第3話 本当の再会
入学式当日。
校門に入ってすぐ右に大きな桜が一本あり、今日のために咲いたのではないかと思うほどの満開だった。
昇降口の前に貼り出されたクラスを確認しに行く。
同じ中学のから来たのだろうか、楽しそうにしているやつが多くて騒がしい。おまけに吹奏楽部が、何かファンファーレで歓迎演奏をしている。
俺の名前は………あった。A組だ。
この学校は入試の成績順でクラスが割り振りされる。つまり俺も成績上位者として入学できたみたいだ。
確認して教室に向かう。生憎、俺には中学が同じだったやつはいないので、正直めちゃくちゃ緊張してる。
教室に入ると既に何人かが来ていた。
俺の席は後ろから2番目だった。
席に座って鞄を机の横にかける。
すると後ろから声をかけられた。
「よぉ、俺『
「よろしく。あ、俺は宮原悠。」
良かった、コミュ力高いやつがすぐ近くにいて。
自慢じゃないが俺は自分から話かけるのが苦手だからな…。
「なぁ、悠って呼んでいいか?」
「あぁ、もちろん。俺も涼って呼ばせてもらうよ。」
「おっけおっけ!悠は家近いのか?」
「歩いて15分くらいかな。」
「いいなぁ!俺なんか電車と徒歩で1時間なんだぜ!?」
「大変だな。」
などと話していると隣の席に誰かが来た。
ふわりと花の香りがする。ちらりと顔を見ると……
「あっ!」
見覚えのある顔に思わず声を上げてしまった。
「ゆ、悠くん!?」
「昨日、一昨日のストーカー女!」
「ひどい!それにストーカーじゃないもん!」
涼が横でキョトンとしている。
「悠、知り合いなのか?」
「あぁ、ちょっとな……。」
「はじめまして。私、白鳥茅秋といいます。悠くんの……未来のお嫁さんです…。」
「「は?」」
ちょっと、何いきなり教室のど真ん中でとんでもないことを言っちゃってんの!?
皆にこっち見てるよ!?
「悠…お前彼女いたのか…。」
「待て、泣きながら睨むな。それにこいつは彼女じゃない。二日前に初めて会ったばかりだ。」
「悠くんひどい!私はあれから君に全てを捧げるって決めてたのに…。」
「あれからっていつだよ!てかお前まで泣くな!」
なんだこの混沌とした空間は……
とりあえずこの状況をなんとかせねば!
「くそっ!ちょっと来い!」
「きゃっ!悠くん大胆っ!」
俺は廊下まで彼女の腕を引っ張っていった。
「おい。突然何なんだよ。」
「ほんとに覚えてないの?」
「残念ながら白鳥茅秋という名前に記憶はない。」
「将来結婚しようって誓い合ったのに?」
「全く記憶にない。」
「ずっと想ってたのに…うぅ…。」
「げっ!頼むから泣くのは勘弁してくれ…。」
キーンコーン───
予鈴が鳴ったのでぞろぞろと教室にいたやつらが廊下に出てきた。式が始まるので講堂に移動するのだ。
「話は後だ。今は移動しよう。…ほれ、涙拭いとけ。」
ポケットからハンカチを出し、渡す。
「ありがとう…」
その後、何事もなく式は終わり、教室に戻る。
担任が来てショートホームルームをするらしい。
皆が席に座り、周りの人と話していると教室のドアが開いた。そして教壇に立ち、
「はじめまして!お前達の担任になった
口調が男っぽいが、赤縁の眼鏡をかけ、短めの髪を首の後ろに地味なバレッタで止めているので女性であることは一目瞭然だ。
「───じゃあ、今日は終わりな。明日は検診だから体育着忘れるなよ!」
簡単に連絡事項を話し、早々に高校生活の初日が終了した。
「なぁ、近くのファストフード店に行かないか?」
涼が後ろから話しかけてきた。用が無ければ快諾するところだが、今日は厄介なクラスメイト白鳥茅秋に話がある。
「悪い。せっかく誘ってくれたのに申し訳ないが用があるんだ。また誘ってくれ。」
「そか、しゃーないな!んじゃまた明日!」
「おう。」
「……さて。」
