第18話 茅秋は憂鬱?
茅秋の様子の変化は体調不良が原因ではない。
夜、狭いテントの中で涼に滝野さんへの愛を延々と語られている時にふと思った。そう確信したの夕飯の時に彼女は普通に沢山食べていた。茅秋は細いのに昔から沢山食べる。
ということは彼女にとって何かショックなことがあったと考えるのが妥当だろう。
それにしても、昨日までいつもの明るい茅秋だったはずなのに、今日になって急に様子がおかしくなったのか。記憶をいくら辿ってもその原因は分からない。
「なぁ、涼。今日、茅秋に何か言ったりしたか?」
「………」
返事がない。スマホの画面の明かりで涼の顔を照らすと、彼は目を閉じて小さく寝息を立てていた。
「寝るの急すぎるだろ……」
俺は茅秋の様子が気になって眠れそうにない。
夜風にでも吹かれてくるか……
そう思い、テントから出る。真っ暗かと思ったが、外は月明かりで思っていたより明るかった。
川の方へ行くと大きな石に座っている先客がいた。向こうも俺の足音に気付いて振り返る。近づくと、そこに居たのは茅秋だった。
「あ、悠くん……」
「茅秋。お前も風に当たりに来たのか?」
「うん……そんなとこ……」
そして沈黙する。ただ川の流れる音を聞きながら月を眺めていた。
「……なぁ、今日どうしたんだ? ずっと元気ないみたいだったけど」
「大丈夫。気にしないで」
「大丈夫じゃないだろ。悩みがあるなら聞くから。話してみ?」
「ホントに何もないの……ただ、少し怖くて……」
「怖い?」
「私は選ばれないのかなーって……」
選ばれない?
「ねえ…幼い頃、結婚しようって言ったのに……どうして私が一番じゃないの……?」
「……え?」
「……急にごめんね、変な事聞いちゃって。私そろそろ戻る」
そう言って茅秋はテントの方へと去っていく。
結局、茅秋になんで暗くなってしまったのか聞き出すことは出来なかった。
「俺も戻るか……」
明日こそ原因が分かれば良いのだが……
────────────────────
テントに戻ると、寝袋の上に置いていったスマホを見る。なんと通知が10件。普段、こんなに通知を溜めることがないので驚いた。
送り主は澪。「なんで帰ってこないの?」、「もしかして夕飯要らないの?」、「無視すんな!」
「お兄ちゃーん」など、短い文章が5分おきくらいに送られて来ていた。
そういえば、澪に林間学校へ行くことを言い忘れていた。
澪は度々、俺の家へ夕飯を作りに来てくれる。受験生なんだから頻繁に来なくて大丈夫だと言っても、お兄ちゃんがちゃんと食べてるか心配で勉強に集中出来ないと言うのだ。
今も俺の家で待っているのだろうか……スマホの左上にある時計を見ると既に午後九時を過ぎていた。この時間に中学生女子を1人で帰らせるのは心配だ。
『ごめん、言うのをすっかり忘れてた。今日と明日は林間学校で居ないんだ。それと、今日はもう遅いから俺の部屋に泊まってけ』
……送信っと。
送って10秒も経たずに通知音が鳴る。
『そういうことは前々から言って置いてよー!』
瞬く間に次の文章が送られてくる。
『じゃあ今日は泊まっていく。色々借りるから。帰って来てから私が使ったタオルの匂い嗅がないでよ!』
澪の変な冗談に呆れつつ返信する。
『はいはい。早く寝ろよ。おやすみ。』
例の如く、送信して直ぐに通知が来る。
『お兄ちゃんも早く寝ろよーw おやすみー』
兄妹でこんなにも仲良く会話しているのは多分珍しい方なのだろう。澪の反抗期はまだなのか、或いはもう終わったのか。少なくとも、澪も年頃の女の子はずなのに昔と変わらず俺にべったり過ぎる。良心が痛んで突き放せず、つい甘やかしてしまう俺も悪いのだが……。
とにかく澪の言う通り、起床時間が早いので今日はもう寝よう。
「……おい悠! 」
「…!!」
「俺のたこ焼き食っただろ……」
急に隣で寝ているはずの涼に呼ばれて驚いたが、彼は依然として寝ている。
寝言かよ……夢の中でたこ焼きパーティーでもしているのだろうか。
お気楽なやつだ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます