第34話 告白大作戦

王様ゲームの後も、お菓子を摘まみながらくだらない事を話して盛り上がった。そして、最後の締めとして花火をすることになった。



女子達が楽しんでいるのを見ながら涼にあることを訊いた。



「涼。滝野に告白するなら今なんじゃないか?」

「はあ!? 皆居るのにどうやって告んだよ」

「馬鹿か。他の皆は花火ではしゃいでるんだから、その内に中に呼ぶとか出来るだろ」

「……!」



誰でも思い付くような作戦を聞き、その手があったか! という顔をする涼。

しかし、急なことで心の準備が出来ていないのだろう、遠くからチラチラと滝野のことを見るばかりでなかなか話しかけようとしない。

花火はまだ沢山あるが、このままモタモタしているとあっという間に無くなってしまう。

痺れを切らした俺は、涼を滝野の方へ背中を押した。バランスを崩した涼は一気に滝野の目の前に移動した。



「成瀬君……いきなりどうしたの?」

「いや! えっと……その……」



目を泳がして言葉を詰まらせる涼。しかし、ここからは彼自身が頑張るしかない。心の中で応援しつつ、涼が一歩踏み出すのをそっと見守る。



「……成瀬君?」



涼がいきなり目の前に現れたと思ったら、ずっとそわそわしているだけなので滝野も困惑している。



「す……!」

「す?」

「す、好きです! 付き合って下さい!」



おいぃぃぃぃぃ!!!! 誰が皆がいるこの場で告白しろって言ったんだよ!?

花火に夢中だった茅秋達も流石に涼の大声の愛の告白に気付いたらしく、二人の方へ視線を向けていた。一応、涼の滝野へ恋愛感情を抱いている事

は全員周知の事実であったため驚いてはいない。


数秒間の沈黙。

涼は告白したときの腰を90度に曲げ、右手を差し伸べた格好のままで滝野の返事を待っている。


そして、滝野がようやく口を開く。



「ほ、本気なの……?」

「本気です!!」



涼が間髪入れずに返答する。



「わ、私みたいな可愛げのない女のどこが良いの……?」

「滝野さんは可愛いよ! それに、友達思いなところ、誰にでも分け隔てなく優しいところ、困っている人を絶対に見捨てないところ……全部が素敵だと思う!」

「あ、ありがとう……」



思いがけない褒め言葉の嵐に、いつもはクールな滝野が顔を赤くし、照れている。



「……でもごめんなさい」

「えっ……!?」



涼の表情が一瞬で暗くなる。そんな涼を見た滝野は焦った様子で、



「違うの! そういう意味のごめんなさいじゃなくて……告白の返事は待ってほしいってこと。私、今は冷静じゃないから……その……生まれて始めて告白されて少しだけ気持ちが舞い上がってる……気がする」

「わ、分かった! 返事はいつでも大丈夫だから!」

「うん、ありがとう」




もじもじと恥ずかしそうにしている二人の様子を見て、何故か茅秋と将来を誓った時の事を思い出した。



────────────────────


涼の告白大会終了後、いい加減寝ないとまずい時間になっていたため、皆はそれぞれの自室へ戻っていった。しかし、俺は眠ることができず、ウッドデッキで外の空気を吸っていた。

日中は美しいオーシャンビューが見ることができたが、夜は満天の星空と海に映った月が幻想的で、一定のリズムで聞こえてくる波音が心地いい。



「悠くん?」



振り替えると、話し掛けてきたのは茅秋だった。



「明かりが点いてたから……どうしたの?」

「いや、眠れないから外の空気吸いに来ただけだよ」

「そっか。……隣いい?」



頷くと茅秋は隣の椅子にゆっくりと腰を下ろした。



「それにしても驚いたよ。成瀬くん、いきなり彩ちゃんに告白し出すんだもん」

「だな。皆いる前で愛を叫ぶなんてどうかしてる」

「そうかな? 私は素敵だと思ったよ。多分、彩ちゃんもそう思ってる」

「そんなもんなのか?」

「うん、そんなもんだよ」



「彩ちゃん、告白OKするのかな?」

「どうだろうな。でも滝野も嬉しそうだったし脈ありなんじゃないかな」

「確かにそうかも! なんか自分のことじゃないのにドキドキする!」



胸の前で拳を握りしめて、笑顔でそう言った。

俺はそんな茅秋の何気ない姿にドキドキした。



「私ね、さっきの二人を見て、昔の私達を思い出しちゃった。ほら、私が将来悠くんのお嫁さんにして下さいって言った時の」

「……驚いた。俺も同じこと思い出してたよ」

「ホントに!? 私は今でも鮮明に覚えてるよ」

「俺もしっかりと覚えてるよ」



何となく良い雰囲気になっている気がした。すると、ニコニコと微笑んでいた茅秋が急に真剣の眼差しを向け、



「あの時の約束って無期限だよね?」



不安そうな表情でそう聞いてくる。

その時だけ肌に触れる夏の海風が冷たく感じた。

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