第9話 長い一週間の終わり

茅秋はこちらへ早足で来て、俺と夏恋の間に入り、自分より少しだけ背の高い夏恋を睨み付けた。



「ちょっと、何やってんのよ。」


「白鳥さんこそ、ここで何を?」


「先に質問したのは私なんですが?」



こ、こんな茅秋見たことない……!!

今にも夏恋の喉元に噛みつきそうな形相である。



「白鳥さん。私、悠のことが好きなの。邪魔しないで。」


「なんで私達が許嫁って分かってて彼に手出すの?」



女同士の喧嘩ってこんな恐いの!?なんかここだけ酸素が薄い気が……

と、とにかく止めないと!



「ま、まあ2人とも少し落ち着いて…」


「「悠(くん)は黙ってて!!」」


「はい……」




──その後も2人は一歩も譲らず、20分ほど言い争っていた。



「悪いけど私は手を引くつもりはないから!」


「私だって!」



ふんっ!と止まないと思った言い争いが止んだ。



「悠くん、行こっ!」


「あ、あぁ……」



茅秋が俺の腕を引っ張って公園の入り口の方へズンズン歩く。後ろで夏恋が「ちょっと!」と言っているが茅秋は無視して歩き続けた。




そのまま勢いで茅秋の家の前まで来た。先陣切って歩いていた茅秋が振り返って俺に抱きつく。



「怖かった。悠くんを取られるかと思った…」


「なんだ、強がってただけなのか。」


「だって負けたくなかったから…」


「そっか…」


「ねぇ、悠くんもギュッてして?」



涙目の上目遣いでお願いされる。


それは反則だろ……

腕をゆっくり茅秋の背中の方へまわそうとする……が我に戻り、抱きついた茅秋を肩を押して離す。



「俺はまだお前のものになった覚えはない!」


「もう、許嫁なんだから良いじゃない…」



と口を尖らせて拗ねる。



「それにしてもあの関本だっけ?私の知らないところで……許せない!」



と今度はプンスカ怒る。ほんと喜怒哀楽がはっきりしてるなぁ。



「その…悠くんはあの子と付き合うの……?」


「夏恋の気持ちは嬉しかったけど俺は全然好きじゃないから付き合わないよ。」


「ほんとに!?良かった…」



安堵するようにため息をつく。

すると、玄関が開いて秋穂さんが出てきた。



「茅秋ー?帰ってるなら家に入りなさい……ってあらまぁ!私お邪魔だったかしら?」



俺と一緒にいる娘を見てニヤニヤしている。

茅秋が真っ赤になって、



「今戻るから中で待ってて!!」


「はいはい。」



ニヤニヤしながら玄関を閉じる。



「もうお母さんったら…!」


「ははは……。まぁ、もう遅いし戻ったほうがいいな。」


「うん、そうだね…」


「そうだ、澪のこと覚えてるか?」


「妹ちゃんだよね?覚えてるよ。」


「あいつも馴染みだし、久々に茅秋に会って貰おうかと思って…ゴールデンウィークの初日空けといてくれるか?」


「そっか!分かった、空けとくね!」


「ありがとう。じゃ、また月曜日な。」


「うん!おやすみ。」



手を振って玄関へ走っていく茅秋を家の中に入るまで見送り、俺も帰路に就く。




携帯を見ると夏恋から一件通知が来ていた。

おそるおそる開くと、



『さっきはごめんなさい。これからも普通に接してくれると嬉しいな。でも私、諦めてないから!白鳥さんには渡さない!』



……これはまた茅秋と言い争いが起きそうだ。

考えただけで胃が痛い。



疲れたし、明日はバイトの時間ギリギリまで寝てよう…

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