第1話 ストーカー

  俺は家から少し離れた四季学園高等学校に通うことになった。

  実家からだと電車とバスを何度か乗り換えなくてはならないため学校から徒歩圏内のアパートを借りた……というのは表向きの理由で、本当の理由は他にあるがその事に関しては考えたくもない。



 今日は入学式の二日前。日中はアパートに実家からの荷物を搬入する予定があり、夕方は妹の澪が夕食を作りに来てくれるらしいので二人で買い出しに行く。


 引っ越し業者が来るまで少し時間があるので、通学路の確認がてら散歩に行くことにした。



 スマホの地図で確認しながら校門まで無事到着できた。そして、学校に植えてある桜の花の蕾がまるで新入生が来るのを待っているかのようだった。


帰りに近くのコンビニに入った。麦茶でも買おうと奥のドリンクの陳列棚へ向かうと紅茶と緑茶を交互に睨んでいる少女がいた。


 肩に少しかかるくらいのセミロングの茶髪で、銀色の花の髪飾りをしており、肌が白く、淡い水色のワンピースを着ている。一言で言えばかなりの美人だ。同い年だろうか?でもあまりジロジロ見てると怪しまれるので、


「すみません。前失礼します。」


そう言って割り込むように麦茶を手に取った。


「あ、ごめんなさい!……え!?」


俺の存在に気付いた彼女は謝罪の後すぐに目を見開いて驚きの声をあげた。


「気にしないで下さい!どうぞごゆっくり。」


店員か俺は!そう自分に心の中でツッコミながら彼女が何故驚いたのかは聞かずにそそくさとレジへ向かった。



 会計を済ませ、店を出てスマホの時計を見ると引っ越し業者が来る30分前だったので、麦茶を少しずつ飲みながら帰路に就く。………ん?なんかつけられている気がする。


「誰だ!!」


「きゃっ!」


そう言って勢いよく振り返ると先程コンビニにいた少女が驚いた顔で立っていた。


「えっと、何か用ですか?」


「ご、ごめんなさい!あなたが知り合いにあまりにも似ていたので…多分私の勘違いです。ごめんなさい。」


そう言って彼女はその場を風のように去って行った。なんだったんだ?




────────────────────

 その後、何もない我が拠点へと帰り、無事搬入が終了した。とりあえず必要な物だけは…と思い、段ボールから食器、各種洗剤、衣類、ハンガーなどを取り出していると玄関のベルが鳴った。


「はーい!」


そう言って玄関の扉を開けると黒髪ショートで、緩めな白いブラウスにミニスカートを見にまとった少女、妹の澪がいた。


「よっ、お兄ちゃん。」


軽い感じに小さく手を挙げて挨拶してズガズカと中に入って来た。


「うわっ、やっぱ段ボールだらけだねー!」


「ついさっき搬入が終わったばかりなんだ。つか飯作ってくれるだけなのにお前荷物多くね?」


「あれ?ラインしたじゃん。今日泊まるって。」


ポケットからスマホを見ると確かに通知が来ていた。


「前日とかに連絡しろよ…」


「私も昨日の夜までは夕飯作って一緒に食べたらすぐ帰るつもりだったんだけど、朝起きたらお母さんがやっぱお兄ちゃんが一人暮らし始めての夜で寂しくて泣くかもしれないし、心配だから泊まって行けって……」


「なるほどな…やっぱり母さんか。てか泣かねーわ!」


俺達の母は心配性だ。


「そういえば、泊まるったって寝るとこないぞ?」


「え?あそこで一緒に寝れば良いじゃん?」


澪は俺の運ばれてきたばかりのベッドを指差して不思議そうに答えた。



  澪は今年から中学三年生。料理、勉強、裁縫などありとあらゆる嫁スキルをマスターしているが、一つ問題がある。それは、年頃の女の子のはずなのに男の俺に対してガードが薄すぎる。実家にいたときは、俺がいようと関係無しに下着姿でうろついたり、兄妹二人で買い物に行く誘いを普通にデート行こうとか言うし、外でも周りの目を一切気にせず腕を組んでくる。おかげで何回カップルと間違えられたか…。



「そんな事はいいからデート行こ?」


「…買い物な?」



言ったそばから…。可愛いから良いんだが!


 そんなわけでアパートの近くにあるスーパーに来た。

何を作ってくれるのかは聞いていないため澪の後を買い物カートを押しながら付いて行った。次々と食材がカゴの中に入れられていくが食材を見ても凝った料理はしない俺には想像もつかない。


「何を作ってくれるんだ?」


レジの列に並んでいるときに澪に尋ねると、


「な・い・しょっ」


からかうようにウインクして答える。可愛いな、おい。




────────────────────

 帰るとすっかり部屋は薄暗くなっていた。カーテンを閉め、買った食材を新品の冷蔵庫に入れるとすぐに澪がエプロンをして野菜などを切り始めたので、俺は残っている荷物の入った段ボールを開封して、部屋を整理することにした。



 しばらくして、部屋中に良いにおいが広がり、片付けも終盤に差し掛かった頃、手に取った本の間から一枚の写真が落ちたのに気付いた。


「これは…懐かしいな。」


 その写真は幼い頃の俺と澪、その隣に白いワンピースを着た黒髪の少女が照れ臭そうにピースをして写っていた。


「この子の名前は…」


「あ!ヒラリお姉ちゃん!懐かしい!」


横から澪が顔を覗かせて言った。


「…なあ、この子の本名って何だったっけ?」


「分からないよ。だってヒラリお姉ちゃんがいなくなったとき私まだ5、6歳だったんだから!」



ビシッと右手に握ったおたまを俺に向けて言う。



「…そうだよな。あ、メシできたのか?」



テーブルには色鮮やかな料理が並べられていた。



「うん。澪特製パエリアとシーザーサラダ!」


「おっ、うまそう!食べようぜ!」


そう言って俺は写真を机の上に置いた。

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