妹さんとの会話!(何も変哲のない会話です)
妹が加わり和やかな話を始める前に、妹がぎこちない様子で自己紹介し始める。
「あ、初めまして……葵(あおい)沙耶(さや)です。よろしくね、アーシェさん」
改めて紹介しよう、彼女は妹の沙耶だ。沖縄の海を連想させるようなコバルトブルーのショートヘアに、まん丸い宝石が埋め込まれたように煌めく翡翠色の瞳。誰にでも接しやすい温厚な性格で、結構気が強い性格だ。地元の高校に通う高校生で、学校の男子の中では「二次元美少女キャラキター、マジで可愛い」と噂されるほどの人気っぷりだとか(実際にその学校に通う友達の弟に聞きました)。
まあ、妹と言いながらも何処か日本人離れした美貌……。最初の頃は周りから拾い子だと思われても仕方がないが、万が一のためにDNA鑑定してもらってウチの家系という事は証明済みです。
「よろしくね、沙耶ちゃん。私の事、さん付けじゃなくて普通にちゃん付けで呼んでくれるとうれしいな」
「あ、じゃあ。これからアーシェちゃんって呼びますね」
「えぇ、よろしくね。沙耶ちゃん」
「はい」
和やかな空気――これが若い女子の会話だなぁ‥‥…と、俺は感心しながら眺める。口を挿むのは止めておこうかな。折角の女子だけの会話だから、女子の空気に混じらないようにしよう。
そう考えた俺は、二人の会話を聞きつつ買ったばかりの漫画の続きを読み始めた。
「アーシェちゃんって、ロシアの何処出身なの?」
「え、え、あぁ――――――モスクワです」
いきなりの質問で吃驚したアーシェは、俺の方に視点を向けていた。仕方がないので、とりあえず机の上に『モスクワ』と書いて、それを言っておけと伝える。
「へぇーモスクワなんだ! 行ってみたいなぁ……ホームステイが終わったらアーシェさんの実家に行ってもいい?」
「ふぇ……、あ、いいですよ。今度、パパとママに相談してみるね」
「やった! 早く行きたいなぁ……」
沙耶よ……。すまないがアーシェはロシア人じゃないから、彼女の実家には永遠に行けないからね。まあ、その事は絶対口が裂けても言えないけど……。
「じゃあ、次! アーシェちゃんの趣味って何?」
「え、えっと……。紅茶を飲みながら読書する事です!」
稀に口から出る凄まじい言動とは裏腹に、お嬢様みたいなおっとりした趣味だな……。
「私も読書好きなの! 何の本を読んでいるの?」
グイグイと接近する沙耶。アーシェは少し困惑した表情で沙耶を見る。
「好きな本――、私はアスタリア戦記という自伝小説が好きです」
「――あすたりあ、戦記? 聞いたことがないなぁ……。どんな本なの?」
「平凡の騎士と国の王女の半生を描いた小説なの。平凡の騎士は国の為に戦っていく中、王女様に恋心を抱いてしまうの。だけど、身分のせいで二人が出会うのは難しかった。姫様に出会うために、その騎士団の団長になったの」
へぇ……這い上がりのラブコメか……どこかのアニメ映画であったよな。
「そして騎士団の団長になれた彼は王女に出会える事ができたけど、公務で明け暮れる王女に告る事ができなかった――。とまあ、切ない恋心とその国で起きた戦の出来事を描いた作品です」
「……? まあ、あらすじを聞くと切ない恋と戦の物語――で間違いないよね?」
「あ、はい」
沙耶……絶対あらすじ分からなかっただろ……。まあ、俺もあらすじ聞いたけど全く理解できなかったし、人の事は言えないけど……。この事は、アーシェに黙っておこう。
「じゃあ、実家に行ったらその本を読ませてね!」
「あ、いえ……実は、今その本を持っているんですよ」
ふと思い出したアーシェは、羽衣のポケットから文庫本サイズの本を取り出した。何回も読み返したのだろう……表紙がボロボロになり、中身の紙がふやけている。今思ったけど、異世界の小説を見せても大丈夫だろうか……?
「この小説……何度も何度も読み返して、外でも家でも―――気が付けば日用品みたいに持っているんです」
「でも……これロシア語で書かれているんじゃ?」
「大丈夫です、この本は日本語翻訳版の小説なんですよ」
「へぇ……日本語翻訳出ているんだ……、今度ネットで調べて買おう!」
(多分、一生見つからないと思うが……)
内心で沙耶に向かって残念そうに呟く。
「ネットで買わなくてもいいのに……。あ、そうだ。この小説読んでみます?」
「貸して貰ってもいいんですか!」
「はい。何なら、これあげますよ。もう一冊、家にあるんで」
「えぇ―そんな……! 借りるだけでいいです!」
貰える――本好きの沙耶にとって好機だが、流石に初対面の人から貰うなんて狼狽えるよな……。
「んー、じゃあ。私と沙耶ちゃんの友情記念品としてのプレゼントとしてあげるね」
アーシェは、はいと沙耶に本を渡した。
沙耶は少しためらった様子で手を伸ばしていたが、アーシェが笑顔を見せた瞬間に沙耶は金縛りが解けたように本を手に取った。
「あ、ありがとうございます! 大切にしますね!」
太陽のような、柔らかい微笑み―――それを見た瞬間、アーシェは目をハート形になって見つめていた(昭和の漫画かッ! 古いんだけど!)。
沙耶は何が起こったの、と言わんばかりの表情で眺めた後、早速本の世界に飛び込んでいった。
「ひょわわわわっ……、か、可愛い! ねえ、夏奈実くん! 妹さん可愛い。天使が舞い降りたように可愛いぃぃぃ!」
「だろ、本当に天使が舞い降り――ん? と言うか、アーシェ。今、俺の名前を呼んだ?」
「え? 夏奈実くん? それが何か?」
「あぁ……いや、その名前で呼ぶんだ。俺の事……」
「あー、うん。さっき名前を知ったから呼んだけど、嫌だった?」
「そういや、まだ俺の名前言っていなかったっけ? まあ、正直すぐに居なくなくなるから言わなくてもよかった――なんて思っていたけど」
「はあっ!? 酷くない!?」
「しつこく勇者になろうって言っている、お前が一番酷いと思うんだが……」
ぐ……とアーシェは唇を噛み締めた。そうだよな、全部本当の事だもん。
「まあ、勢いでお前を泊めるようにしちゃったからなぁ……。しょうがない……自己紹介すっか……。じゃあ改めて――俺は葵夏奈実、よろしくな」
俺はアーシェの前に手を差し伸べる。
「えぇ、よろしくね。勇者――」
「ならんからな!」
「えぇー、せっかくいい空気になれたのにー! いっその事このまま勇者になっちゃおうよ!」
「ならんって言っているだろ! いい加減にその口を閉じないと追い出すぞ!」
「えー、こんな可愛い女の子を野宿させるつもりぃ? もし警察に捕まったら、追い出されたって言っちゃおうかなぁ~?」
ぐ……っ、何と言う汚い手を使うんだ、このクソアマ……!
俺はアーシェに向かってキッと睨みつける。――と、アーシェは俺の隣に座り込み、差し伸べた手を抱擁するように両手で握りしめた。
「まあ、いいわ。勇者になるまで、私はずっとここに居るから。……よろしくね」
万遍の笑みでアーシェは挨拶した。俺は光景を眺めた瞬間、トクンと心臓が跳ねた。まるで、隠していた可愛い本性が目覚めたような――そんな感じに見えた。
あれ……アーシェって、こんなに可愛かったっけ? いや、最初から可愛いけど……惚れてしまう程、可愛かったのか? なんだろう……今、アーシェを見ていると心拍が急上昇していく……。
「……ん? どうしたの? 顔を真っ赤に染めて――」
「――あ、いや……何でもない。少し眩暈がしただけだから」
思わず、アーシェの姿から視点を逸らす。
「さーて、寝るか。なんか具合悪い事だし」
そう言って、俺はアーシェから逃げるように布団に潜り込んだ。
「あ、こらっ! 逃げるなぁ!」
クソ……何だろう。アーシェの笑顔を見た瞬間、動悸が収まらない。いい加減収まって……そして寝て忘れよう……。
俺は、雑念を払うように目を瞑り深い眠りに入った――――
よろしくね、よろしくね、よろしくね――と、さっきから笑顔の映像が脳裏でループ再生している。まあ、これはアーシェが一人、二人……と羊を数えるみたいにしとけば寝られるだろう。よし、アーシェを羊に見立てて――
よろしくね、よろしくね、よろしくね、よろしくね、よろしくね、よろしくね、よろしくね、よろしくね、よろしくね――――
「――――って、寝れる訳ねぇだろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」
――と、掛け布団をひっくり返して絶叫していた。
「うるさああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああいッ!」
本にどっぷりハマっていたはずの沙耶が、俺の発狂に気づいて近くにあった野球ボールを全力投球で投げつけた。
「ぐほっ!?」
頭部を直撃し、俺はそのまま脳震盪を起こして気絶してしまった―――
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