勇者を探していた女神が、気がついたら自堕落な生活を送っていた件
本渡りま
自堕落なプロローグ
――異世界転移、それはラノベとかでよくある話だ。
それに憧れて中二病にかかった奴は、「俺は異世界で勇者をやっていた」とか「異世界で手に入れた魔法」とか……周りからしたら滅茶苦茶な事を言っている
逆に異世界に飛ばされた奴は、モテモテだったり、ラッキースケベなイベントがあったり、世界を救ったり……、非リア充の俺にとっては何ともうらやましいことだろうに……。
けど、こんなのは全部フィクションに過ぎない。全部妄想の中の世界なのだから。どんな事でも、そんな非現実的な出来事は起こらない――そう思っていた。
そう、彼女――女神が現れるまでは……。
※
「ただいまー」
ガチャリとドアを開ける。俺の声が無人の家に木霊した。
(はぁ……今日の講義、マジで眠い。先生の話が子守唄に聞こえて仕方が無いんだけど)
学校が終わって、いつも通りの帰宅。なんてことない、通の光景だ。だけど、「お帰り」と返事をする人は誰もいなかった。
当然だ、今日は平日のお昼。両親は仕事に行っているし、妹も学校に行っている。
じゃあ、何で俺――
「……?」
誰もいない筈の家から、アニメの音声が聞こえる。もしかして不審者がアニメを見ている? ……なんて冗談。実は、二階に居るんだよ……女神と呼ばれた異世界人がね。
自室の隣部屋に、堕落した女神がいるんだ。さて、一体どんな状況なんだろう……?
『――じゃねぇぞ……。(希望ぉぉぉぉのぉぉぉ花ぁぁぁぁぁぁぁぁ!)』
部屋に入ると、異臭を放つゴミが無造作に散らばっている。あぁ、くせぇ……この前掃除したばっかりなのに何故短期間で散らばるんだ?
「おいおい、お前のトレードマークの衣装が汚れているじゃん」
目の前に、出会った時に着ていた羽衣のような衣装が落ちていたので拾う。埃と食べ物系の汚れが白い衣装を穢していた。全く……この汚れ落ちるのか?
「はぁ……何やっているんだよ、おい!」
目の前にいる自堕落女神を呼びかけるが、ヘットフォン付けているせいで気付いていない。ちらりと横から盗み見すると、クソコラ画像やMADで使われている名言セリフのアニメを見ながら、同時にマニアック向けのPCを操作していた。
「よっしゃぁぁッ! ついにHシーンに突入だぁッ! 待っていてね、さくらちゃん! お前の……その甘々な性格に対してお仕置きしないとねぇ……ぐふふっ!」
何のエロゲをやっているのだろうか……妹系のやつかな? そういや、最近「妹とハレンチ」と言うゲームが出たって書いてあった。多分、それかな?
そんな事はさておき、俺は「アーシェ!」とヘッドホンでも聞こえるように自堕落女神様の名を呼んだ。「なにぃ……夏奈実くん」とヘッドホンを外して、嫌々な返事をして俺の方へ視線を移した。
「いい加減に俺以外の勇者を探せよ……。自堕落している暇があるならよ」
「勇者探し? 私はあんたの答えを待っているの。それ以外の奴はみんな邪龍の手下よ。それに……わ、私と夏奈実くんって恋人で――あっ! うげへへへッ! さくらちゃん、もうすぐお兄ちゃんの(自主規制)を入れちゃうよッ! 魅惑の果実が露わになっちゃって……おにいちゃん、チューチュー赤ちゃんみたいに吸っちゃうからねぇッ!」
自宅の一室で自堕落に落ちた女神様が、適当な返事をして再びエロゲの方へ視線を戻した。てか、まだ俺の答えを待っているのか。それとエロゲに食いつく前に喋った言葉は何だよッ!
そう、こいつが女神――アーシェ・アーガリアの姿だ。ボサボサになった銀髪のロングヘアに、気怠くなった深い紺青の瞳。まるで日焼けという事を知らないような瑞々しく潤った白い肌で、異国の令嬢と思わせるような可憐な姿の少女。
だが、その可憐な姿とは裏腹にエロゲで出てくるヒロインが描かれたTシャツを身に纏い、四つのキーボードを、両腕両足を使って激しく打ち込んでいる。もうキーボードを見ずにカタカタ……と高速で打っている……タイピングマスター一級でも取れそうな気がする。
これは所謂、オタク……と言うのだろうか。完全にアニメやPCを大量に持っているのだから、ハマっている――そう言うしかあるまい。
「全く……部屋ぐらい片付けろよ。住み込みの分際で――よくもまあ自堕落な生活を送ってられるな」
「いいじゃん。だって、貴方の家族にここに住む事を認めてもらったんじゃん」
「あの時は本当に困っていたから、なんとか説得したんだぞ」
そう、女神――アーシェと初めて出会ったあの日、本当に困っていた様子だった。だから、俺の彼女として家に住み込む事にしたのだか……今となればすごく後悔している。
「はぁ……何でこんなことになったのかなぁ……」
思えば一ヶ月前――空から女神が落ちて頭部を殴打されたところから始まったんだよな……。
思い出したくないが、今一度出会ったあの日のことを振り返ってみた――
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