第20話 もじもじ夏恋と逃げ茅秋
「茅秋ただいまー」
「ほら、茅秋! 宮原くんが来たわよ」
「お、お邪魔しまーす……」
夏恋、滝野、俺の順に部屋に入る。しかし、部屋は薄暗いままで、茅秋の姿はなかった。
「あれ? 何処に行ったんだろ……?」
「最初から居ないんじゃいつ戻って来るのかも分からないわね……どうする? ここで待ってる?」
「いや、取り敢えず機会を改めるよ。女子部屋に居座るのは少し居心地悪いし」
それに茅秋じゃない他の女子に俺がここに居るのを見られたら面倒なことになりかねない。
「そう? じゃあ茅秋に何かあったら連絡するわ」
「悪いな。ありがとう。そんじゃお暇させて頂くよ」
自室へ戻ろうと扉を開け、廊下に出ると、
「待って!」
一度閉まった扉が再び開かれ、夏恋が出て来た。
「夏恋、どうした? 」
「あ、あのね……! 肝試しの後って時間あるよね……?」
「あぁ……確かに入浴時間までは暇だけど?」
「えっと……は、話したいことがあるから……その……昨日キャンプした川原の近くにあった東屋に来てほしいの! 出来れば一人で……」
もじもじしながら夏恋は上目遣いで話してきた。
何か相談だろうか? ……いや待て、確か前にもこんなことがあった気が……
しかし、断る理由はない。折角夏恋が勇気を出してくれたのだし。
「分かった。夜は危ないし、待たせたら悪いから俺がそこに着いたら連絡するよ。部屋で待ってて」
「わ、分かった! 優しいね」
「それじゃまた後で」
「うん!」
手を振る夏恋に手を振り返し、男子部屋のフロアに行くために階段の方へ左の角を曲がる。
「きゃっ!」
「ごめん! ……って茅秋!?」
曲がってすぐの壁に寄り掛かっていた茅秋と衝突した。
「何でこんなところに?」
「と、トイレに……ご、ごめんね!」
「え? おい! ……行っちゃった」
茅秋はまるで逃げるように部屋へと走り去ってしまった。体調の具合を聞きたかったのだが……
まあ、何かあれば同室の滝野や夏恋から連絡が来るだろう……
彼女を追いかけることはせずに俺は階段を上り始めた。
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自室に入ると寝ていたはずの涼が起きてスマホをいじっていた。
「ただいまー」
「悠! 滝野さんに聞いてくれたか!?」
「あ……忘れてた」
「おい!」
涼が俺の肩をがっしり掴む。
俺、今そんなことやってる気持ちの余裕無いんだけど……
茅秋は心配だし、夏恋には告白されるかもしれないってのに。
「ごめん! つーか、お前肝試しで滝野とペアなんだから自分で頑張れよ」
「マジか……分かった、頑張るよ……」
そういえば、俺のペアは誰なのだろうか。確か、しおりに書いてあった気が……
しおりを開き、肝試しのことが書かれているページを確認する。
宮原、宮原……あった。ペアは伊深さん……って誰…?
今までボランティア部の面子とばかりつるんでたせいで他の同級生のことよく知らないかも……
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