第21話 大人しい女子とお化け少女
学校ジャージに着替え、いよいよ肝試しの時間がやって来た。
コースは、スタート地点のバンガローから少し離れた所にある祠で御参りして帰って来るというものだ。祠までは一本道なので道に迷うことはない。
よし、事前にこちらで決めていたペアで纏まれー」
先生の指示に従い、皆が自分のパートナーを探し出す。
俺のパートナーはC組の
……やばい。伊深さんがどんな顔なのかが分からない! 大体なんで全クラス混合でペア作ったんだよ!
探しているふりをして、相手の方から自分を見つけてくれるのを待っていると、
「いたいた。宮原くん」
作戦通り、正面から伊深さんと思わしき人物が寄って来た。
ツインテールで背も低くて、パッと見は年下に見える大人しい感じの子だった。
「えっと、伊深さんだよね? 」
「そうだけど、もしかして知らなかった…?」
「ごめん……他クラスの人とはあまり接点がないからさ。伊深さんはよく俺のこと分かったね?」
「だって宮原君カッコいいし、A組だから頭も良いでしょ…? それに、入学して間もない頃から美人二人を連れて歩いてるって噂もあるし、他クラスでも結構有名だよ…?」
「嫌な噂が立ってるなぁ……」
美人二人って多分茅秋と夏恋のことだろう。
連れて歩いてるというか、二人が勝手に付いて来てるんだよ……。
「取り敢えずよろしくな…」
「うん…」
先生の合図で肝試しが始まり、最初のペアが出発した。
俺達の順番は三番目なので、意外とすぐに回って来る。
「伊深さんはお化けとかって苦手?」
「分かんない。こういうの初めてだから…」
「遊園地のお化け屋敷とかも入ったことないの?」
「うん。私の実家は農家で、すごい田舎に住んでたから……修学旅行も都会じゃなくて世界遺産を見に行ったし……」
「じゃあ、こっちでは一人暮らし?」
「ううん、寮に入ってる…」
「そうなんだ……あ、質問ばかりでごめん。言わせっぱなしは悪いし、俺も何か教えるよ。質問ない?」
伊深さんは少し悩んでから、
「わ、私と友達になってくれませんか…?」
「……へ? 」
予想外の質問に思わず変な声が出てしまう。
「……やっぱり嫌かな?」
「いや、全然いいよ! 友達になろう。」
「あ、ありがとう……」
伊深さんは照れて俯いてしまった。そして、俺への質問コーナーはそれだけで終わった。
「次のペアー!」
先生が二番目のペアの帰着を確認してから、次のペアを呼ぶ。
「俺達だ。行こうか」
「うん」
先生にクラスと名前を言った後、二番目のペアの妙な会話が耳に入ってきた。
「な、なあ……祠の後ろの方に白い服の女の人立ってなかったか……?」
「私も見た!! 他のお化けと違って驚かせて来ないから逆に怖くて……」
「も、もしかして……本物……」
「や、止めてよ!!」
いやいや……今からそこに行こうとしてんのに何て事聞かせてくれてるんだよ……。
伊深さんもその会話が聞こえていたらしく、顔面蒼白になっていた。
出発すると、道はまるで木のトンネルのようになっており、懐中電灯で照らした所しか見えないほどの暗闇だった。
「思ったより暗いな……伊深さん大丈夫? あんまり離れない方が良いかも」
「………。」
彼女は俺の声が届いていないのか返事もなく、ただ進行方向だけを見つめていた。
すると、木の陰から「うぉおおお!!」と雄叫びを上げながら狼男が飛び出してきた。
「きゃ!!」
驚いた伊深さんがその場に腰を抜かしてしまう。
「だ、大丈夫か?」
「う、うん……でも足が竦んじゃって……」
「……ほら」
手を差し伸べると彼女は掴まってゆっくり立ち上がった。
「その……もう少し手繋いでても良い……?」
彼女の手は小さく震えていた。ここで断るほど俺も鬼ではない。……でもお化け役の茅秋にこれを見られたら茅秋が鬼になりかねない……
「ご、ごめん……茅秋がお化け役で居るから流石にこれを見られると……。ジャージの裾じゃ駄目かな……?」
「うん。分かった……」
俺最低だな……。
その後も二、三回同じ手口でお化け役が驚かせて来た。そしてついに曰く付きの祠に……。
「早く御参りして戻ろう。気味悪いし」
「……あわわわわ!」
伊深さんが祠の方を指差して震えている。恐る恐る指差す方へ視線を向けると……白い服の少女が立っていた。
「マジかよ……に、逃げよう!!」
俺は気絶寸前の伊深さんの手を握り、スタート地点へと走り出した。
「今の声って悠くん……? 暗くてよく見えないよ……もう……」
スタート地点まで一気に戻ってから思い出す。
そういえば茅秋見なかったな。……あ、もしかしてさっきのって……茅秋か!
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