この私、アーシェ様が説明しちゃいます!(中二病全開じゃねぇかよ……)

「ふぅ……お腹いっぱいだよぉ」


 アーシェは、ポン、と狸のように腹を叩く。お相撲さんに見えてしまった――なんてことはアーシェに言わないようにしておこう。


「で、夕飯食べ終わったら話があるって、一体何の話をするの?」


「そりゃ、勇者の事……かな」


「え! 今度こそアスタリア王国に赴いてくれるんですか!?」


「そんな訳ないだろ、絶対に勇者にならない」


 アーシェは期待をしていたが、まだ勇者にならない事を聞いてがっかりした様子だった。


「じゃあ、なんで勇者の事を聞くの?」


 アーシェの質問に、俺は考え込んだ。

 なんでだろう……? 勇者なんてやりたくないのに、なんで俺はアーシェに勇者の事を聞き出そうとしているんだろう。大体、なんでアーシェを家に泊まらせる発言したんだろう。全部勢い任せの発言だったのか……、それともアーシェの事が気がかりになったのか……。

正直、わからない。なんでアーシェを受け入れたのか、全く分からない……。なんで?


「気まぐれだよ。単なる」


 とりあえず、適当に誤魔化す。曖昧な答えを言うよりはマシだ。


「ふ~ん? 気まぐれね……まあ、そういう事にしておくよ」


 アーシェは何かを悟ったように、にやにやと微笑みながら俺の方を眺める。

 なんだ、気持ち悪い……。俺、なんか変な事を言ったのか?

 そんな話しているうちに、俺の部屋の前に着いていた。

 ドアを開け、部屋に入って電気をつける。

 散らかった部屋を足で軽く端の方へ寄せて、アーシェに座れるスペースを作った。


「まあ、適当に座りな」


 端に寄せてあった折り畳みのテーブルを広げて、部屋の真ん中に置いた。まあ、お茶ぐらい出しておくべきだと考えたので、すぐに置けるように広げました。

 アーシェは近くに置いてあった座布団を取り、テーブルの前に置いて座った。


「さて……何処から話そうかな?」


 俺もテーブルの前に座り込み、話の先陣を切った。


「じゃあ、私の自己紹介から始めた方がいいかしら?」


「却下、アーシェ・アーガリア。アスタリア王国を授かる女神。それだけでいいでしょ」


「むぅぅうっ! まだ自己紹介しきれていない部分もあるのよ!」


 と逆ギレ気味に言うアーシェ。えぇ……と言わんばかりな表情で見つめて、「わかった、続けてくれ」と言って話を続ける。


「むっふふっ! まだ紹介しきれていないのは――魔法さ!」


 ドーン、と顔を隠すように手を覆い被せて、もう片方の手を伸ばしたかっこいいポーズを決めるアーシェ。はたから見たら、ただの中二病にしか見えない……と内心で突っ込んだが、俺はその意味不明な行動をスルーして「それで?」と話を続けた。


「私の魔法は、呪文を唱えずに無限に魔法が使えるというチート能力があるの!」


「呪文を唱えずに――そういえば俺を結界閉じ込めた時、呪文とか言っていなかった……。もしかして――」


「そう! 呪文を唱えずに、すぐに結界を張り巡らせたのさ!」


「でも、予め結界を張り巡らせる魔法をスタンバっていたんじゃないのか?」


「む、疑っているの? じゃあ、今ここで魔法を見せるね!」


「少なくとも、住宅街ごとぶっ壊す魔法は無しな」


 わかったわ、と言って、アーシェは立つ。そして、マジックみたいに掌から炎を出した。


「……これって何かのトリックか? 掌の上に火炎放射器でもセットしているのか?」


「トリックなんて使ってないわよ! 大体、あんたが住宅街をぶっ壊すなって言われたから、小規模の魔法を発動させたんだよ!」


「あぁ……ごめん」


 まあ、小規模にするなら手ごろな魔法を使うよな。今回は俺が悪かった……。


「じゃあ、今度は中規模の魔法――疾風魔法(ゲール・マジック)を見せるね!」


「ゲール……って、なんだっけ?」


 すぅとアーシェが魔法を発動する前に、スマホの英単語アプリを開いた。


「ゲール……日訳では疾風――って! やめ――おわっ!?」


 やめろ――と言おうとした瞬間、魔法が発動してしまった!

