アーシェとデート!?編②(普通にデートに行く場所ではないところを行きました)【R15】

「はぁ……やっと着いた」


 ぶるるん……と現実世界から隔離されたような暗い立体駐車場の3階に車を止めた。

 自宅から山の有料トンネルを抜けて二時間――イロンモールにたどり着いた。渋滞と山の上り下り……あぁ……きつい。それなのに、きゃきゃとガールズトークを繰り広げたアーシェと沙耶。羨ましいわ……俺は駐車場前の渋滞でイライラしていたのによぉぉぉッ!


「よっしゃー! 行くぜぇぇッ!」


 沙耶が子供のようにはしゃいだ後、全速力で店内の方へ向かって行った。子供かってツッコミを入れつつ、「待てよ、沙耶」と静止するように呼び掛けたが、もう沙耶は忍者の如く消えていた。


「何やっているんだ……あのバカ、高校生なんだから自重しろよ」


 ポリポリ……と頭を掻いて呆れた様子で消えゆく沙耶を見つめた。


「……なあ、アーシェ。なんでお前は沙耶と一緒に行かないんだ?」


 同じく俺の隣で呆れながら沙耶を眺めていたアーシェに質問した。


「えっと……置いて行かれました……」


「……あ、そう。とりあえず、中に入ろうか」


 俺とアーシェは普通に店内に入って、巨大ショッピングモール中の大きさに驚いてしまった。俺は初めて来店したけど、結構広いんだなぁ……これなら一日中歩き回っても全然飽きないなぁーこれは。


「ひょわわわわわわッ! すごいよ夏奈実くん! アスタリア王国にある商店街通りが沢山あるよぉぉぉぉッ!!」


 あ……アーシェ、お前もか。変なテンションではしゃいでいるんじゃねぇよ……。恥ずかしい……。しかも、こんな銀髪二次元美少女がはしゃいでいればなおさらだ。あぁ……付き添い人の気持ちになってくれや。めっちゃ恥ずかしいんだぞ。


「おい、アーシェ。とりあえず、アニメショップ行こうぜ……ここに居るのなんか嫌だ」


「ふえぇぇぇぇぇん! もう少し見させてぇぇぇぇぇッ」


 アーシェの首を引っ張って、イロンモール春風館から立ち去り、夏風館の方へ向かった。説明が遅れたが、このイロンモールは春風、夏風、秋風、冬風と言う名称の建物館がある。

 春風館はイロン直営店と専門店が立ち並ぶ――所謂本館のポジションみたいな場所だ。夏風館は家電量販店と書店、俺達がこれから向かうアニメショップと同人誌の委託販売店、ゲーセンが入っている。秋風館は一階と二階の一部にレストラン街、二階の一部と三階のフードコートが立ち並ぶ場所。冬風館は県内初のMX4DシアターとスクリーンX(270度スクリーン)が設置された映画館とカフェ店、お土産屋さんが立ち並んでいる。

 俺たちは、隣の夏風館にあるアニメショップと同人誌委託販売店へ向かった。連絡橋を通り、エスカレーター一つ下の二階フロアにアニメショップと同人誌委託販売店が合体した店舗がある。一旦アーシェと別れた後、先にアニメショップに向かった。新刊小説と漫画があるか確認しよう。


「えっと……新作小説、新作漫画……お、決裂(けつれつ)の鋼(はがね)の新刊が出ているじゃん!」


 早速決裂の鋼の新刊を手に取った。そしてちょっと前に興味を持ったラノベ原作の漫画を手に取る。ほいほい……ほいほい……新作漫画を手に取りすぎて、いつの間にか十冊以上持っていた。やべ……つい勢いで手に取ってしまった……まぁ、このぐらいの範囲ならエロゲを買えるからいいだろう。


「さーて、会計してエロゲ買いに行こう」


 レジの方へ行き、数十冊ほどある本の山を会計した。キャッシュレス決済で済ませた後、レシートに書かれた合計金額を眺めた。


「うげっ……五四七七円……かよ。ゲーム一本は買えちまう値段だぜ」


 はぁ……とちょっと痛い出費に溜息を溢して、隣に隣接する同人誌委託販売店へ向かった。先にアーシェが委託販売店に居るって言っていたのだが……どこにいるんだろう?

