第25話 頼れる仲間
バイト先から家に帰り、布団の上で三浦先輩に言われたことを思い出していた。
仲の良い女子でまず思い浮かんだのは茅秋と夏恋だった。滝野は部活の仲間ではあるものの、正直まだ友達の友達って感じだしな。
二人に頼むと伊深さんが困るだろうと考え、一人にすることにした。
茅秋は打たれ弱いが、誰にでも隔てなく優しくて
、生徒に関わらず先生方からも慕われている。
一方、夏恋は気が強いため打たれ強いが、その性格ゆえ彼女と距離を縮めようとする者は多くはない。
優しい茅秋の方が伊深さんも一緒に居やすいかな……?
そう思い、茅秋に今回の件を説明すべく電話を掛ける。
『──もしもし?』
スマホから茅秋が聞こえてきた。
……なんか反響してる? もしかして入浴中か…!?
『もしもし、悠だけど……ごめん、風呂だったか? 掛け直す?』
『ううん、大丈夫。それよりどうしたの? 悠くんから電話掛けてくるなんて珍しいね』
『ああ、実は──』
伊深さんが俺が原因で虐めを受けていること、茅秋に虐めが収まるまで彼女となるべく一緒に居てあげて欲しいことを話す。
『そんな事があったんだ……うん、分かった! 私に任せて! 困っている人がいたら助けないと!』
『ありがとう。早速明日から頼むよ』
『うん。……でも』
『でも?』
『一番最初に相談したのが私じゃなくて三浦先輩っていうのは悲しいなー……』
茅秋の声が弱々しくなっていく。
『ご、ごめん! 今度からは茅秋を一番に頼るよ』
『やった! その言葉忘れないでね!』
なんか茅秋がだんだん俺の扱いが上手くなってる気がする……
『風呂なのに長々とごめんな』
『気にしないで! 悠くんからの電話嬉しかったよ。もっと沢山掛けてきて欲しいな』
『わ、分かった。また掛けるよ』
『うん、待ってるね……』
話題が無くなり沈黙が流れる。向こうから水の音が聞こえるだけだった。
『……それじゃ切るぞ? また明日──』
『ま、待って……! 』
茅秋が別れの挨拶を遮るように待ったを掛けた。
『どうかしたか?』
『えっと……その……まだ話したい……』
恥ずかしそうに言っているのが声から伝わった。
時計を見ると、まだ十時を回ったばかりだった。もう少し話しても大丈夫か……。
『分かった。でも俺も風呂入りたいからまた後でいいか? 上がったら俺から掛けるから』
『うん……! 待ってる!』
茅秋は嬉しそうに答えた。
……しかし、俺が風呂から上がった後、電話を掛けても彼女は出なかった。ラインを送っても既読が付かない。
「ね、寝やがった……」
自分から話したいと言っていたくせに……。
────────────────────
次の日の朝、伊深さんに事情を話しに茅秋とC組へ行った。
すると、席に座っている伊深さんの回りを昨日とは違う四人の女子が囲っていた。
「どうしたんだろうね……?」
茅秋が心配そうに呟く。
まだ何も起きていないのに首を突っ込むのは良くないと思い、教室の外から様子を見る。
「ねぇ虹華、お金貸して? 」
「え……き、昨日二千円貸したばかりじゃ……」
「あれっぽっちじゃ足りないに決まってるでしょ~? 早く! 私達喉乾いてるの!」
女子でもかつあげする奴って居るんだな……おっと、止めないと。
「おい! あんまりしつこいと伊深さんが可哀想だろ? 飲み物くらい俺が奢るからもう止めろよ」
「み、宮原くんだ……」
「私達、そんなつもりで言った訳じゃないよ…! 」
「と、トイレ行かない……?」
「そ、そうだね! またね宮原くん……!」
分が悪いと感じ、四人が教室の外へと出ていった。
「なんか私の悠くんが人気者で複雑な気分……」
