第6話 誤解だらけの放課後

今日は新入生歓迎会という催しが行われ、プログラムに部活動紹介があったせいか、教室は部活動の話で持ちきりだった。



「なぁ、悠は部活決めたか?」


「いいや。俺は部活はやらないよ。」


「え!?中学ではなんかやってなかったのか?」


「まあ…吹奏楽部だったよ。」


「運動得意そうだから意外だなぁ。てゆーか、ここでも吹奏楽やればいいじゃんか。」


「それも考えたけどやっぱ勉強もあるしさ。」



などと俺も涼と話していた。

そういえば、茅秋は部活に入るのだろうか?



「白鳥さんは部活やるの?」



俺の考えていたことを尋ねたのは涼だった。



「うーん、やらないかな。私、勉強以外何も出来ないから…」



と苦笑いで答えた。

そういえば、幼い頃によく俺と妹で茅秋を野山や公園に連れ出したけど彼女はよく転んだり、走っている俺達に追い付くことができず、泣いていたイメージがある。



「悠くんが部活作ったら入るけどね!」


「愛されてんなぁ、お前。」


「作らないぞ。委員会もバイトあるし。」


「え、悠もうバイトやってんの?」


「あぁ、昨日からな。」


「悠くんバイトしてるの!?バイト先どこ!?教えて!お願い!」


「やだよ。だって教えたら一緒に働こうとするじゃんか。」


「バレた…」



茅秋が頬を膨らませてふて腐れる。

俺と先輩の楽園を邪魔しないで!お願い!





時計をふと見るとそろそろ委員会の集合時間が迫っていた。



「悪い、そろそろ委員会に行く。」


「おう!またな!」


「頑張ってね!」



手を振る二人にこちらも同じように手を振って別れを告げた。






集合場所の第二会議室に向かう途中で後ろから走ってきた誰かに声をかけられた。声の主は俺の美化委員の相棒、天然の赤毛の少女こと関本夏恋だった。

あ、ちなみに俺が勝手に名付けた。



「宮原くん!待ってよ!」


「あ…関本さん。」


「もう!何で同じクラスなのに別々に行くのよ!」


「す、すまん…。」


「メアド交換してくれたら許す!」


「お、おう…。」



自然なアドレスの聞き方につい感心してしまった。






関本さんと合流し、第二会議室に着くとすでに集まっていた。席が2つ空いているということは俺達が最後だったようだ。



「すみません…。」


「大丈夫だ。まだ集合時間の2分前だからな。」



そう話したのは担任の深山先生だった。

どうやら美化委員会の担当は深山先生らしい。



「集まったな!委員長、あとは頼む。」


「はい。二年、委員長の新藤です。よろしくお願いします。」



眼鏡をかけた、真面目そうな女性だ。

隣の関本さんが、



「綺麗な人だね。」


「確かに。」


「ね、ああいう人がタイプ?」



……何を聞いているんだこの人は。



「いいや、俺はもっと天真爛漫な人が好みかな。」


「茅秋ちゃんとか?てゆーか、許嫁なんでしょ?」


「聞いたのか?でもそれは過去のことだし。今は何とも。」


「ふーーーん。」



なんだその含みを持たせたふーんは!しかもニヤニヤして!


気付くと、小声で話をしてるうちに委員長の話が終わっていた。

どうも今日は用具倉庫から各クラスの掃除用具を持っていくだけらしい。




俺がほうき数本、関本さんが塵取りとバケツを持って一階の倉庫から三階の教室まで運んだ。



「…っと。これで終わりだな。」


「そうだね!お疲れ!」


「お疲れ様。」


「ねぇ、帰りは茅秋ちゃんと帰るの?」



…またニヤニヤしてる。こりゃ誤解してるな…。



「俺達はただの幼馴染であって、付き合っていないからな?」


「そうなの!?てっきり恋人同士なのかと思ってた。」


「ま、そういうわけだから。んじゃ用事あるから、また明日な。」


「うん。またねー!」



やれやれ。この感じだと誤解している人は多そうだ…。






関本さんと別れ、下駄箱に行くと1人の女子が立っていた。



「あ!宮原くん!」



こちらに手を振る彼女は俺の『天使』ことバイト先の先輩・三浦先輩だった。



「こんにちは。どうしたんですか?」


「どうしたって、君を待ってたに決まってるでしょ!」



……嘘だろ?天使様が俺を待ってただと?

嬉しすぎて死にそう…。



「どうせ同じ場所に行くんだから一緒の方が楽しいでしょ!」


「そ、そうですよね!ははは!」



やばい。にやけが抑えられない!



「早く行こ?」



上目遣いで俺の袖を掴んで軽く引っ張る。

俺、死んでもいい!



などと考えていると、後ろからバサッとものを落とす音がした。振り返ると、鞄を落とした茅秋と俺は知らない女子が立っていた。



「うそ……悠くん。」



茅秋が泣きそうになっている。



「ね、あの子どうしたんだろ?宮原くんの友達?」



先輩は不思議そうに聞いてきた。

どうやら先輩は天然の小悪魔系らしい。小悪魔系の天使とは変な話だが。



「えっと…この方、バイトの先輩の三浦小春さん。んでこっちが幼馴染の白鳥茅秋と……」


「茅秋の友達の滝野でーす。」



見知らぬ少女は自ら名乗った。

すると、茅秋はつかつかとこちらに来て、俺の袖からそれを掴んだ先輩の手を引き剥がす。



「私の悠くんに手を出さないで下さい!」


「茅秋!先輩に対して失礼だぞ!」



俺の天使に手を出すな!感情的になってつい怒鳴ってしまう。茅秋の気持ちも考えずに。



「悠くんの馬鹿!」



そう言って茅秋は涙を目に浮かべて走り去ってしまった。

すると、滝野さん?がこちらに来て、



「浮気はダメだよ?ま、茅秋のことは私に任せておいて。」



と言って茅秋を追いかけていった。

その姿を見ていると、



「なんかごめん……。白鳥さんは君の彼女?」



困ったように微笑む三浦先輩。



「いえ、こちらこそ茅秋がすみません…。俺達は付き合ってないです。まあ大丈夫ですよ、あいつ立ち直るの早いんで。」




バイト先までの道中、昔の茅秋と俺の関係、今の互いの気持ちを話した。



「そうだったんだ……白鳥さんには悪いことしたね…。明日謝らないと!」


「先輩は知らなかったんですし、仕方ないですよ。」






その後、少しモヤモヤした気持ちで働き、家に帰った。


布団の上でスマホを見ると二件通知が来ていた。

一件は妹の澪から。内容は、明日夕飯を作りに来てくれるとのことだった。了解の返信をし、もう一件を確認すると、今日アドレス交換したばかりの関本さんだった。



『ゆっくんは私のこと覚えてない?』



という意味深な内容に首を傾げる。てかゆっくんって俺のこと?

内容から判断するに、俺と関本さんは入学する以前に会ったことがあるということだろうか。



『ごめん。どういうことだ?』



と返信すると、すぐに通知が来た。



『ううん。覚えてないならいいの。また明日ね。』




……わけがわからない。明日直接聞いてみるか。


そういえば茅秋のアドレス知らないな、とふと思った。




この時、今日の出来事をきっかけに茅秋の俺への愛が狂いつつあることを俺は知らない。

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