 同人誌委託販売店に入り、アーシェを探す。全年齢コーナーにアーシェの姿は居ない。ここも新作コミックとラノベが置いてある。けど、さっきのアニメショップでコミックとラノベを購入しちゃったから買わないけどね。


「さて……黒い暖簾の向こうにある、大人の園に行きますか――」


 デデンデンデデン……ととある名曲を脳内再生しながら一歩一歩進んで、暖簾をくぐった。幸い暖簾をくぐっている時に誰も見られずに済んでよかった……。見られたら、なんか恥ずかしいもん。

 そんな暖簾を潜っただけで恥ずかしい云々はさておき、暖簾を潜った先に大人の園コーナー(もとい、自主規制祭りのコーナー)がある。コミックや官能小説、アニメ――勿論忘れてはならない最新と中古のエロゲまで沢山揃っている。



(なお、これ以上説明すると各サイトの規定に引っかかりそうなので、カットします)



「おぉ……『貧乏姉妹の奉仕物語』の初回盤があるじゃん! ネットショップじゃ、ほぼ品切れだったのに中古品で売っているとは……」


 こんな感じで、ちょいとレアなエロゲも少し置いてあるのだ。


「中古品でレア物なのに二千円だと!? 安いじゃないか! お、こっちに『まちゅまろ屋さんと甘々物語』がある!『不器用な恋と文化祭』も、『スタディ&トゥデイ』まで! やばぁ……ほしいゲームが山ほどあるぜ!」

 ちょっとエロゲの中身を言うと、『まちゅまろ屋さんと甘々物語』はケーキ屋さんで働く主人公がバイトのヒロインと隣の店の和菓子屋さんで働くヒロイン……諸々のヒロインと共に寂れた商店街を活性化しようと奮闘する物語。途中で(自主規制)したり、キッチンで(自主規制)したり、(自主規制)したりと、活性化物語と言う割には意外とエッチシーンが多めのエロゲだ。


『不器用な恋と文化祭』は、幼馴染と部活仲間と後輩と生徒会長の四人のヒロインの誰かと付き合う事になるが、実はこの四人は少しだけポンコツなキャラだった。そして文化祭で劇をやる事となった主人公とヒロイン達は不器用から本物の恋に変わる学園ラブストーリーだ。勿論学園(自主規制)は必須。教室、トイレ、職員室、シャワールーム……よくよく学園ラブストーリーで出る定番な(自主規制)を楽しめる。しかも、このエロゲは結構リーズナブルな価格で買えると評判。


『スタディ&トゥデイ』は、これも学園ラブストーリーだ。恋愛経験ゼロの主人公が、個性が強い四人のヒロインの誰かと付き合う物語だ。ポニテかロングヘアで悩む黒髪ヒロインと貧乳を妬むヒロインと母性が強いヒロインとビッチなヒロイン……この中から好きなヒロインの好感度を上げてくっつけようというゲームだ。このゲームの初回盤は抱き枕が付いて来るというプレミアな奴だ。


 さて、ざっくりとエロゲのストーリーを説明したけど、どのゲームを買おうかな……? まちゅまろ屋は合法ロリのキャラの(自主規制)シーンを見てみたいし、不器用はストーリーが評判あるから一度読んでみたいんだよなぁ……。スタディ&トゥデイも個性豊かなヒロインとの(自主規制)シーンを見てみてぇ……。