 疾風の嵐が、俺の部屋を荒れ狂わせていた。まるで、台風が室内に入り込んだような地獄絵図のような光景だ。


「アーシェ! ストーップ! ストップさせろおおおおおおおおおおおおおっ!」


 地面に蹲る様に、風に飛ばされないように必死に踏ん張りながら俺は叫ぶ!


「あ、あれぇ……!? 小規模ぐらいに抑えたのに……なんでこんなに風が吹き――ごほっごほっ……」


 ぽかんとした表情でつぶやいた後、地面に膝をついて咳き込んでしまった。そして、抑えた手から血がべっとりと張り付いていた。


「お、おい! アーシェ! 血が!」


「あぁ……やば、無限に使えるなんて――」


 ブツブツと意味不明なことを言うアーシェに、俺は必死に呼ぶ。


「アーシェ! おい、返事しろ! 魔法を止めろ!」


「――――はっ! 魔法を止めないと」


 やっと俺の叫びに気づいたアーシェは、疾風魔法を止めた。


「ア、アーシェ! 大丈夫か!?」


 俺は風がやんだ瞬間、アーシェの傍によって介抱する。


「大丈夫よ……このくらい。ゴホッゴホッ……、言い忘れていたけど無限魔法を手に入れた私は代わりに肺が弱くなっちゃったの。まあ、この世界にある自動車の排気ガスなら何とか大丈夫だけど……ゴホッゴホッ」


 あぁ、あれか。魔眼を手に入れたら、代わりに記憶が欠落してしまうという奴か……。


「ま、まあ、大丈夫よ。とりあえず吐血してくるから」


 そう言って千鳥足でベランダの方へ向かっていった。気を使ってくれるのはいいが、庭を血だらけにしないでくれよ……。


「おべろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろおろろろろろろッ!」


 ベランダで嘔吐と思える声を響かせながら、吐血を始めるアーシェ。もうこれは吐血と言ってもいいのだろうか……、これ以上突っ込むのはやめておこう、頭が痛くなる。


「おまたせ~」


 すっごいスッキリした顔になって戻ってきた。気分が良くなったようで、何よりだな。


「無限魔法の対価か? よく吐血するのは」


「そうみたい……。十歳になって手に入れた魔法なんだけど、使うたびに肺がずきりと刺されたような感覚に陥るの」


「へぇ……絶対、無限魔法だけは手に入れないようにしよう」


「私も。最初は嬉しかったけど、今じゃちょっと後悔している……」


「お疲れ様です。まあ、話を変えよう。アスタリア王国について聞かせてくれるか?」


 話の話題を切り替え、アスタリア王国の事について聞こう。まあ、勇者になるつもりはないが、聞くだけ聞いておこう。


「アスタリア王国……ですか? 聞いたとして勇者になるつもり――」


「ない。百パーセント勇者にならない」


「ですよねぇ――。まあいいでしょう……アスタリア王国は多種人種が住み、魔法と神秘に満ちた島国です。争いごともなく平和な国だったのですが、数か月前に近くの海辺で封印されていた邪龍が復活したのです。今も、その邪龍を封じ込めるために戦って多くの犠牲者を出していますの……。どうにか、邪龍を倒し封印させる……その唯一の方法として勇者が邪龍を封じ込める手段なのです」


「それが、俺なのか?」


「はい、最近になって邪龍を封じ込めたと書かれた書物が見つかったの。『勇者が現し時、邪龍を封じ込めた――』と、そう書かれていました。必ず勇者が居ると――そう信じた私を含む王国の偉い人は、勇者を探し始めました。けど、わが国には勇者の素質を持つ人はいなかった……」


