第33話 王様ゲーム②
涼がアイスを買いに行っている間に涼抜きで王様ゲームを継続することになった。
「王様だーれだ!!」
また王様じゃない……3番だ。特に出したい命令があるわけではないが一度は王様をやってみたい。
「やった!! 私が王様だ!」
茅秋が嬉しそうに棒を高く上げた。どんな命令を出すのだろうか。茅秋に限って厳しい命令は出すことはないと思うが。
「じゃあね……1番が3番の頭を撫でる!」
「あ、1番私だ」
夏恋が『1』と書かれた棒を見せて言う。
「じゃあ俺が夏恋に撫でてもらうみたいだ」
「「 え!? 」」
茅秋と夏恋が声を揃えて驚く。
そんなに驚くことか? 確かに女子の方が男子を撫でるのは少しおかしいかもしれない。テレビドラマでもあまり見ないし。女子は男を撫でるのは嫌なもんなのか?
しかし、彼女達の会話からそんなことは思っていないっということが分かった。
「や、やっぱ命令変更!」
「駄目よ、茅秋! 命令は絶対なんだから私やる!」
「で、でも……!」
目をギラつかせながら意気込む夏恋とは対照に、額に汗を滲ませながら苦笑いをする茅秋。
「さあ、悠! 始めるよ!」
「あ、ああ……分かった」
興奮気味の夏恋を目の前にすると少々躊躇いを感じてしまうが、別に撫でられるだけだから大丈夫だと自分に言い聞かせた。
夏恋が撫でやすいように少し前傾姿勢になる。茅秋が「夏恋ちゃんズルい!」などと喚いている事など気にも留めず、夏恋は俺の頭に手を置いてゆっくりと撫でた。
なんだか変な感じだ。けど決して嫌ではない。
「もう良いでしょ!! おしまい!」
「あっ……」
茅秋に俺の頭から手を剥がされ、夏恋は惜しむような声を漏らす。
しかしすぐに茅秋を見て、
「ありがとう王様。至福の時間だったわ……!」
嘲笑うように彼女に煽りの言葉を入れた。
「……っ! 王様になったのを後悔することになるなんて思わなかった……も、もう一回! もう一回やろうよ!」
なんだか茅秋が惨めだ……
「王様だーれだ!!」
「あ、今度は俺か……」
さて、王様になったはいいが命令は何も考えていなかったぞ……。どうしたものか。
命令に悩んでいると、隣に座っている茅秋が耳打ちをしてくる。
「……私、2番だよ」
そう言って目配せをしてきた。
彼女が自分の番号を教えてくれた理由は恐らく、俺を対象とした命令を自分に出してくれという意思表示だろう。
さっきの夏恋のこともあるし、茅秋にも良い思いをさせてあげても良いかもな。
「じゃあ、2番が王様に頭を撫でてもらう」
「あ~! 私が2番だ~!」
いやいや! 演技下手過ぎだろ! ほら、他の三人が疑いの眼差しを送ってきているぞ!
そんなことなど露知らず、満面の笑みを浮かべながら俺に前傾姿勢で頭を向けてくる茅秋。
嬉しそうだし、まあいっか……!
優しく彼女の髪を撫でると、ふわりとシャンプーの香りがした。幸せそうな茅秋の顔を見てドキッと心臓が跳ねた。
「ふふふ……! ありがとう」
手を離すと茅秋ははにかみながら、俺に撫でられた所の髪を自分でもう一度撫でた。
そんな茅秋を見て、俺の鼓動はさらに早まった気がした。
黙りこくった俺達を見て、夏恋が『良い雰囲気』になっていると感じたのか、遮るように、
「も、もういいでしょっ!? 早く次やろう!」
「そうね。空気が甘過ぎるわ」
夏恋の言葉に滝野も同意する。茶化されてもいるが……。
気を取り直して、全員がそれぞれ一本の棒を選ぶ。
「王様だーれだ!!」
「あ、また私ね」
今度は滝野が二度目の王様だ。
「そうね……1番と4番がキスをする!」
「「「「 えぇ!!? 」」」」
滝野のとんでもない命令に思わず四人が声を揃えて驚いた。
「ききき、キスって……!! そんなの良いわけないじゃない!」
「あら? 王様は私よ? 命令は絶対だから。で、1番と4番は誰なの?」
「は、はい……私1番です……」
恐る恐る小さく返事をしたのは伊深さんだった。
「4番は?」
滝野が一人ずつ顔を見る。すると、
「わ、私よ……」
逃げられないと観念したのか、夏恋が手を挙げた。
というか、女子同士でキスって……見てはいけない気がする……
「ほ、ほっぺじゃ駄目なの……?」
「何言ってんのよ。マウストゥマウスに決まってるでしょ?」
「で、ですよね~……」
夏恋が伊深さんの両肩に手を添え、真っ赤になりながら伊深さんに
「に、虹華。行くわよ!」
「は、はい!」
そして、二人は唇を重ねた……んだと思う。
俺は見てはいけないような気がして、目を反らしたが……
「ただいま~……って、何やってんのお前ら……?」
タイミング良く帰ってきた涼が二人のキスシーンを見てしまう。
「~~~っ!! 今見たもの忘れろ!!」
夏恋が放ったその言葉の後にバチーンという音が部屋に響いた。
今日は涼にとって厄日だったのだろう……。
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