第5話 天使降臨
茅秋と公園で話した次の日、彼女はすっかり落ち込んでいるものと思い込んでいたが、心配は要らなかったようだ。
校門の少し手前でこちらに気付いた彼女は笑顔で手を振りながら駆け寄ってくるのが見えたので分かった。
「悠くんおはよう!結婚して!」
「おはよう茅秋。結婚はまだ出来ないし、しない。つか、子供の頃の約束だろ?」
「私はまだ本気なんだけどなぁ…。でもまた振り向いてもらえばいいよね!」
彼女はいたずらっぽく微笑み、さらに俺にくっついてきた。
なんてポジティブな少女なんだ…。
入学して2日目なのに女連れの俺に周りから突き刺さるような冷たい目線を向けられる。
教室に着いて中に入ると、いきなりクラス中の男子が俺に、女子が茅秋を取り囲んできた。
学年でもトップレベルの美少女と仲良く一緒に登校するところを見れば俺だって驚く。
「おい、宮原!お前やっぱり白鳥さんと付き合ってんのか!?」
「くそリア充が!」
「いつから付き合ってんだよ!」
「ま、待て!俺達は付き合ってない!」
「じゃあ、何でそんなに距離近いんだよ!」
「知らない!ヒラ……白鳥さんが勝手にくっついてきて…」
「「くっ、羨まし過ぎる!!」」
男子全員が声を揃えて叫ぶ。
それがお前らの本音か。
女子サイドをちらりと見ると、
「ね、ね!やっぱり白鳥さんって宮原くんと付き合ってるの!?」
「どっちから告ったの!?」
「い、今は私の片想い……」
「え、今はってどーゆーこと?」
「えっと、話せば長くなるというか…」
勘弁してやってくれ皆。
茅秋が真っ赤になって目が泳ぎまくっている。
こう見えて茅秋は人付き合いが苦手なんだぞ。今はどうかは知らないがな。
まあ、反応を見る限り俺の知っているヒラリちゃんのままのようだ。
予鈴が鳴り、同時に担任が入ってくる。
「いつまで立ってんだー。座れー。」
…助かった。
でもこの調子じゃ休み時間と放課後は質問責めだろうな。はぁ……
LHRで委員会決めをしたのだが、俺は校内美化委員になった。というか余ってたから仕方なくなった。
なんでも、放課後に校内を見回り、掃除用具の備品確認や戸締まりを確認および呼び掛けをするらしい。
トイレも見回るので男女一人ずつ任命された。
女子のパートナーは茅秋……ではなかった。彼女はじゃんけんで負けたのである。
俺のパートナーは関本夏恋──髪型はショートボブで、チビのくせに主張の強い胸につい目がいってしまう。入学早々クラスの人気者って感じで、ずっとニコニコしているのが印象的だ。
───放課後。案の定、クラスの皆が質問しまくってきたが、俺達は付き合ってないということを頑として突き通して、なんとか男子には納得してもらった。ややこしくなりそうなので昔の約束は伏せたが。
茅秋は女子数名に羽交い締めにされ、食堂へ涙目で連行されていった。
…頑張れ茅秋。
────────────────────
一緒に帰りたいと言う涼の誘いを今度昼を奢る約束をして断り、先日採用してもらったバイト先に向かった。
そういえば、どこから入れとか何も言われなかったな……とりあえず普通に客用の扉から入るか。
「いらっしゃいませ!1名様ですか?」
「あー、えっと、先日採用して頂いた宮原ですけど…」
「あ!宮原さんですね!店長呼んで来ますね!」
「お願いします。」
しばらく待っていると、厨房の方から高身長でパンチパーマのヤクザを想起させる恐いおじさんが出てきた。
「宮原くんだね。待ってたよ!店長の荒山です。ささ、控え室に行こうか!」
「あ、はい…」
…とんでもないギャップに開いた口が塞がらない。
荒山店長に控え室へ案内され、促されるまま席に座る。
「改めまして、店長の荒山です。よろしくね。人手が足りなかったから助かるよ。ちょっと待っててね。」
そう言って部屋を出ていったが、すぐに俺と同年代くらいの女性を連れて戻ってきた。
「彼女は今日から君の教育係してもらう、三浦くんだ。困ったことがあったらこの子に相談してくれ。それと、これは君の制服ね。」
荒山店長は、あとはよろしくと隣の三浦さんに言って部屋を出ていった。
三浦さんは向かいの席に座り、
「店長恐いでしょ?でもめっちゃ優しいから安心してね。さて、まずは自己紹介だね!私は三浦小春、一応四季高の二年だよ。よろしくね。」
ということは学校の先輩でもあるのか。
茅秋と同じくらいの長さの髪はヘアゴムで結われ、短めのポニーテールにしていた。
それにしてもなんて素敵な笑顔なんだ。惚れてまうやろ。
「俺は宮原悠です。四季高の一年です。」
「四季高なの!?じゃあ学校でも後輩だね!」
「みたいですね。これからよろしくお願いします。」
「じゃあ色々周りながら説明するね。」
厨房、ゴミ捨て場などを案内・説明され、注文の取り方、会計の仕方、洗い物の仕方も教えてもらった。
そして、意外にもあっという間に時間は過ぎ、
「今日はこれで終わりだね。お疲れ様。じゃあ、また明日!学校でも会ったらよろしくね!」
「お疲れ様でした。はい、よろしくお願いします!」
……最高だな。絶対バイト辞めない自信がある。
すっかり三浦先輩の天使のような優しさと笑顔に虜になった俺は、次の日とんでもないことが起きるとも知らずにニヤニヤしながら帰宅するのだった。
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