第27話 隠し事

「羽目外し過ぎて警察の厄介にはならないように」



藍先生がクラスの中でも騒がしい連中を見ながら釘を刺す。

夏休み前最後のホームルームが終わり、解放されたように皆が喋りだす。



「悠、部室行こうぜ」

「悪い、今日は美化委員の仕事があるんだ。先に行っててくれ」

「了解……てことは関本さんも遅れてくるってことだな」

「ああ、他の三人にも言っておいてくれ」



三人とは茅秋と滝野、この間入部したばかりの伊深さんのことである。先日の事件の後、俺達ともっと交友を深めたい、自分も困っている人の役に立ちたいと思ったらしく入部届けを提出してきた。賑やかになるのは喜ばしいことだし、人手が増えれば依頼の達成も楽になる。皆も歓迎していた。



俺は廊下に出て、女子のグループとお喋りしている夏恋を呼ぶ。



「夏恋! 見回り始めよう」

「うん! 今行くー!」



夏恋はスマホをいじりながら、此方に歩いて来た。



「何見てるんだ? 」

「あ、見ちゃ駄目!」



気になって画面を覗き込もうとすると素早く隠された。

別に隠し事とかは気にしないが、あからさまに隠されると気になってしまう……が、恥ずかしそうに赤くなっている夏恋の様子を見るに、あまり深く聞かない方が良いのだろう。



「ごめん。スマホはプライバシーの塊だもんな」

「う、ううん! こっちこそごめん……こんなにがっつり隠されたら気分悪いよね」

「大丈夫。まあ、気になりはするけど、教えたくないんだろ?」

「……うん。でも、その内分かるから……!」

「そっか。じゃあそれまで待ってるよ」



夏恋は小さく、ありがとうと言って微笑んだ。




見回りを終わらせ、部室に行くと伊深さんと滝野が楽しそうに話をしており、茅秋は今日渡されたばかりの夏休みの課題をし、涼は椅子の上で居眠りしていた。

俺達も空いている椅子に座り、一息つく。気配に気付いたのか、涼が起きた。そしていきなり皆に話題を振る。



「皆は休み中に何か予定ある?」

「涼は何かあるのか?」

「俺は特に無いかなー。愛犬と少し遠目のドッグランに行こうかと思ってるくらいだな」



質問に質問で返すが、涼は気にせず答えた。

涼は飼っている犬を溺愛している。彼から話す時は大体犬の話。



「私は家族とお婆ちゃんの家に行くわ」



そう言ったのは滝野。それに滝野Loveの涼が食らいつく。



「ここから遠いの?」

「ううん、車で二時間くらいだからそこまで遠くはないわ。でもここ最近は私の受験だったりであまり会いに行けてなかったから久し振りの帰省なの」

「そ、そうなんだ! 」



滝野のことを好きなのがバレバレの受け答え。

皆も最近気付いたらしく、ニヤニヤしながら二人の会話を見ていた。

想い人と話せて幸せそうな涼が他の人に聞くのを止めてしまったので俺が振り始める。



「伊深さんは?」

「私も祖父母の家に行くくらい。親戚一同集まって、いとこ皆で花火で遊ぶのが毎年恒例なの。」

「へぇ、楽しそうだな」

「うん、楽しいよ! 宮原くんも来る?」

「いやいや、俺場違いだろ」



俺の家は親戚で集まったことなんて無いんじゃないだろうか。それくらい記憶がない。忙しい親父は夏休みだからといって、ほとんど家に居ることはなかった。従兄弟と最後に会ったのは多分俺が小学校に入る前だった気がする。そのせいもあり、顔もあまり覚えない。



「悠は実家に帰らないの? 」



長机を挟んだ向かい側の席に座っている夏恋が質問してくる。



「帰らないかな……バイトもあるし」

「そうなんだ~……じゃ、じゃあ来週とかって空いてる……?」

「? 特に予定は無いけど」

「良かった! その……良かったら私と海……」



と言いかけたところで、



「悠くん、私と海に行かない?」



課題に集中していて、話題に入って来ていなかったはずの茅秋が悪気なく遊びの誘いをしてきた。

一方、同じことを考えていたのか、夏恋が悔しそうに俺を見つめている。俺が茅秋の誘いを受けるのか気にしているのだろう。



「行くのは良いけど、どうせなら皆で行かないか? 」

「皆で? ……うーん、悠くんと二人っきりが良かったけどそれでも良いかな! 結婚したらずっと二人っきりなんだし」

「……ありがとな。皆も来週大丈夫か?」



敢えて彼女の後半の言葉は流して話を進める。

皆来週は空いてるらしく、全員で行けるようだ。

夏恋は安堵し、「やった! 夏休みも悠に会える!」と嬉々として呟いていた。

確かに、ボランティア部は夏休み中の活動の予定はないため、会う約束でもしなければ次に顔を合わせるのは休み明けになる。



「でも、この時期の海水浴場って人口密度ヤバいぞ? もしかしたらまともに泳ぐことも出来ない可能性がある」



涼が苦笑いをしながら言う。すると茅秋が……



「それなら、少し遠いけど私のおじいちゃんの別荘とプライベートビーチがあるよ」

「「 !!? 」」



衝撃的なお嬢様的発言に俺と滝野を除いた全員が絶句した。



「ぷ、プライベートビーチだと!!?」

「お金持ちだとは薄々思っていたけど想像以上ね……」

「………。」



涼は驚愕、夏恋は唖然、伊深さんは口を開いて驚いたまま硬直している。

滝野は知っていたのだろうか、茅秋の発言に対しては無反応だったが、それを聞いた皆の反応を見てクスクスと笑っていた。

正直、別荘なら宮原家も所有しているので俺も驚きはしなかった。

皆の不自然な反応に不安になったのか、茅秋が俺に耳打ちしてくる。



「私、今変なこと言った?」

「まあ世間一般的にはプライベートビーチは愚か、別荘なんてものは所有していないから驚いたんだろ」

「そ、そうなんだ……普通だと思ってた……」

「というか本当に良いのか? 確か茅秋のおじいさんって……」



そう、茅秋のおじいさんは既に亡くなっている。俺達が小一の時に亡くなったのだ。茅秋の家へ遊びに行った時にお世話になったので悲しかったをよく覚えている。



「……大丈夫。おじいちゃん、亡くなる直前に別荘とビーチは茅秋に任せるって言ってたから。今は私の別荘とビーチなの」

「そうだったんだな。じゃあ茅秋のおじいさんに感謝しないと」

「ふふっ、おじいちゃん喜ぶと思う」



などと話していると、



「ちょっと! 何、二人でイチャイチャしてんの!」



夏恋がやきもちを妬いて俺達の会話を遮った。

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