第17話 恋バナとおかしな茅秋
「おーい! さっさと並べ男子ー!」
藍先生がいつまでも並ぼうとしない男子に怒鳴っている。
俺みたいにちゃんと並んでる男子もいるのだから『男子』と括るのは止めて欲しいものだ。
天気予報によると、今日からの林間学校の期間は晴天だった。
1日目は、河原でキャンプ。グループに分かれて魚を釣ったり、火を起こしをしたり、テントを張ったりする。
2日目は、オリエンテーション。沢下り、登山、バギー体験、カヌー体験のいずれか1つを選択する。因みに俺は沢下り。涼しそうだし。……最後は定番イベント肝試しもあるらしい。
バスに乗車し、出発する。着くまで寝よー……
居心地の良い、後ろから2番目の窓側の席。上質な座席のクッションに、程よい圧迫感が眠気を誘う。
「悠!! 何寝ようとしてんだ!」
「うおっ!!」
隣の席の涼が俺を叩き起こす。
見るとニカニカと笑みを浮かべていた。
「せっかくの長時間バス移動なのに寝るなんて勿体無いだろ!」
「せっかくの長時間バス移動なんだから寝させろよ!」
狭いバスの中ですることなんて寝る以外ないだろ。
座席決めの時に場所を重視して、隣のやつのことなんか気にしてなかった……もう寝るのは諦めるか……
「で? 何をするんだ?」
「そんなの恋バナに決まってんだろ。」
急に小声で話し始める涼。
恋バナって……普通同じ空間に異性がいる状況下ではやらないだろ。
「好きな人でもいるのか?」
「じ、実は……滝野さんのことが少し気になっててさ……」
成程、滝野か。俺は高校からの仲だからそこまで詳しく知らないが確かに良い子だと思う。仲間思いだし、時々厳しい言葉を発するが基本的には誰にでも優しい。
「告れば?」
「そんな簡単に出来たら困んねーよ!」
「じゃあどうするんだよ。先に誰かに取られるかもよ?」
「くっ……が、頑張るよ……」
「そうかい」
ま、急がば回れか。急に告っても成功率は低いし。地道に距離を縮めるのか得策だな。
「俺の話は終わり! ……悠はどうなんだよ」
「俺も話すのかよ……」
「当たり前だ! 白鳥さんと関本さん。どっちを取るんだよ」
「どっちも取らないよ。俺は恋愛はしない」
「えぇ!! お前本気か!? 関本さんは兎も角、白鳥さんとも!?」
「馬鹿!! 声がデカい!」
「なんか呼んだ?」
前の席から誰かが顔を出した。あろうことか、夏恋だった。幸い、話の内容までは聞かれていないようだ。
「な、何でもない!」
「いやいや、名前呼んだでしょ! 何、もしかして悪口……?」
「ちちち、違う! 悠の好きな人の話をだな……!」
「えっ!?」
「おい! 言うなよ!」
すると、藍先生が前の方の座席で叫んだ。
「そこ! うるさいぞ!」
「「「 はい…… 」」」
怒られて静かになった涼は暫くしてから見ると寝ていた。
「結局寝てんじゃんか……俺も寝よ……」
────────────────────
右肩に重りを付けられるという拷問の夢を見た。目を覚ますと涼が俺の肩を枕にして寝ていたので、全力でこぴんをお見舞いしてやった。
目的地に到着すると、お世話になるバンガローの責任者の方に挨拶をして、すぐに各クラスでキャンプの場所へ向かった。
「よーし、早速各班仕事に取り掛かれー」
俺の役割は魚釣り。どいつもこいつも「魚触れなーい」とか「火起こしの方が面白そうじゃね!?」って……食い物採る方が大切だろ!俺は小さい時から澪と茅秋で釣りに行っていたので、断然釣り派である。
他の釣り班のメンバーは茅秋と涼だけ。どう考えてもクラス全員分の魚を釣るは無理だろう。
「それにしても、久々の釣りだな。綺麗な川だし、釣れるかもな。」
「悠も釣りしたことあるのか? 意外だな。」
「おい、こう見えても小学校の時は釣りマスターって言われてたんだぜ? なあ茅秋!」
「…………。」
「茅秋ー!」
「……え、何?」
「聞いてなかったのか? 俺が釣りマスターって言われてたって話なんだけど」
「あ、そうだね! 男の子は皆そう呼んでた。懐かしいね……」
「ぼーっとして、どうかしたか?」
「ううん、何でもないよ」
……いや、どう見ても茅秋の様子がおかしい。上の空って感じだ。風邪でも引いたのだろうか。
「悠、早くやろうぜ。一匹でも多く釣らないと」
「ああ、そうだな……」
その後も茅秋はずっと上の空で、何回も針と一緒に竿も投げたり、魚が掛かっても気付かなかったり……一体どうしたのだろう。後で聞いてみるか。
釣れた魚はなんとヤマメ25匹。1人1匹食べられるので良かった。
皆の所へ戻るとカレーの良い香りがした。
「お、カレーか。定番だな!」
涼が嬉しそうに調理班の方を見ている。
俺達が戻ってきたのに気付いた、調理班の夏恋が此方に来た。
「お帰り! 何匹釣れたの?」
「ただいま。ちゃんと人数分釣れたよ」
「凄い! すぐに塩焼きにするね。」
「塩焼きかー。楽しみだな! 茅秋ー、魚入ったバケツ持っていくから先に手洗ってきて良いぞ」
「いい。自分で持っていくから……」
茅秋はそう言って1人で調理場へ歩き始める。
夏恋も変な茅秋に気付いたのか、小声で尋ねてくる。
「ねぇ、あの子どうかしたの?」
「いや、それが分からないんだ。釣りの間もずっとぼーっとしてたし」
「そうなんだ……あ、そろそろ調理しに戻るね。みんな自分の仕事が終わって川で遊んでるから悠達も行ってきたら?」
「マジかよ! 行こうぜ悠!」
「いや、俺は夏恋を手伝うよ。魚多いし」
「そうか? んじゃ俺は行ってくる!」
「あいつ元気そうだね……ありがとう悠。助かる」
「気にすんな。早く取り掛かろう。日が暮れる前に食べれるようにしないと」
「そうだね!」
調理場に行くと、茅秋が魚の下処理を始めていたので、俺も横で下処理を始める。
「……なぁ茅秋。なんかあったのか? ずっと上の空だし。話だけでも聞くぞ?」
「私、悠くんが好き……」
こんな台詞、いつもなら顔を赤くして言うのに今の茅秋は真顔だった。
「な、なんだよ。いきなり……」
「いきなりじゃないよ。私はずっと前から好きだもん。……そう、私が一番好きなのに……」
最後の言葉は俺に向けられたものではなく、自分に言い聞かせるような……そんな風に聞こえた。
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