アーシェと沙耶のプール遊び!②(水着を探してねって言われても、私には気に入った水着なんて……)←BYアーシェ

「まもなく終点、上御かみうみです。お出口は右側、全ての扉が開きます。お近くのドアからお降りください。新幹線、しなみ鉄道はお乗り換えです。本日も上御電鉄をご利用くださいましてありがとうございました」


 ワンマンアナウンスが鳴るとともに、電車はブレーキ音が響き始めていた。がたんごとんと揺れて、電車は終点の上御駅に到着した。


「上御、終点上御です。どなた様もお忘れ物――」


 可愛いアニメキャラボイスの駅放送が流れるとともに、私たちは高架ホームに降り立った。


「いやぁーあっつい! やっぱり電車で来て正解だった。歩いていくには嫌な温度だよ……」


 なんて沙耶ちゃんは、愚痴っていた。そりゃそうだ。この温度で歩くなんて自殺するようなもんだよ。


「まあ、それは置いといて――アーシェちゃん、めっちゃ可愛いよ!」


「そ、そうかなぁ……? 何かやたら男子の視線が痛々しかったけど……」


「それが可愛いって証拠だよ!」


 ……確かに、袖の無いフリルのある白いワンピースと私の顔立ちで可愛いと取られてもおかしくは無いのかな?


(……本当にシンプルな服でよかった。絶望のお着替えタイムで可愛さと派手さを兼ねそろえた服を強制的に着させるよりは、夏奈実くんが買ってくれた服の方がまだいいや)


 なんて、二〇分前に起こったあの絶望の服選びを終えた事に再び安堵の表情を浮かべてしまった。



 ――まあそんな事はさておき上御電鉄改札を抜けて、上御市の中心街から離れた川べりある大型デパートに向かった。沙耶ちゃん曰く、嘗てタバコ工場の跡地に駅前建っていたデパートを移転して、大規模にしたとか。そこに移転するまで無かったシネコンやフードサービス、文具店が並び、そこに前店舗から移転した洋服屋、スーパーマーケットなどが併設した複合デパートである。


「ひゃぁー涼しいぃ! さっきの暑さが嘘みたいに涼しいィィっ!」


 沙耶ちゃんはパタパタと服を扇って、暑さを和らいでいた。あ、ついでに私も扇いでおこう。ふぅ……涼しいィィ!


「だね――あっつい……」


 駅から徒歩五分の場所にあるとはいえ、猛暑真っ盛りの中に歩くのは五分でも限界に達してしまう。


「ねえ、少し休んでから水着を買いに行きましょうか?」


「ですね。私、へとへとです」


 とりあえず、駅口の入り口から数メートル先にあるフリースペースで休憩することにした。


「ふぅ……少しは気が楽になるぅ」


「ですね」


「――ねえ、アーシェちゃん。何か冷たいの飲む?」


「じゃ、あそこのアイスコーヒーの小さい方をお願いしてもいいですか?」


 私は、近くのサービスカウンタにあるコンビニコーヒーの方に指をさした。それを見た沙耶ちゃんは「わかった」と言って、コーヒーを買いに行った。


「お待たせ―、コーヒー買ってきたよ」


 アイスコーヒーを両手に持ち、片方を私に手渡した。勿論中身はブラックコーヒーだ。


「あ、砂糖とミルクは自分で入れてね」


 ポケットから砂糖とミルクを取り出して、テーブルの上に置いた。


「ありがとう。じゃあ、ミルクを入れて――」


 ミルクを入れてストローでグルグルとかき回し、すすっと飲んだ。

 うん、うまい。コーヒーのキレと程よいミルクの甘さ……、これが私の好きな味だ。やっぱり、この世界のコーヒーは美味いなぁ……。アスタリア王国のは酸味が強くて飲みにくいって言われているが、ここのコーヒーは酸味とコクがマッチしていてすごく飲みやすい。


「ぷはっ……おいし。そいやアーシェちゃん、ここのデパート来るのは初めてだっけ?」


 沙耶ちゃんは、コーヒーを置いて質問する。


「えぇ、初めて……と言うか、私の住んでいる場所にはこのような大きな建物なんて無かったのですよ」


「えぇー、マジで!?」


「え、まあ、その……はい」


「ねえねえ、そろそろ教えてよー。どんな場所なの? アーシェちゃんが住んでいる地域って!」


「あーいや……その、前も言ったはずですけど何も無い田舎ですよ。本当に」


「ほんとーかな? 何か一つはあるんじゃないのぉぉ?」


「いやいや、本当に何も無いですよ」


「んー? ……そうと捉えておくね」


 あれ、どうしたんだろう? 急に考えるのを止めるなんて……一体何を企んでいるんだろ……? まあ、考えるのは止めておこう。突っ込んだら、ボロ出そうで怖いし……。


「よし一息ついたところだし、水着コーナーに行きましょうか」


「え? ちょ……沙耶ちゃん、早すぎない? 私コーヒー飲み干して――」


 その声に聴いていない沙耶ちゃん。仕方がないので私は急いでコーヒーを飲み干して、沙耶ちゃんの後を追った。


              ※


 エスカレーターを上り、二階フロアの一角にある季節商品コーナーもとい水着コーナーに着く。そこには可愛いからシンプル、派手な色などたくさんの兼ねそろえた魅惑のある水着が並んでいた。


「うわぁー水着がたくさんありますね!」


「でしょ! アーシェちゃんにピッタリの水着があると思うよー」


 一個一個水着を見てみる。露出の多いもの、花柄で可愛いもの、シンプルなデザインなもの、スクール水着……など、多種類の水着が置いてあった。しかし、実際に見てみると可愛いなぁ……。あれもこれも、自分がこの水着を着ている姿を想像してみよう。……うわぁ……自分の姿を想像しているだけなのにめっちゃ可愛く見える。エロゲのやりすぎのせいなのか? エロゲなどで主人公と一緒に水着を買いに行くシーンがあるけど、その主人公の気持ちが分かったような気がする。確かにこれは眼福になるわ……。


「アーシェちゃん、大丈夫?」


「あ、ううん! 大丈夫よーあはははっ!」


 イケナイイケナイ……今は女の子の世界に居るんだ。エロゲじゃないんだ、しっかりとしなければ……。


「どうしよっかなー、去年はこれ買ったんだけどね」


 沙耶ちゃんは、胸元にフリルがついたちょっと可愛い水色のビキニを手に取って私に見せる。へぇ……フリルが着いているから単色でも

 可愛く見えるね。けど……何故か、胸のサイズが寂しいのはなんでだろう……?


「アーシェちゃん――――今年はね、これにしようと思うだけどどうかな?」


 ちょっと待って、沙耶ちゃん。静かな眼差ししながら強く睨んでいるんですけど……。え、まさか触れちゃいけないやつ?

 えっと……それは置いといて。今年の水着……フリルとかは無く意外とシンプルなビキニの水着だ。肩ひもは無いやつもあるんだ……これなら乙女の色気があるように見えるね。色は、オレンジの単色か……まあ、悪くはない。


「うーんどうかな?」


 沙耶ちゃんは水着を体に重ねて、鏡で姿を確認している。しかし、彼女はなんかしっくりこない表情をしていた。なんでだろう……これでも十分可愛いんだけどね。


「ちょっと試着してくるね。その間に自分が気になった水着を探してみて」


「う、うん」


 沙耶ちゃんは、そう言って近くにある試着室に向かっていった。

 しかしどうしよう……気になった水着なんて特にないし、一体どれが可愛いのかよく分からない。まあ、じっくり探してみるか。


(うーん。これと言ったイイのが無いなぁ……)


 さっき沙耶ちゃんが言っていた、去年の水着〈柄の違うやつ〉と今年買おうと思っている水着〈柄の違うやつ〉を手に取って、上から重ねて鏡で見てみた。

 けど、何か私にはフリルとシンプルの水着って似合わないんだよなぁ……。


(そういえば恋愛ゲームの水着衣装で、銀髪でも可愛く見える水着があったよな……)


 確か、パレオ型……と言っていたような。立ち絵姿は、下半身がスカートのような形をした水着だよな……。それ探してみよう。

 水着コーナーをチラチラと見回して、その型を探してみる。


(ビキニ……パンツ型……、あ、あった)


 コーナーの中間地点にお目当ての物が見つかった。数はそこそこ、色柄はたくさんある。この中から、私の好みの色があるだろうか?


「えっと……どの色がいいかな?」


 手探りに探してみる。私のイメージしている色は……。


「これかな?」


 私は、青色の水着と白と青の縞模様の入ったスカートがセットになった水着を手に取る。確か、銀髪の美少女と青色の水着って結構似合っているってネットの住民が言っていたっけ。そうと決まれば、早速試着してみよう。


「試着室は……あった。ここか」


 偶然にも近くに空いている試着に入り、カーテンを閉めた。

 ふふーん、と鼻歌を奏でながら、純白のワンピースを脱いだ。ポトリと下着も――


「ん……サイズは間違ってはいない」


 ささっと着替えて、今の全体像を見てみる。私が言うのもあれだけど、なんか艶めかしい姿だ……。でも、何だろう。本当にエロゲのヒロインみたいに可愛い。この姿を夏奈実くんに見せたらどんな反応するんだろう――って、なんで彼女気取りみたいに考えているのよおおおおおおっ!!


「お客様、お気に召すものありましたか?」


 カーテンの向こうから店員さんの声か聞こえた。あ、いかん! 変な妄想癖っぽいのが店員さんに見られたくない。とりあえず、店員さんを追い払わないと……。


「あ、はい! ありましたのでだいじょうぶですぅ!」


「そうですか。ではごゆっくり―――」


 そう言って、店員さんは明後日の方向へ行った。ふぅ……危機一髪。


(この水着、結構気に入った。これにしよう)


 試着した水着を脱ぎ、元のワンピース姿に戻る。


「そういえば……沙耶ちゃんは水着、決まったのかな?」


 様子見がてら、沙耶ちゃんがいるはずの試着室に向かった。


「沙耶ちゃん~~! 私水着決めたけど、沙耶ちゃんはまだ?」


「え、もう決めたの!? ちょまって……ふびゃん!?」


 ずごん、と重い音が試着室から聞こえた。沙耶ちゃんの身に何が……?


「沙耶ちゃん!? え、ちょっと……大丈夫!?」


 沙耶ちゃんに向かって声をかけるが、返事は無かった。


「沙耶ちゃん、沙耶ちゃん! ごめん、開けるよ!」


 さーとカーテンを開くと、そこに肘を抑えながら呻り声をあげる沙耶ちゃんがいた。そして床には白い何かが散乱していた。


「沙耶ちゃん! えっと……大丈夫?」


「え、えぇ……ちょっと床に滑って転んで腕をぶつけちゃった」


「ええっ!」


「大丈夫、ちょっと腕が痺れているだけだから」


 なんて言っているから、大丈夫か……。とりあえず、床に散らばっている白い何かを拾っておこう。


「あ! ちょ――」


 拾わないでと言おうとしたが、時はすでに遅し。私は手に取って、何かを確認した。少しくぼみのあるもので、柔らかい……これは一体?


「まさか……パット?」


 パット――それは貧乳の女子が巨乳に見せかけるための小道具である!


「――――――ッ!」


 キッ……と獲物を狙い定めるかのように私を睨み付ける沙耶ちゃん。なんでこんなに怒って――――あ。


「察するなぁぁぁぁッ!!」


 バチン、と私の頬を叩いた。あ、なるほど。彼女は胸を気にするタイプだったのか……。


「い、いいビンタだぜぇ……」


 エロゲの主人公の気持ちがよーくわかる。貧乳のヒロインの対応ってこんなにも難しいもんなんだなぁ……。


「はっ! ご、ごめんー! アーシェちゃん、大丈夫?」


 我に返った沙耶ちゃんは私の前に屈みこんで、介抱する。まあ、解放されるほど大したことじゃ無いけどね……。


「えぇ……大丈夫。あと、ごちそうさまです」


 ツンデレ貧乳沙耶ちゃんのビンタと、デレ顔……いただきましたぁぁぁッ!と、内心で叫んだ。


「ごちそうさま? まあ、うん……ありがとう」


 なんて疑問に思いながら、沙耶ちゃんは頷いた。


「まあ、いいからとりあえず立って。あとカーテン閉めて出てくれる?」


 なんでと、言おうとしたが、周りの様子を見てすぐに納得できた。

「おぉ……」と、数人の思春期男子学生がこちらの方を見ていたのだ。そういえば、今の沙耶ちゃんの姿ってブラがほどけて半裸の状態だ。あ、この状態じゃ痴女に見えるよね……。


「あ、ごめん……すぐに閉めるね」


 シャーと、カーテンを閉めた。そして男子学生は舌打ちをしてこの場から立ち去った。


(あ、立ち去った……)


「ごめん、アーシェちゃん。もう少し時間頂戴! 水着もう少し探したいわ」


「あ、うん、わかった。じゃあ、私はエスカレーターの近くのベンチに座っていますね」


「わかった。じゃあ、そこに居てね。すぐに終わらせるから!」


 そう言い残しを聞いて、私はベンチに向かって着いた瞬間に座り込んだ。


「あぎゃーーーーーッ! 足攣ったぁぁッッ!! パットがぁぁぁッ!」


 ちょっとだけ遠くに離れた試着室から、沙耶ちゃんの絶叫の声が店内に響き渡っていた。


「何やっているんだろ、沙耶ちゃん……」


 なんて呆れながら、私はその声を聞き流していた。


「おぎゃあああああっ!! 今度は体攣ったぁぁぁぁッ!!!! 運動しているのになんでぇぇぇぇッ!!」

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