第4話 会いたい-私の運命の人-
入学式の2日前、あれはまさに運命だった。
お母さんに通学路を確認しなさいと言われ、半ば強制的に外出させられた。
8年前に彼と離ればなれなってから、私はすっかり塞ぎ込んでしまい、学校以外で外へ出歩くことはなくなってしまっていた。
片道30分、ここら辺はバスが通っておらず、自転車に乗れない私には徒歩しか手段がない。
確認を済ませ、すぐに来た道を折り返す。
その日は暖かかったので少し汗をかいていた。喉も渇いたのでコンビニに立ち寄る。
紅茶と緑茶のどちらにするか悩んでいたとき、彼は突然現れた。
「すみません。前失礼します。」
「あ、ごめんなさい!……えっ!?」
最初は店員さんかと思ったけど違った。
声は聞き馴染みがないけど、私にはすぐ分かった。昔と変わらない私の大好きな匂い、雰囲気。
間違いなく、悠くんだった。
彼はすぐにその場を立ち去り店を出て行った。
私は急いで紅茶と緑茶をスマホの電子マネーで会計をし、彼を追った。
どうやって話しかけようか。少し離れて考えていると、
「誰だ!」
「きゃっ!」
と彼が突然振り向いたのに驚いた。
彼が怪訝そうに尋ねてくる。
「えっと、何か用ですか?」
久し振りの彼に話し掛けられ、頭の中が真っ白になった。
「ご、ごめんなさい!あなたが知り合いにあまりにも似ていたので…多分私の勘違いです。ごめんなさい。」
しまった、咄嗟に嘘をついて逃げちゃった……
走って家まで帰り、玄関の扉の前に立ち止まる。
少し大人になった彼の顔を近くで見て、今もドキドキしている。走ったからじゃない。
連絡先も知らないまま引っ越してしまい、心の何処かで二度と会うことは出来ないと思っていたので嬉しかった。
自室へ戻り、ベッドに腰をかける。
「どうして茅秋だよって言えなかったのよー!」
自分に腹が立った。
でももし……もしもう一度彼に会えたなら───。
次の日、私は何のあてもないのに彼を会えるかもという期待を寄せ、外に出た。
出掛けてくると言うと、お母さんは珍しく自分から外出した娘に驚いていた。
昼時だったのでファミレスに入った。
オムライスとドリンクバーを注文し、待ってる間も、食べている間も、お客さんが入店する度に顔を確認したり、外を歩く人を目で追った。
自分でもかなり気持ち悪いことやっているなと思う。
でも、彼に会いたい。その気持ちが私を突き動かしている。
結局、日が暮れるまで探したけど会うことができなかった……。
…やっぱりそう簡単には会えるはずがない。
諦めてコンビニで飲み物でも買って帰ることにした。
なんだか甘いものが飲みたい気分だった。
陳列棚を見ると、昨日は並んでいなかった。メロンソーダがあった。
その横には、最近CMでよく観るオレンジジュースも置いてあった。
「うーん、炭酸は少し苦手なのよね…でもメロンの気分だし…」
やっぱりこっち。いや、やっぱり……と悩んでいると、
「すみません。前失礼します。」
「あっ、ごめんなさい!ってあ…!」
目を見て謝ろうと顔を見ると……いた。
一日中探した彼が。
「失礼しましたー。」
そう言って、彼はすぐにその場を立ち去る。
早く話し掛けないと、こんなチャンスもうないかもしれない!
すぐに店を出た彼を追いかけた。
「あの!!」
「うわっ!!なに!?」
「もしかして……宮原悠くん?」
確信していたけど保険をかけた言い方にする。
「えーと、どこかで会いましたっけ…?」
「うそ……」
今日は幼い頃、彼とよく遊んでいた時に似た雰囲気の服装をしていた。これなら絶対に気付いてくれると思ったのに……
「私だよ。茅秋。」
名乗った。これなら流石に気付くだろう。
「ごめん、たぶん人違いです。」
私の名前さえも忘れてしまったの?
「私のこと忘れちゃったんだ……」
「…?忘れたって何を?」
「馬鹿!」
夢にまで見た感動の再会のはずだったが、所詮は夢でしかなかった。
あまりの悲しさに、また逃げてしまった。
玄関の扉を開け、中に入るとお母さんが笑顔でリビングから出て来て、
「おかえり。結構長い間出ていたわね。何処に行ってたの?」
「ただいま……」
「どうしたの?何かあったの?」
お母さんは優しい声で心配の声をかけてくれた。
しかし私は、辛い気持ちを抑えられず、自室へ逃げるように閉じ籠った。
一晩中泣き、いつの間にか泣き疲れて寝落ちしていた。
朝起きると、やはり目が腫れていた。
氷で冷やして、なんとか腫れを鎮めることができた。
「昨日はどうしたの?」
お母さんが朝ご飯の用意をしながら聞いてきた。
「一昨日ね、悠くんに会ったの。」
「悠くんって……昔あなたがよく一緒に遊んでた宮原さんの?」
「そう。でもね…彼は私のこと覚えてなかったの。」
「まあ、あなたも変わったからねぇ……髪の色は変わったし、長さも背中まであったのに今は肩くらいしかないじゃない?それに男なんて皆鈍感なんだから。」
「だよね……」
それもそうか。彼はあまり変わっていなかったけど、私は少し変わったと自分でも思う。
「そういえばあなたったら、あの時はよく、悠くんと結婚するんだーって言ってたわね。」
お母さんが何気なく笑いながら放った言葉にはっとする。
流石の彼も結婚しようと誓い合ったことは覚えているに違いない!
また週末に彼を探そう。
そう決めて入学式に向かう。今日から四季学園高等学校に通うのだ。
学校に到着し、クラス表を見る。
A組か。受験勉強は頑張ったし、手応えも良かったので、大方予想通りではあった。
教室に向かおうとすると、後ろから声をかけられた。
「あれ!?茅秋!」
「え!?さやちゃん!」
そこには転校した小学校で初めてできた友達、滝野彩花がいた。
中学でもクラスは違ったが、仲良くしていた。
受験が忙しくなってからは過度な連絡は避けていたため、お互いがどこの高校へ行くのかは知らなかった。
「茅秋も四季高を受験してたんだ!入試の時に会わなかったからてっきり違う高校かと思ってた!」
「そうなの!良かった~知ってる人がいて!」
「高校でもよろしくね。ところで茅秋は何組?」
「A組だよ。」
「くっ…!秀才め…。私はB組だからクラスは違うね。」
廊下でさやちゃんと別れて、A組に入り、黒板に書かれた座席表を見る。
えーと、私の席は…後ろから2番目かぁ。どうせなら一番前か後ろが良かった…。
そう思いながら自分の席に座ると、横から聞き覚えのある声が聞こえた。
「あ!」
声のした方を向くと、そこには会いたかった彼がいた。
「ゆ、悠くん!?」
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