「それで王国の外に飛び出して、勇者を探していた――と。そして素質のある俺をアスタリア王国に送ろうとしたが、俺が嫌だって言って困っている――か」


「すごい、私が言おうとした事が分かるんですね!」


「――勇者になるという話なら、このぐらいの展開は大体予想がつく」


 アーシェは驚きの表情で言うが、俺は冷めたような口調で言う。


「まあ、要するに邪龍を封じ込めたければ勇者を呼んで来いって話だな」


「そうです! と言うわけで――――」


「ならんって言っているだろ! 大体、なんで俺の勇者の素質があるんだ? 普通の何も変哲もない一般人だぞ?」


「勇者になれる素質――それは、ある一定の数値を超えれば邪龍を倒せる勇者になれると書物に書かれていました。一つは魔力、二つは邪龍の反逆心、三つ目は草みたいにしつこい性格。それぞれ三つ同時に一定の数値を超えれば勇者として認められるんです。実際に探してみると、三つ同時に超えている人なんていないんですよねぇ~~。最低でも二つ超えて、ギリもう一つ届かなかったんだよねぇ~~」


 ……最後のしつこい性格っているのか、と内心で突っ込んだ。アーシェにその事を言ってもいいが、ややこしくなるからやめておこう。


「で、俺だけがその三つ同時に数値を超えていたって事なんだな」


「はい! でも、勇者にならないなら、また探すしかないんですよね……」


「まあ、そうなる訳だな」


「まあ、この世界は貴方以外、三つ同時に数値超えている人なんていないんですよ、実際」


「――――――あ? マヂで?」


「マジです」


 話を聞く限り、ヤバいわ。うん、「そんな訳ですから勇者になりましょう」と言いそうかもしれない。そうなる前に、追い出したほうがいいな。


「……やっぱ、お前を追い出そう。これ以上、変な虫に食いついたら困る」


「知っていますか? 私が居ないと、他の世界から虫食いが来て勇者になりましょうって勧誘されますよ?」


「――――やっぱ、まだ居て」


 変な虫食いが寄せ付くなら、まだアーシェが居た方がいいかもしれない。


「……まあ、俺が聞きたい事は全部聞けたかな?」


「そうですか……。説明聞いて勇者になる決意はできました?」


「しつこいようだけど、ならんからな」


「えぇー? なってくだ――――そうだ!」


 残念そうな表情から、ポンと思いついた表情に変化していた。一体に何を企んでいるだろう……。


「ホームステイの名目なら、この家に暫くは泊まるわけだよね」


「あ、あぁ……そうなるな」


「決めた! あなたが勇者になるって言うまでここに住み続けるわ!」


「――――――は?」


 なんて言った? ここに住み続ける……?


「ふざけんな! 言っただろう、俺は勇者にならねぇ! 年月経ってもその意志は絶対に変わらない!」


「へぇ――? じゃあ、なんで私を家に泊める事にしたのぉ?」


「気まぐれだよ!」


「まあいいわ。貴方が勇者にならないと言い続ける限り、私はずっと住み続けるからね」


「チッ……、最悪だ……本当に人生の中で厄日だな。……ん?」


 何かじっと睨んでいるような……強い視線を感じる。監視でもされている……?


(……もしかして?)


 俺は確認するために立ち上がり、廊下につながるドアの前に立つ。

 ドアノブを掴んで開くと、そこに妹の沙耶が立ち聞きしていた。 ドアノブを掴んで開くと、そこに妹の沙耶が立ち聞きしていた。


「――――何なっているんだ、沙耶」


「か、監視よ! お兄ちゃんが一線を越えないか確認していただけ!」


 ……妹の脳内が一八禁塗れになりすぎて、俺はドン引いてドアを閉めた。


「あ、待ってお兄ちゃん! 嘘だから! 冗談だから! お兄ちゃんが紳士なのは私も分かっているの! アーシェさんみたいに清楚女子に手を出していないことぐらい知っているから!」


 謝っているようだが、なんだか出鱈目の謝りのように聞こえてしまうような……。まあ、そんな事は置いといて、もう一度ドアを開く。


「沙耶、入りな。アーシェにお前の事知りたいって言っているみたいだから」


 うん、と言って沙耶は俺の部屋に入り込んだ。


 ――今夜は長話になりそうだ、と苦笑しながら、沙耶とアーシェが絡む姿を眺める。


 幸い明日、講義は入れていないから、思いっきり夜更かししよう。



 まだ、夜は長い。妹の沙耶を迎え入れ、和やかな話が始まった―――

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