第13話 ビラ配り

「出来たー!!」



依頼BOXを高く掲げて喜ぶ夏恋。

俺と涼が交代で作った木箱に、夏恋が彼女の好きな青色や白色などで塗装し、最後に木箱の中心に『ボランティア部依頼BOX』と記して完成。



「なかなか上手くできたわね。」


「素敵なデザインね!」



ポスター担当の茅秋と滝野も完成したBOXを見て嬉しそうにしていた。


あ、因みに昨日メールで滝野に『部活仲間なのにさん付けで呼ぶの何か気持ち悪いからやめて』と言われたので『滝野』と呼んでいる。



「滝野、そっちの方はどうだ?」


「終わってるよ。あとは地域に貼ってもらったり、配って回るだけ。ポスターの他にもA4のビラもあるの。」


「流石だな。じゃあ職員室前に依頼BOXを設置して皆で配りに行こう!」


「「「「おぉーー!!」」」」



ようやく部活らしくなってきた!


予め、先生に設置の許可をもらっていた場所へ依頼BOXと用紙を机の上に置いた。



「学校用のビラもあるから貼っておきましょ?」



滝野がBOXの近くの壁にテープで貼った。


この様子を眺めていた先生や生徒がビラを見て、楽しそうに話している。

これで依頼も来やすくなっただろう。




────────────────────

地域へのビラ配りやポスター貼りのお願いは滝野、夏恋、涼の3人、俺と茅秋の2人に分かれて行うことにした。


滝野チームは商店街や公民館、市役所にポスター貼りのお願いを、俺チームは先生が事前に警察へ許可を貰っていた駅前でビラを配ることになった。




駅前は帰宅する会社員や学生、買い物袋を持ったご婦人が歩いていた。


あくまで地域からは団体での依頼しか受け付けることが出来ないので配る人は選ぶべきか…? 祭りなどの運営している人を判別出来れば良いんだが……。



「茅秋、どうする?」


「うーん…会社員さんとか小学生を連れたお母さんを狙ったほうが良いのかな?会社員さんは珠に少人数でゴミ拾いしてるの見掛けるし、お母さん方ならPTA行事とかで人手が必要になるだろうし。」


「なるほど…じゃあそうするか。俺は駅の北口に行くから茅秋は南口を頼む。」


「うん!どっちが早く終わるか競争ね!」


「なんか今、昔遊んだ時のことを思い出した…」


「ふふ。そうだね!」





────────────────────


北口に行くとタイミングよく沢山の人がいた。



「四季高ボランティア部でーす。人手不足でお困りでしたらお手伝いしまーす。よろしくお願いしまーす。」



断られる覚悟でビラも配るが、結構もらってくれる人が多い。特に奥様方……。ちらほらと他校の女子高生のグループがきゃーきゃー言いながら自ら貰いにくることがあった。

…そんなにビラ貰って嬉しいのか?珍しいな。



そんなこんなで一時間程度でビラを配り終えた。

茅秋の方はどうだろう。



俺は南口にまわり、茅秋の様子を見に行くと……かなり面倒なことになっていた。



「君、めちゃくちゃ可愛いね。四季高?名前教えてよ!」


「…え、えっと……」


「それ配ってんの?手伝うからさ、この後俺らとお茶しようぜ?」



茅秋に絡んでいるのは市内で最も評判の悪いと有名な高校の男子生徒3名だった。



「茅秋!」


「あ!悠くん!!」



すぐ俺に気付いて、彼等から逃げるように駆け寄って来た。



「んだよ。男連れかよ…。」


「つまんねー。行こうぜ?」



3人は俺を見て、潔く去ってくれた。



「…諦めの良い奴等で良かったな?」


「うん…。」



茅秋は肩を震わせていた。怖かったのだろう。



「ごめん、1人にして。大丈夫だったか?」


「うん。悠くんが来てくれて良かった…」



そう言って茅秋はへなへなとその場に腰を抜かしてしまった。


茅秋をベンチに座らせ、すぐそばで彼女の分のビラを配った。



「悠くん、ありがとう。」


「どういたしまして。さ、学校に戻って滝野達と合流しよう。」


「…私まだフラフラだから……その…て、手を…」



顔を真っ赤にした彼女の言おうとしていることがすぐに分かった。…ま、良いか。幼馴染だし。

指つんつんして照れてる茅秋に右手を伸ばす。



「…ほれ。」


「…!あ、ありがとう…!」


「あいつらに見られると面倒だから学校の少し前までな。」


「うん!」



茅秋は嬉しそうに立ち上がって俺の右手を握った。

全然フラフラしてないことに気付いたが、まあ、ここは怖い思いをしたご褒美ということで。



昔もこうして手を繋いで歩いたのを思い出した。

確かあの時は、吠える中型犬に驚き、腰を抜かした茅秋を助けたのだ。

……何だかさっきのシチュエーションと同じだな。



「悠くん、何でニコニコしてるの?」


「…いや、昔もこういうことあったなぁって。」


「覚えててくれてたの!?」


「茅秋も覚えてるのか?」


「当たり前だよ!悠くんとの思い出は全部日記にして残してあるから。」



まさかそんなに茅秋が俺と過ごした時間を大切にしていてくれていたとは……。


そんな茅秋を俺は裏切った…


横を歩いている幸せそうな茅秋を見ると一層胸が締め付けられた。




いつか茅秋にも本当のこと…俺達が結ばれる日は来ないことを教えなくては…

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