茅秋が唇を尖らせ、不満そうな顔をしている。
「伊深さん大丈夫だった? あんなのにお金貸す必要ないよ」
「あ、ありがとう……」
近くで見ると伊深さんは窶れていて、目の下に大きなクマが出来ており、心なしか瞼が腫れている気がした。
話したいことがあると言い、人気のない廊下へ場所を移した。
「初めまして伊深さん、白鳥茅秋です。悠くんのお願いで暫く一緒に居させてもらうけど、普通に仲良くしてくれると嬉しいな。よろしくね」
「え、うん……よろしく……」
「そういう訳なんだ。茅秋と一緒に居れば嫌がらせも減るかなと思って……。余計なお節介かもしれないけど、友達が困ってるのに放っておけないから……」
「うぅ……」
「「え!!?」」
伊深さんがいきなり泣き始める。
「そんなに嫌だった!? ご、ごめん!」
「違うの……嬉しくて……」
伊深さんは溢れる涙を何度も手で拭いながらそう言った。
茅秋がハンカチを差し出すと彼女は会釈をして、それを受け取った。
「私、最近学校に来るのが怖くて……次の日のことを考えると毎晩眠れずに、泣き疲れて寝るみたいな生活だったの……」
「そう……辛かったね……大丈夫、もう大丈夫だよ……」
茅秋は伊深さんを優しく抱き締め、背中を擦った。彼女も伊深さんの悲痛な言葉に貰い泣きしていた。
夏恋に頼んでも上手くやってくれると思っていたが、やはり茅秋に頼んで正解だったかもしれない。時々暴走はするものの、誰よりも思いやりがあって、人の気持ちが分かる素敵な人柄なのだ。
その日は休み時間の度に、茅秋がC組へ様子を見に行った。
放課後は茅秋の提案により、伊深さんをボランティア部に連れて来て、他の皆にも事情は説明して協力を仰いだ。
説明した時、意外にも夏恋がボロ泣きしていて驚いた。
「私も中学で嫌がらせを受けたことあるから凄く気持ちが分かる……」
……そうだった。彼女は嫌がらせというか、犯罪の被害者になりそうになった経験がある。
「でも、その時悠が全力で助けてくれたの! あの時の悠……王子様みたいでカッコ良かったなぁ……!」
泣いていたかと思えば、すぐにうっとりと恍惚の表情を浮かべる夏恋。
「その話、詳しく聞きたいな……?」
「そうね、興味があるわ」
「俺も聞きたい!」
死んだ目でこちらを見ている茅秋と、ニヤニヤと面白そうに食らい付く滝野と涼。
茅秋が怖い……
「……ぷっ! ふふふっ!」
そんな俺達の寸劇を見て、ずっと暗い表情だった伊深さんが笑った。
「なんだ、笑った方が可愛いじゃないか」
「か……可愛い…!?」
無意識で発した俺の言葉に、伊深さんが一瞬で真っ赤になってしまう。
「ちょっと悠くん! これ以上ライバル増やさないでよ!?」
「そ、そんなつもりは……」
「これじゃあ私達の知らない所にもライバルがいる可能性があるわ。こうなったら私が悠と24時間一緒にいるしか」
「「おい!!」」
夏恋の大胆発言に俺と茅秋が全力でつっこみをいれる。
伊深さんも楽しそうにして安心した。
俺はやっぱり茅秋だけに頼むのではなく皆で彼女を助けようと決めた。
────────────────────
次の日、いつも通り学校に来ると茅秋が開かれた下駄箱の前で呆然と立っていた。
「茅秋、おはよう。そんなところに突っ立ってどうしたん…………!!」
その時俺は信じられない光景を目にした。
茅秋の視線の先、彼女の下駄箱の中には泥の入った上履きと『宮原君と仲が良い位で調子に乗んな』と書かれた紙が貼られていた。
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