第32話 王様ゲーム①

バーベキューで盛り上がった後、涼がゲームをやろうと言い出した。



「ゲームって何するの? ここにゲーム機なんてないよ?」

「私、トランプなんて持ってきてないわよ?」



茅秋と夏恋が疑問を口に出す。



「チッチッチッ、そんな生温いのよりもっと楽しいゲームだよ」



人差し指を左右に振って、心底イラッとする笑顔で答える涼。

それを見て同じく腹が立ったのか、夏恋が涼に冷たい目線を送る。



「じゃあ何すんのよ」

「王様ゲームだ!!」

「……却下」

「なんでぇ!!?」

「王様ゲームなんていかがわしいゲームやるわけないじゃない! 女子にこのゲームをやるメリットがないわ。ねっ、茅秋?」



夏恋が仲間を増やそうと茅秋に同意を求める。

しかし、茅秋の方は賛成も反対もせず、キョトンとしていた。



「……王様ゲームって何?」

「え……? 知らないの?」

「うん、初めて聞いた。どんなゲーム?」

「まあ簡単に言えば、くじ引きをして、当たった人が命令を出せるの。指名された人はどんな命令も絶対に実行しなくちゃいけない」



夏恋のざっくりとした説明に茅秋は少し考えて、



「私やってみたい! 楽しそうだし」

「ということは反対が関本さんだけだから決まりだな!」

「最悪……」



涼の楽しそうな声音と反対に、夏恋は絶望の表情でがっくりと項垂れてしまった。




────────────────────


1から5までの数字が書かれた割り箸が五本と、雑に『王』とだけ書かれた箸が一本がお菓子の空き箱に入れられる。

前提条件として、


・いかがわしい命令は無し。

・仕込みを入れるのは無し。

・暴力的な命令は無し。


となった。



「よし! 始めよう! 好きなのを選んでくれ」



ゲームマスター?の涼の指示でそれぞれが棒を一本選ぶ。



「皆選んだか? それじゃあ、せーの!」

「王様だーれだ!!」



掛け声で全員が箱から手に取った棒を抜き、先端を確認する。



「やった!! 私が王様だ!」



そう言ったのは夏恋だった。ということは夏恋が数字を指定して命令を出す。



「くそ……じゃあ命令を言ってくれ」

「うーん……取り敢えず始めだし、次のターンが終わるまで2番と3番が手を繋ぐ!」

「あ、私2番だ」



茅秋が手を挙げる。因みに俺は1番だった。

じゃあもう一人の3番は誰だろうか?



「……私。3番」



小さく手を挙げたのは伊深さんだった。



「何か女の子同士だと面白くないわね」



口を尖らせて、つまらなそうな顔をする夏恋。

確かに。仲の良い女の子同士が手を繋いでいるのはたまに見る。新鮮味はないな。


命令の通り、茅秋と伊深さんは手を繋いだ。茅秋は楽しそうな、伊深さんは恥ずかしそうな表情を浮かべていた。



「それじゃ、二人は次の命令が終わるまでそのままね?」

「よし! 次!」



全員が棒を選んだの確認して、



「王様だーれだ!!」


全員で勢い良く棒を引き抜く。

自分のを確認すると、惜しくも『王』ではなく『2』と記されていた。



「くそっ! また王じゃない!」



涼も王ではなかったらしい。悔しそうに、自分の腿に拳を振り下ろしている。



「私が王様みたいね。さて、どうしようかしら……」



企みのある笑みで参加者の顔をぐるりと見回す。

俺の隣に座っている涼が、ごくりと生唾を飲み込む音が聞こえた。



「……決めたわ。5番が今から全員にカップアイスを買ってくる!」

「ご、5番!? 俺だ……」



涼が呆然と自分の引いた棒を見つめたまま固まってしまっている。

それもそうだろう。日中に俺たちが行ったスーパーは既に閉まっているので、次にここから近いのは2㎞ほど離れたコンビニだ。普通に歩けば片道30分程度だろうか……可哀想に。



「溶けてたら許さないから」



滝野の最後の言葉に、泣きそうになりながら財布を持って渋々と出ていった。

まあ、王様……ましてや好きな女子からの命令となれば断れまい。


そんなことを思いながら俺は肩を落とした涼を玄関まで見送った。

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