俺は隣の席で荷物をまとめている少女を見る。
「話がある。準備が終わったら校門前に来てくれ。」
「あ…うん。」
それだけ伝えて俺は教室を後にした。
昇降口を出ると部活動の勧誘で賑わっていたが、全て丁重にお断りしながら校門に向かう。
校門前で待っていると茅秋は5分も経たずに来た。
「おまたせ。」
「おう。近くに公園があったからそこで話そう。」
「分かった。」
公園に着くまでは勿論、会話もなく、茅秋は少し俯きながら歩いていた。
「着いた。あそこのベンチがいいかな。」
「うん。」
彼女が先に座るのを確認し、俺も座る。
「白鳥さん。早速だが、何であんなことを?」
「茅秋でいいよ。悠くんは覚えてないみたいだけど、私達は幼い頃会ってるの。」
「え?でもさっきも言ったが、俺は白鳥茅秋という名前に記憶はないぞ。」
「たぶんそれは私の姓が変わったからだよ。8年くらい前、突然両親が離婚したんだ…。そしてお母さんにお母さんの実家に連れて行かれちゃった。だから白鳥はお母さんの旧姓。悠くんと一緒にいたときは新関茅秋だったよ。」
俺は驚愕した。旧姓のところではなく、8年前というところだ。
「…嘘だろ。」
でもおかしい。俺の知っている『彼女』は綺麗な黒髪だった。
今、目の前いる『彼女』はどう見ても茶髪だ。うちの学校は染髪禁止だから染めている筈がない。
驚いてフリーズ状態の俺を見て察したのか、茅秋が説明してきた。
「髪……そうだよね。あの時は黒だったもんね。お母さんの遺伝だと思うんだけど、中学入る前にはもう今みたいな茶髪になっちゃったんだ。」
「じゃあ……君は…本当にヒラリちゃん?」
「そうだよ……悠くん。」
彼女は微笑みながら頷いた。その頬にはきらりと一粒の涙が流れていた。
「ヒ、ラリちゃん……」
「悠くん…!」
未だ放心状態の俺に茅秋が抱きつく。
しかし俺は思わず突き放す。その瞬間、彼女はまさかの俺の行動に驚いたのか、悲しい顔を浮かべる。
「俺は……怒っているんだ。」
「…え?」
「何で………何であの時!なにも言わずに去った!」
8年越しの悲しみ、怒りが無意識に俺の声を荒らげさせた。
茅秋は大粒の涙を流して、顔を両手で覆う。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
「くっ…」
泣きながら謝罪する彼女を見て、気付くと俺も熱いものが頬をつたっていた……。
──それからどれくらい経ったのだろうか。
日は暮れかかり、空はオレンジに染まっていた。
空を見上げる俺。彼女は俯いているため髪で表情は見えないが、さっきからピクリとも動かない。
俺が口を開くと、彼女の方が先に静寂を断ち切った。
「私、怖かった…。直接さよならを言ってしまったら、もう悠くんに会えなくなるような気がしたの。だから秘密基地に手紙を残したの。」
彼女の言いたいことは痛いほど分かった。
もし俺が茅秋と同じ立場なら同じ事をしただろう。
「私、悠くんにいつかまた会える、絶対に会いに行くって決めて頑張ったの。苦手だった勉強も、料理も、家事全般。会った時に変わった私を見てもっと好きになってもらおうと思うことで、前を向けた。」
彼女は立ち上がり、俺の方を向いた。
そして胸の前で両手を握りしめ、
「ごめんなさい。」
そう静かに謝った。
彼女の言葉を聞いて既に怒りなどなかったが、俺は何も言うことが出来なかった。
むしろ逆に申し訳なくなってしまった。
しばらくして、俺は静かに立ち上がり、彼女の方に向き直った。
そして、彼女の両肩に手を乗せ、呟くように
「…もういいよ。俺の前に帰って来てくれてありがとう。」
そう言うと、彼女は再び涙を流した。
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