第14話 初依頼…?
授業が終わり、特に用は無いが部室に向かう。
茅秋と滝野は用事があると帰り、涼は日直で遅れてくると言っていたので最初は俺と夏恋の2人きりである。
部室の扉を開くと、夏恋がノートを開いて何か書いていた。
「早いな。何してたんだ?」
「数学の課題。明日、授業の始めに当てるからって言われて……」
「そういや言われてたな。」
「助けて悠ー! 数学苦手なの!」
俺の手を両手で掴み、泣きそうな顔で縋ってくる。
……まあ、良いだろう。教えれば俺も勉強になるし。
夏恋にどこが分からないか聞くと、かなり基本的なところから理解できていなかったので、授業でやったことを俺流に噛み砕いて説明した。
「──って感じて解くんだけど……分かった?」
「すごい! 解けた! 悠って教えるの上手だね?」
「先生の授業、少し難しいから多分理解できてないのは夏恋だけじゃないと思うよ。俺は自分の参考書で予習してたから分かったけど。」
「それでもすごい! ……ねぇ、中間考査のときも教えて欲しいな?」
「いいよ。教えると思えば俺も手抜けないし。」
「やった! ありがとう! 」
…コンコン!
部屋にノック音が響いた。涼か? いや、あいつはノックなんかしない。もしかして記念すべき初依頼者か!?
「どうぞー? 」
「失礼しまーす……」
「三浦先輩!?」
静か扉を開け、顔を覗かせたのは三浦先輩だった。
「いたいた! 悠くん!」
「どうかしたんですか?」
「さっき店長から電話きて、明日1人休み出たから誰か代わりを探してくれって言われたの。……悠くん明日入れる?」
「もちろんOKです!」
「良かった! ありがとう! それじゃまた明日ねー。」
そう言って、三浦先輩は手を振りながらその場を後にした。
横を見ると夏恋がキョトンとしていた。
「あの人って上級生だよね…? 知り合いなの?」
そうか、夏恋は知らないのか。というより夏恋は俺がバイトしてることも知らないのか。
「あの人は俺のバイトの先輩で、三浦小春さん。」
「そうなんだ……綺麗な人だね……」
「どうかしたか?」
「ううん! ……何でもない。」
ガラガラッ!! 勢いよく扉が開く。
「おい! 聞いてくれ!」
「何だ、涼。もっと静かに入ってこいよ。」
遅刻してきた涼は息を切らしていた。
「それどころじゃないんだよ! これを見ろ!」
「紙?」
「あ! もしかして依頼が届いてたの?」
夏恋の予想は当たりらしく、涼は笑顔でサムズアップをした。
「中はもう見たのか?」
「いや、まだだ。」
「よし。じゃあ皆で見よう。」
涼から紙を受け取り、長机の真ん中で開いた。
そわそわしながら夏恋も隣から覗き込む。
『依頼者:教頭 / 依頼内容:教材を西昇降口から第三講義室まで運んで下さい。』
最初の依頼者はまさかの教員かよ……
あまりの意外さに3人とも沈黙する。
「ま、まあ……依頼は依頼だ。日時は今日だし、行こうか。」
「そ、そうだね……。」
────────────────────
「これは大変そうだな……。」
3人で西昇降口に向かうと、そこにはとんでもない量の段ボールが積み上げられていた。
第三講義室は4階の東側にある。つまり、3人でやるには過酷過ぎる依頼だった。
「お、来ましたね! ではよろしくお願いします。」
俺達が途方もない作業にやる前から呆然としていると、後ろからやって来た白髪混じりの髪をした、小太りの先生──西山教頭が一声掛けて、すぐに去った。
「やるしかない! 頑張ろ!」
夏恋が袖を捲って気合いを入れる。
こういう重労働は男が頑張らなくてはならない……!
俺達は40箱はある段ボールを1つずつ運び出した。
────作業から二時間。ようやく作業が終わり、窓の向こう側の空はすっかり茜色に染まっていた。
「お疲れ様です。おかげで助かりました。」
職員室へ教頭に終了の報告をすると、それだけ言われて職員会議があるからと閉め出された。
部室で帰る準備をしながら涼が口を開く。
「結構頑張ったのにあんな対応されるとモチベーション下がるな……。」
「だね……別にお礼が欲しくてボランティアやってるわけじゃないけど、流石に……。」
疲れきった夏恋が椅子の上でぐったりしながら答える。
正直、今日茅秋がいなくて正解だった。彼女はああ見えて正義感が強いので、あの教頭の態度を見たら怒り心頭に発しただろう。
でも、今回の依頼は一応初依頼なので部長の彼女に報告しないわけにはいかない。
……とりあえず先に帰って少し寝よ……。
こうして待ちに待った俺達の初依頼は無事達成した。
少々腑に落ちないこともあったが……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます