アーシェとデート!?編

アーシェとデート!?編①(プールの後、俺の心は乱れていた)

 お盆も過ぎ、追試発表も過ぎた八月下旬……。小中高のみんなは夏休みが終わる事に絶望している時期に、俺は頭を空っぽにしていた。

 ……あのプールでアーシェの告白から数日が経った。未だに信じられない……アーシェが俺の事が好きなんて……。俺達の出会いは最悪なのにネトゲでの一件で俺に好意を抱いたアーシェだけど、俺はこの告白に納得できなかった……。


「あ……ぁ……」


 俺は気だるい気分を紛らわそうと呆然と窓越しに流れる雲を眺めていた。ゆらゆら……まるで船みたいにゆっくり流れる雲……あぁ……平和だなぁ。


「あーなにやっているんだろ……追試なんて無かったのに、何でこんなに気だるいんだろ……」


 二週間前、リゾートプールの休憩室でアーシェは俺に好きと告った。それ以降、俺は無気力になっていた。

 ……アーシェが、俺の事好き? 冗談よせよ……俺はアーシェの事なんて好きじゃない。勇者になってくださいってしつこく誘ってくるし、挙げ句の果てに家に住み込んで自堕落しているし……。こんな自堕落な美少女に好きになる要素がどこにある? 迷惑だし、早くアスタリア王国にかえれってんだ!


「なのに、なんなの? アーシェを追い出したくない、モヤモヤした気持ちは……」


 プールの出来事以降、俺は分からなくなっていた。アーシェを追い出したいのか、付き合いたいのか……。ずっと考えている内に二週間が経ってしまった。一体、俺は……。


「……チッ、気分転換に出掛けよう。ゲームなんてやってられねぇわ」


 数十分前に付けたPCの電源を落として、俺は出掛ける準備をする。財布と携帯、車の鍵と免許証……よし、三大貴重品を所持したから出掛けるか。

 俺はどこに行こうかなぁ……と考えながら部屋を出た。


「あ、夏奈実くん!」


「お兄ちゃん」


 ……部屋の入り口で、俺を待ち構えている様子の二人が現れた。はぁ……せっかくの気分転換がもうパァになりそうなんだけど。


「……何しているんだ、二人とも」


 とりあえず二人に質問する。


「アーシェちゃんに漫画を貸していたんだよ。ちょうどお兄ちゃんの部屋の前で渡したんだ」


 確かにアーシェの手には少女漫画の単行本を持っていた。一体なんの漫画だ?


「そう……」


 沙耶に相槌を打った後、俺は二人の間を通って部屋を出た。


「お兄ちゃん、何処か出掛けるの?」


「うん、ちょっと気分転換にドライブする」


「だったら、私も一緒に着いてきてもいいー?」


 でたよ……俺が出かけると、いつも連れてって言う。なんで……俺は一人でドライブしたいんだ。のんびりとアニメショップとエロゲを物色したいんだよ!


「私も行きたい、夏奈実くん!」


 え……アーシェも一緒に行きたいの? 今日は凌辱モノのエロゲを攻略するんじゃなかったの? 突然の事に俺は戸惑った。なんせ、今告白された人(+妹)と一緒に出掛けようと言っているのだから。


「あ……あぁ……うん……じゃあ、行こうか」


 俺は何かの圧に負けて二人を一緒に連れていく事にした。何かとは――俺にも詳しく言えないけど、アーシェと一緒に居ればこのモヤモヤした気持ちが解消されるのではないか……と、そう言う圧が俺に襲った。


「やったーッ! お兄ちゃん、出かけるなら隣町のイオンモールに行こうよ!」


「えーお前、ちょっと前に行ったばっかりだろ……」


「今日からあそこのイオンモールはリニューアルオープンするんだよ。そして、県内初出店のレディース服店に行きたい!」


 あぁ……そう言えば、こいつのファッションセンス高いんだよな。いい服があればすぐに購入してしまう程、服の拘りが強いんだよな。

 それに沙耶と服屋に行く事になると、いつも断りづらいんだよなぁ……。昔「嫌」って答えたら、勝手に女装させられた写真を町中にバラまくって脅された事あるし……その写真は見つからないし……。脅迫されるのも嫌だからイオンモールに行くとしよう。


「わかった、イオンモールに行こう」


「やったーッ! イオンモールぅぅぅ!!」


 すっごい楽しそうにスキップして、沙耶は自室に戻っていた。多分、お出掛けする為にお洒落な服に着替えるのだろ。まぁ……沙耶のお着替えは三〇分かかるから、今のうちにイオンモールまでのカーナビセッティングしよう。そう考えた俺は車の方へ向かった。


「えーと……イオンモール松門店を検索――あった、こいつを目的地に設定――と」


 ピッ……ピッ……とカーナビ設定を終えた後、一回エンジンを止めて家に戻った。アーシェと沙耶の様子を見に行く為だ。


「おーい、アーシェ! 沙耶! 準備できたかー?」


 二人を呼びかける。すると、「はーい」とアーシェの声が聞こえた。


「お待たせ―夏奈実くん!」


 純白なワンピースとピンク色のカーディガンを纏った姿でやってきたアーシェ。俺は今のアーシェの姿に見惚れてしまった。やばぁ……告られる前は普通に見えていたのに、好きって告られた後にこの服装を見るとめっちゃかわぇぇぇぇぇッ!!

 何なの……アーシェってこんなに可愛かったっけ? いつもエロゲしながら(自主規制)って部屋を汚して、俺の部屋で無防備な状態で寝たりしているクソ気怠そうな表情をする彼女が、こんなにもお淑やかな女性に変貌するんだぁぁぁぁぁぁぁッ!!


「夏奈実くん?」


 はっ……アーシェが名前を呼んでくれたおかげで我を取り戻した。一体どうしたんだ……告白されてから、アーシェを見る度に動悸が上昇して変な妄想に陥ってしまう現象が毎度毎度起こる。告白された男どもっていつもこんな気持ちに陥っているのかっ!?


「ねぇ、夏奈実くんってば!」


「はっ……あ、アーシェ……」


「私の顔、何かついている?」


「あ、あぁ……ううん、付いていないよ……はははははっ」


 グイっと顔を近づけてくるなッ! 俺はお前の告白のせいで、お前とどう接したらいいのかわからないんだ! だから近づいてくるなよっ!


「そ、そうだ、な……なんでドライブに一緒に行くって言ったんだ?」


 俺はアーシェに質問する。一緒にドライブに出掛けるなんて珍しかった。いつも、「エロゲやっているからいいわ」って拒否していたのに……なんでだ?


「え、だってあそこのイオンモールって同人誌の委託販売店があるでしょ。そこで新作エロゲをチェックしようと思って――」


「あーッ! 完全に俺と同じことを考えていたぁッ!」


 そうじゃんか……あそこのショッピングモールは、アニメショップと同人誌の委託販売店(エロゲショップ)がある場所じゃないか! と言うか、なんでアーシェがその情報を知っているんだ? 


「えっ! 夏奈実くんも新作エロゲ買おうと思っていたの!? じゃさ、先月発売した『俺の妹はすぐに裸になる』を買おうよ!」


「買わねぇよ……。それよりもアーシェ、何故エロゲショップがあるという事を知っているんだ?」


「沙耶ちゃんがイオンモールに出来た服屋に行きたいなーって話している時に、同人誌の委託販売店があった事に気づいたの。これはエロゲを変えるチャンスだって、自堕落女神センサーが反応したんだもん!」


 なんだよ……その自堕落女神センサーが反応したって。いきなりそこでアスタリア王国の女神の特権を堕落要素に使うなッ!と、内心で突っ込んだ。


「エロゲは買うけど、アーシェが欲しいエロゲは買わないからな」


「ガーンッ!! 買ってよーッ! 私、実の妹と一線を越えるエロゲがやりたいのッ!! ドM属性と甘々属性とツンデレ属性の三姉妹が主人公にアタックする展開のシナリオと原画のHシーンを見たいんだよおおっ!!」


