第28話 浮気?
ボランティア部の皆と海に行く約束をした晩のことである。その日は妹の澪が夕飯を作りに来てくれていた。
「なんか毎週悪いな。受験勉強もあるだろうに」
「気にしないで。ここに来るのは息抜きみたいなものだし」
澪はエプロンを着けながら答える。
彼女は中学三年生。受験の天王山とも呼ばれる夏休みは彼女らにとって大切な時期である筈なのに、澪は休み関係なく毎週来てくれると言っていた。
澪の第一志望校は俺の通う四季高なんだそうだ。四季高は県内でも五本の指に入る進学校だが、彼女の学力なら余裕なのだろう。俺は死にもの狂いで勉強したんだが……。
「今日の献立はなんだ?」
リビングと台所を繋ぐカウンターから調理を始めている澪に質問する。夏でどんなに暑かろうとだろうが関係なく腹は減る。
「ガパオライスだよ。昨日テレビでタイの特集やってて、タレントさんが食べてるの見たら無性に食べたくなっちゃって」
「ガパオライス……どんなだっけ?」
「知らないの? じゃあ出来てからのお楽しみ~♪ あ、調べちゃダメだよ?」
「はいはい、楽しみに待ってるよ」
そう言って、リビングに戻る。ここにはテレビやオーディオは置いていないので、澪が台所で作業している音しか聞こえてこない。
~~~♪
突如、俺のスマホから部屋に鳴り響く吹奏楽の名曲『エル・カミーノ・レアル』。俺が最近スマホの着信音に設定した曲だ。
発信者の名前を見ると関本夏恋と表示されていた。
「もしもし?」
『あ、悠? こんばんは。……今大丈夫だった?』
「大丈夫。それよりどうしたんだ、電話なんて珍しいな」
『うん、声聞きたいなと思って』
「そういうことは恋人同士で言うもんじゃないか……?」
『いいの!! ……あのさ、明日って空いてる? 買い物に付き合って欲しいの』
「まあ空いてるし、良いよ」
『ホントに!? ありがとう!』
「何買うの? 重いものか?」
男が呼ばれる理由は大体が荷物持ち。漫画で見たことがある。
『違うよ。えっと……み、水着を一緒に選んで欲しいなー……なんて』
「……へ?」
今なんて言った? 俺の聞き間違いじゃなければ夏恋の水着を選びに行くってこと……!?
「ほ、他に誰を誘うんだ?」
『私達だけだよ。嫌……?』
「嫌なわけではない! 」
『良かった! じゃあ明日の正午に駅前集合ね!』
そう言って夏恋は電話を切った。あんな聞き方されたら断れる筈がない……。
「誰と電話してたの?」
澪がポテトサラダの入ったボウルと小皿2つをテーブルに置く。俺に取り分けておけということだろう。
「ああ、部活の仲間だよ。明日買い物に付き合って欲しいって話だった」
「ふーん……それって女子?」
「そうだけど……?」
冷たい目線を浴びせてくる澪。
「浮気は駄目だよ……?」
「わ、分かってるよ!」
彼女の言う浮気は駄目とは恐らく、俺には茅秋がいるだろという意味だろう。澪は俺に茅秋ではない婚約者がいることを知らないのだ。
「なんで私が居るのに次々と……」
「え? 澪?」
「それ! 取り分けておいて!」
「あ、ああ……」
今のはきっと聞き間違いだろ……
────────────────────
次の日、少し時間に余裕を持って行ったのだが夏恋は既にそわそわとしながら待っていた。
「随分早いな? まだ時間前なのに」
「悠! なんか居ても立っても居られなくて……」
気持ちは分かる。約束の時間より少し前に準備が終わったりすると時が進むのが遅く感じてしまう。
「おしゃれしてみたんだけど、どうかな?」
「うん、可愛いんじゃないでしょうか……」
両肩が開いたオープンショルダーの白のトップスに、裾のフリルが印象的な白のタイトスカートを纏っていた。こういうのガーリー?っていうんだった気がする。
俺が服装を褒めたことで夏恋は更にご機嫌になった。
「じゃあ行こっか!」
「うん。でも先に何か食べないか? 腹減ったし」
「いいよ。どこで食べる?」
……まずい、何も考えてなかった。何処が人気とか分からないしなぁ……あ、そういえば昨日、澪が駅の中にスープパスタが美味しい店があるって言ってたな。
「スパゲティで大丈夫?」
「うん! 好きだよ」
「良かった。駅に美味しいスパゲティ専門店があるらしいから、そこに行こう」
「はーい♪」
目的地は駅の出入口から入ってすぐ横にあった。
人気店ということもあり、数人が店前で並んでいた。最後尾に並び、夏恋と世間話をしながら待っていたが、思っていたより早く案内される。
二人とも当店オススメと書かれた特性スープスパゲティを頼んだ。オススメなら間違いないだろう。
「スープパスタって初めてかも。正しい食べ方ってあるのかな?」
「スープパスタがメジャーに出回ってるのって日本くらいらしいからあまり堅苦しいマナーな無いんじゃないかな? 普通のスパゲティと同じ食べ方で大丈夫だと思うよ。スープを飲むときはスプーンに持ちかえれば良いだけだし」
「そうなんだ! 詳しいね!」
「ま、まあな……」
親父がグルメだったから、その影響で小さい頃から色んなものを食べる機会が多かっただけである。マナーもうるさく言われてたしな。
親父のことは嫌いだが、こういうことには感謝している。
「あっ、来たよ! 美味しそう!」
運ばれてきたオススメのパスタとはベーコン、シメジ、玉ねぎが入ったクリームスープパスタだった。粗めのブラックペッパーがアクセントになっており、香りだけでもう美味しい。
食べ始めると、俺達はその味の虜になり、黙々とあっという間食べてしまった。
「ふぅ……美味かったな……」
「そうだね~。通っちゃうかも」
「ははっ、確かに。今度は皆も誘って来よう」
特に涼や伊深さんはこの美味しさに驚くだろうな。
「さっ、そろそろ行こうか」
「うん!」
割り勘で良いと言い張る夏恋を無視して俺が会計をし、本来の目的である駅に併設された大型ショッピングモールへと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます