!
「まあね。アーシェにも楽しめるようにこのゲームにしたけど……いいかな?」
「うん、このゲームでいいよ!」
「わかった。じゃあ、俺もそのゲームに入る準備するから先にゲームにログインしておいて」
「りょーかい!」
私はそう言って、ゲームに画面の方を目に移した。
『ようこそ、グランベル・ファンタジーオンライン、通称・GFOへ』
ヘッドギアから機械じみた案内アナウンスが聞こえた。
『――ログインします。しばらくお待ちください……』
いよいよ……ゲームにダイブするんだ。すっごいドキドキする……よくアニメとかでゲームに入る前の主人公の気持ちっていつもこうなのかな……?
『ログイン成功――ゲームにダイブします――』
五感全てがゲーム内に引き込まれるような感覚が襲う。これが、VRMMOにダイブする前の感覚なのか? まあ、その感覚を味わったところでゲームの世界へダイブだ!
「ゲームの世界へ、レッツゴーッ!!」
ウキウキした気持ちで、私はゲームの世界へダイブした――
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