「大声出すな、アーシェッ! エロゲエロゲって普通に言うもんじゃないわ!」


 ぽこんとアーシェの頭を叩いた。


「いったーッ! 急にたたかないでよぉぉっ!?」


「エロゲをこんな静かな住宅街で言うな。本当は隠した方がいいんだよ」


 エロゲエロゲって言うと、近所に変態に思われるわっ!


「むぅーっ……」


「エロゲって言うなら、さっさと車に乗れ。俺は火の元と沙耶の様子を見に行ってくる」


 いそいそと玄関を上がって台所にある給湯器の電源を確認する。うん、切っているな……後は沙耶の様子を見て行こう。あいつ、着替えはクソ長いからなぁ……。

 二階に上がって、沙耶の部屋の前に着く。そしてコンコンとドアをノックして、沙耶の様子を伺った。


「おーい、沙耶! 俺とアーシェはすぐに行けるぞー!」


「はーい、分かった――きゃあッ!?」


 短い悲鳴を上げた後、ドスンと言う鈍い音と揺れが起こった。なんだ……沙耶の身に何かあったのか?


「沙耶……? おい沙耶!」


 コンコン……コンコン……いくらノックしても、沙耶の応答がない。何が起こったのか……? 正当行為だ……すまん、沙耶!


「おい沙耶、ドア開けるぞ!」


 がちゃりとドアを開けて、沙耶の部屋に突入する。


「沙耶、大丈夫――――か――――」


 俺は沙耶の部屋に入った瞬間、見惚れるように体を固まってしまった。その光景とは、下着も全部脱いだ全裸姿の沙耶がブラジャーを足に引っ掛けた状態で仰向けにひっくり返っていた。


「ひょわっ!? お、お、おおおお、お、お兄ちゃん!?」


 俺が部屋に入った事に気づいた沙耶は動揺しながら起き上がって、またドスンと尻もちをついて転倒していた。


「……何やっているんだ、お前は」


 先に言っておくが、俺は変態ではないぞ。妹の全裸姿なんて、小さい時に一緒に風呂入ってみた事あるから何とも思わないんだけどね。


「ちょっ……変態! じっと見ないでよ! 着替えているんだから、お兄ちゃん出てって!」


 まだ成長途中の胸を押さえながら、沙耶はキッとアサシンのような瞳で俺を睨みつけた。うわぁ……怖い。この様子だと、エロゲイベントでよくある羞恥が爆発して近くの物を投げるかな……? その前に、俺は部屋を出よう。ずっとこの部屋に居たらマジでそうなりそうだから。


「す、すまん沙耶!」


 俺は逃げるように部屋を出た。はぁ……大丈夫かな? あいつ、一回ひっくり返ると何度かひっくり返るんだよな……不思議な事に。


「と、とりあえず、早く準備しろ! 俺とアーシェは何時でも出発できるからな!」


「わ、分かったわッ! えーと……早く早く、財布と化粧ポーチ、携帯、充電器にバッグに――あぎゃぁーっ!? また滑ったぁぁぁッ!!」


 ドゴン……とまた尻餅を地面に叩きつけたような音が響いた。何やっているんだよ……と何度も内心で突っ込んだ。


「おおおい! 早くしろよおっ! 昼飯時に着いたら、昼飯食えなくなるぞぉぉぉッ!!」


 コンコン……とノックして呼びかける。


「わかったぁぁぁぁぁぁぁぁッ!! またブラジャーが足に引掛かってぇぇぇぇッ!!」



 ――結局、沙耶のドジによって一時間ぐらい待たされる羽目になった。


「わぁぁぁぁぁん! また尻もち床に打ったぁぁぁッ!!」


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