「あぁ……悩むぅぅ! 俺はどれを買えばいいんだッ!」


「それだったら、『まちゅまろ屋さんと甘々物語』のほうがよくない? (自主規制)されたヒロインの姿見てみたいよねぇー!」


「だよねー! 『まちゅまろ屋さんと甘々物語』の(自主規制)に生クリームのっけて舐めるシーンってイイ――って、アーシェ!?」


 隣からひょっこりと音も無く現れたアーシェに、思わず驚いて一歩引いた。


「新刊コミック買ったの?」


「まあね。家に帰ったら読んでもいいぞ」


「やったーッ! 帰ったら読もー!」


 ははは……元気で何よりだな。こっちはあんまり元気じゃないけど。その元気を分けてほしいわ……。


「それよりもさ、何のゲーム買うつもりなのー!」


「まぁーまだ決まっていないだけど……どうしようかなーって悩んでいる」


 キョロキョロと眺めながら、エロゲの箱を手に取る。どうしようかなぁー紹介した四つのゲームを買いたいけど、『スタディ&トゥデイ』は発売されて間もないからちょっと割高なんだよね……限定版は。『不気味な恋と文化祭』も、最近出た廉価版とほぼ変わらない値段なんだよな……。ううん、悩むんだよなぁ……それ以外にも何か面白いゲーム無いかな?


「えーと……『アイサツ~挨拶から始まる同居生活~』、『(自主規制)オープンワールドへようこそ』、『ワガママプライド』、『アサシンハイスペック』――面白いかなぁ……? まぁ『アサシンハイスペック』はちょっと気になるな」


 俺は『アサシンハイスペック』の箱を手に取った。パッケージの表紙は、アサシンっぽい衣装に纏ったヒロイン五人が夜空を飛び回るかっこいいと可愛いが織り交ざった画期的な奴だ。


「えっと……ストーリーは――」


 箱をひっくり返してストーリーのあらすじを眺めた。


『ハイスペックな暗殺者を育て上げる教育機関『聖浅石学園』。そこに入学した超ハイスペックの主人公が、落ちこぼれの四人のヒロインの教育係をする事になる――』とまぁ、ざっくり言えばアサシン養成学校の学園ラブコメアクションAVゲームだな。

 確かにヒロインと教育をしながら、デートだったり、遊んだり、暗殺ミッションを繰り広げたり、(自主規制)したり……。大抵予測できるようなストーリーだけど、暗殺者の教育で繰り広げられるヒロインとの交流ってどんな感じだろう?


「『アサシンハイスペック』じゃん! 私、このゲームずっと気になっていたの! ラノベのイラストで高評価を貰っている有名イラストレーターさんが原画担当しているんだよね。あと、レビューは★四.五と高評価のストーリーだし、アニメ化企画も進行しているって」


 なんだと……このゲームってそんなに人気なのか? アーシェもやりたいって言っているから、俺もやってみるか……このゲーム。可愛いヒロインとシナリオが気になるしね。


「よし、これを買おう。うーんでも、一本じゃ物足りないからもう一本ゲーム買うか……」


 先ほど、欲しいと言っていた『まちゅまろ屋さんと甘々物語』のゲームを手に取る。


「まぁ、発売当初から欲しいって思っていたんだよな。よし、これに決めた」


 さーて会計に向かおう。さっさと買って、家に帰って早速インストールしとかなくては。


「おーい、アーシェ。会計に行くから先に店の外に出てくれ」


「えーッ! これで終わりなのぉぉぉぉッ!? もう少し見ていきたいよぉぉぉぉッ!」


「ダメだ。さっき漫画と小説を買ってちょっと予算オーバーしているんだ」


「そんなぁぁぁぁッ!」


「そんな訳だ、とっとと店に出るぞ。さっきから一人男性客の視点が痛く伝わるんだよ」


「……え?」


 アーシェはキョロキョロと周囲を見回し始める。どうやら、ヲタクや中年独身者っぽい人が数人いるのに、男女混合でこのコーナーに入っている事が不思議すぎて視点をこっちに集中されている事に気が付かなかったのだろう。


「うへぇ……きもっ――」


「失礼な事言うな」と言って、アーシェの頭をチョップした。


「いたぁっ!? もうわかったよ。行こう夏奈実くん」


「判ればよろしい」


 たた……と俺とアーシェは逃げるように大人の園コーナーを抜けだした。


「それじゃ、私は先に外のソファーで待っているからね」


「おう」と相槌を打って、俺は会計の方に向かった。前の数人の会計が終わり、やっと俺の番になった。


「お会計、六四五〇円になりまーす」


「ペイペリで」


 ぱっぱとスマホ決済画面を開いて、店員さんに見せた。


「レシートのお返しです、ありがとうございました」


 レシートを貰って商品が入った黒い袋に突っ込んだ後、アーシェが待つところへ向かった。


(はぁ……今日の出費は一万ぐらいか……思った以上に痛いな。しばらくはコミックとゲームを買うのを控えよう)


