第19話 あざとい夏恋と闇茅秋
林間学校二日目。
早朝にテントを片付けて、今日宿泊するバンガローへ移動した。そして今、部屋に荷物を置き、食堂に朝食を取りに来たところであるのだが……
「……なんか、距離近くない?」
「いいじゃーん! はい、あーん♪」
「やだよ、恥ずかしい」
「えー……」
右隣にいる夏恋が普段にも増して積極的過ぎる。十分広いテーブルであるにも関わらず、互いの肘が当たるほどの距離まで椅子を寄せている。周りの男子の目が痛すぎる……
一方、向かいに座っている茅秋は普段の美しい顔立ちからは考えられないほどに顔色が悪く、昨日より更に覇気が無い。
目の下には大きなクマ、口角は下がりきって、目は充血。しかもその顔で夏恋をずっと睨んでおり、はっきり言って怖い!
「ち、茅秋?」
「……なに?」
「どうかしたのか? なんつーか……顔怖いぞ?」
「気にしないで、寝てないだけだから」
「寝てないのか!? 顔色悪いし、先生に言って今日は休んだ方が……」
「……」
駄目だ、俺の声が届いてない。ずっと何か呟いてるし。
オリエンは茅秋とは別々なので様子を見ていられない。……倒れないか心配だ。
「夏恋、確か茅秋とオリエン一緒だよな?」
「そうだけど? 」
「悪いが、あいつの様子見てやってくれ。具合悪そうだし。」
「分かった。悠のお願いなら喜んで!」
「……サンキュー」
夏恋のウインクを無視して食事に戻る。
あー、フレンチトーストなんて久し振りに食べたな。それにしても、今日の夏恋スゲーあざといな……
茅秋はそんな夏恋を見て、箸を噛み砕いてしまいそうな勢いで睨んでいた。
昨日は元気がない感じだったけど、今日はずっと怒っているみたいだ。一体あの後に何があったんだ?
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沢下りの出発地点。揺れる船体にバランスを崩しそうになりながら舟に乗り込む。
「……なあ、悠」
涼が荷物を足元に下ろしながら、話し掛けてくる。
「もう始まったんだからトイレには行けないぞ?」
「いやいや、そうじゃなくてさ……もっと大事な事だよ」
「何だよ。」
「俺、滝野さんをどんどん好きになってるみたいなんだ……」
「……。」
「あの……聞いてる? 結構マジなんだけど」
「あ、空耳じゃなかったのか。で、俺にどうしろと?」
「滝野さんに俺のことどう思ってるのか聞いて欲しいなーって。」
「良いよ。オリエン終わったら言っとく。涼が滝野のこと好きなんだってよーって」
「お、おい! さりげなく聞いてくれよ!」
「はははっ! 冗談だよ。任せとけって」
涼はからかい甲斐があるな。思った通りの反応をするから余計に面白い。
こいつにはボランティア部に快く入ってくれた恩があるし、恋の手助けくらいしてやらないと。
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その後、何事もなく沢下りは終了し、昼頃にバンガローに帰着した。肝試しの時間までフリーなので、その間寝ると言っていた涼を置いて食堂へ昼食を食べに行くことにする。
サンドイッチを注文し、窓際の席を探していると奥の席に夏恋と滝野が座っていた。
「おっす。隣座るぞ?」
「あ、悠! 戻ってきたんだ! 沢下りはどうだった?」
「普通に楽しかったよ。バギーはどうだった?」
「結構スピード出て怖かったけど慣れたら楽しかった~」
「へぇ、バギーと悩んだから羨ましいな」
「私も悠と一緒が良かったな」
ぐっ……不覚にも少しときめいてしまった……
茅秋と夏恋はこういう事を躊躇いなく言うから心臓に悪い。
「……そういえば茅秋の様子はどうだった?」
「どうもこうも何も変わらないわ。ずっと元気が無いの。今は部屋で寝ているわ」
「そうか……」
滝野がやれやれという感じで答えた。どうやら夏恋が話したらしい。
「心配なら部屋に見に来る?」
「え!? でも女子部屋に行くのは……」
「私達と一緒なら大丈夫でしょ」
「そ、それなら……少しだけ様子を見に行こうかな」
「決まりね。行きましょ?」
「そろそろ起きてるだろうし」
そう言って滝野と夏恋は立ち上がる。俺も皿の上にある最後のハムサンドを口に押し込み、彼女に続いた。
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