第47話 二人の関係は?
母さんに頼まれた買い物をしに、俺と茅秋は近所の商店街に来ていた。
「お野菜沢山おまけして貰っちゃったね」
「八百屋のおっちゃん……「お嬢ちゃん可愛いからおまけしとくな!」って言って買った量の倍の野菜入れやがって……俺がこっちに住んでたときは一回もおまけなんかされたことなかったぞ」
「ふふ、でもこれならきっとお義母さん喜ぶよ」
「ああ、目を見開いて驚くだろうな」
こんな風に茅秋と談笑ながら買い物をしていると、肉屋のレジの横の壁にあったポスターに目が留まる。
『毎年恒例! ふるさと祭り』
それは地元の花火大会の予告ポスターだった。
そういえば高校に入って引っ越すまでは毎年澪と来ていたなぁ。
開催日は二週間後の夏休みの最終日だった。
自宅への帰路の途中、
「なあ、茅秋」
「ん? なに、悠くん」
「夏休みの最終日にある花火大会に一緒に行かないか?」
「花火大会!? 行きたい!! あ、でもごめんなさい……その日は用事があるの……」
茅秋は一度喜んだ後に落胆しながらそう答えた。
「そっか……用事があるなら仕方ないな、すまん」
「ううん! 悠くんが謝らないで! 私の方こそ折角悠くんの方から誘ってくれたのにごめんなさい」
「いや、突然誘った俺も悪いし、気にしないで良いよ。仕方ない、その日は澪と行くかな……」
受験生と言えど、たまには息抜きも必要だろう。それに澪の成績なら一日祭りに行くくらい問題ないはずだ。
「も、もし用事が早く終わったら私も行きたい!」
「そうだな、祭り自体は十六時開始だけど花火は二十時からだから、終わったら連絡くれ」
「うん! 絶対早く済ませて行くね!」
そう言って、茅秋が顔の近くにガッツポーズを作り、意気込む姿はとても可愛いかった。
────────────────────
家に着くと、予想通り母さんは明らかに頼んでいたよりも多い食材に目を見開かせて驚いていた。
その後、夕飯にすき焼きを食べた。母さんと澪と茅秋の楽しげな話し声が部屋に響いて、今までここで食べた夕飯の中で一番美味しく感じた。
驚いたのは、楽しそうに話す三人を見て、あの寡黙な父さんがほんの少しだけ微笑んでいたことである。
俺は生まれて初めての楽しい家族との夕食に思わず、涙が出そうになった。
帰り際、母さんと澪が玄関先まで見送ってくれた。
「茅秋ちゃん、今日は来てくれてありがとう。またいつでもいらっしゃいね」
「また来てね、お姉ちゃん!」
「こちらこそ御馳走して頂いてありがとうございました。その……お義父様にも宜しくお伝え下さい」
そう言って茅秋は深々と頭を下げた。
いつまでも手を振り続ける澪に背を向け帰路へ着く。
「今日はホントに来てくれてありがとな」
「ううん、こちらこそありがとう。とっても楽しかったよ」
これを最後に会話は途絶える。次に会話が始まったのは、茅秋が自分の家の前に着いた時だった。
「え、えっと……私達って今どんな関係なのかな……?」
「あ……そういえば」
そう、父さんからの許しが出たのだから、晴れて俺達は恋人同士になれるのだ。
だったらするべき事は一つ……告白だ。好きという気持ちを伝える告白ではない。恋人になって下さいと交際を申し込む告白だ。
とは言っても相手は茅秋。結果は分かりきっているのだが、やはり男としては、はっきりさせておくべきだろう。
「あのさ、茅秋。俺と付き合っ……」
「待って!!」
覚悟を決め、照れながらも発せられた俺の告白の言葉は茅秋に途中で遮られた。
「お願い、待って……」
「どうして?」
茅秋も何を言われるのかは察していたのだろう。暗がりでも分かるほど頬を紅潮させていた。しかし、それならなぜ茅秋は告白を制止したのか。俺達は互いに両思いだということを分かっているはずだ。もしかして俺愛想尽かされたか……!?
「こ、これは私の我儘なんだけど……告白はデートの最後にされたいなぁ……なんて」
「なんだ、そういうことか……てっきり断られるのかと思ったよ」
確かにこんなロマンチックのロの字もないような雰囲気で告白されるのは嫌だろう。
今日はデートではない。要するに、別日にまた出掛けようということだ。
「分かった。また今度な」
「うん! ごめんね、ありがとう」
俺達はここで別れ、俺はアパートへ向かい歩き出すと、スマホの通知音が鳴った。
差出人は茅秋。何か伝え忘れたのか?
メールを開くと、そこには一言。
『月末の休日は絶対に空けておいてね』
とだけ書かれていた。
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