 少しずつ減っていく小遣いの事を考えていたら、はぁ……ため息を溢した。まぁ、こればかりは自分がいけないんだからしょうがないんだけどね。とりあえず、アーシェと合流――


「――ん? アーシェ?」


 アーシェが待つ場所に着くと、アーシェを取り囲む男たちの姿があった。


「ねえ、俺と一緒にデートしないか?」


「何言っているんですか、ぼ、僕とっ、デートしてッ!」


「可愛い君に、この素晴らしい花をあげよう」


 あ、これってアーシェのやつナンパされているのか? まぁ、アーシェって容姿が二次元美少女キャラだもんな……ヲタクやら眼鏡ボーイやらチャラい奴やら、モテモテだなアーシェ。


「ちょ……私、待ち人が居るんですよ!」


「いいじゃん、少しだけ付き合ってよ。待ち人が来るの少し先でしょ?」


「僕ちんの方が楽しいですよ!」


「あぁ……貴方の待ち人は何をしているのやら――」


 うざってーセリフを吐きやががって。とりあえず、アーシェを守らないと。他の男に取られるだけは避けなければ……!


「アーシェ」


 俺は彼女の名前を呼んだ。


「夏奈実くん!」


 たたたっと男たちの間をすり抜けて、俺にむぎゅむぎゅ……と少し強めに抱きついた。


「ちょ……アーシェ」


 むにゅんむにゅん……俺の体にアーシェの豊満な果実が当たっているぅぅぅぅっ! 自分の息子がッ! ヤバい状況なんですけどッ!


「怖かったよぉぉッ! 私っ……」


「そうかそうか……怖かったか。あ、ごめんなさいね俺が彼女の待ち人なんで」


 男たちにそう伝えると、舌打ちしてこの場から去った。舌打ちは止めて……ぶん殴りたくなるから。


「まったく……アーシェ、こう言う男どもに付いて行くなよ」


「うん、うん……どうすればいいのか分からなかったよ」


「そうかそうか――」


 ポンポンとアーシェの頭を優しく撫でた。……あれ、今気づいたけどこのシチュエーションって恋人がやる事じゃないのか? と言うか、俺ってアーシェの告白に戸惑っていたのに普通に接しているんだけど。まぁ……いっか、距離を避けるよりいつも通りに接した方がいいな。


「おねえちゃんたちって、つきあっているの!?」


 なんて考えていたら、見知らぬ女の子が質問してきた。ストレートに言うなッ……と脳内で突っ込み、どう答えたらいいのか考え始めた。


「うん、私たちラブラブに付き合っているのよ!」


 ちょ……アーシェさん! 俺まだ納得していないのに、そんな事言わないでくださいよッ!


「ヒューヒューおねえちゃんたち熱々だね!」


 あぁ……恥ずかしい。なんでこんな子供に恥ずかしい事を言われなきゃならんのだ?


「えへへへっ、ラブラブだって夏奈実くん」


 アーシェさん……ピュアな瞳で言わないでくれませんかね?


「あ、あぁうん。そ、そうだよ、俺達めっちゃラブラブなんだ。なーアーシェ?」


「うん! 私、夏奈実くんの事好きなんだ。この前、告白して付き合い始めたんだ」


「そ、そうだもんねー」


 あはははと笑い飛ばす俺……もう、どうでもいいや。


「な、なぁアーシェ。とりあえず、昼飯食べに行かないか? お腹すいただろ?」


「そうだね! ご飯を食べに行こう」


 たたた……と俺達は女の子から逃げるように、昼食を取るために隣の秋風館へ向かった。


(さーて、何食べようかなぁー?)

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