第11話 残りの3人。そして悠の秘密①
「部室は部室棟の2階の一番奥な。はい、これ鍵。あ、部長は白鳥な?あと悪いんだけど、今月中に部員あと3人増やしといて。よろしくー。」
と話はどんどん進み、混乱している間に俺達は気付いたら職員室前の廊下にいた。
「なんか面倒なことになったな……」
「うん…でも何だか楽しそうじゃない?」
「ま、そうだな!とりあえず部室行ってみるか。」
説明された場所に行き、扉を開くと、中は思っていたより綺麗に整理整頓されていた。…というか長机が2台、パイプ椅子が5脚、棚が1本しかない殺風景な教室だった。
「なんだか寂しい部屋だね…」
「ま、ボランティアは外に出向いて活動するわけだし、ただの控え室みたいなものなんだろうな。」
「………。」
「………。」
いきなり部活に入部させられ、どうして良いか分からない俺と茅秋は椅子に座って沈黙する。
「…で、どうする?部長。」
「とりあえず部員集めなくちゃいけないんだよね…呼び込みする?」
「そうだな。茅秋は誰か心当たりの人いるか?」
「うーん、彩ちゃんなら入ってくれるかも。」
「滝野か?じゃあそっちは頼む。俺は涼あたりを誘ってみる。今日はバイトもないし今から行くよ。」
「うん。じゃあまた後でね。」
「おう。」
俺は部室棟から1-Aの教室に移動し、涼を探した。教室を見渡すと、涼が隣の席の男子と話していた。
「涼!」
話すのを止め、こちらへニヤニヤとした笑みを浮かべながら歩いてきた。
「お、悠。なーに説教されたんだ?」
「説教じゃねーよ!実は…」
涼にボランティア部のこと、部員が3人必要なことを話す。
「なるほどねー。お前も大変だなぁ。」
「そこで涼に頼みがある。いきなりで申し訳ないんだが、ボランティア部に入ってくれないか!?」
涼に頭を下げてお願いする。普通に考えて、こんな急に言われても、「うん、いいよ。」なんて言う筈がない。
「うん、いいよ。」
「だよな!いきなり過ぎたよな!悪い、他を当たるよ……って、え?」
「別にいいよ。楽そうだし。」
「ホントか!!助かる!ありがとう!」
「良いってことよ。」
俺達は固い握手を交わした。すると、黒板の方から、
「私も入りたい!」
そう言ったのは黒板掃除をしていた夏恋だった。
「こっちは助かるけど…いいのか?」
「うん!別に他に入りたい部活なかったし……悠が一緒なら入りたいなぁって…」
「…?後半の方よく聞こえなかったが、ありがとう。」
よし、あとは茅秋が滝野さんにOKを貰えていればノルマ達成だ。
思ったより結構簡単に集まったなぁ……
────────────────────
承諾してくれた2人を連れて部室に戻ると、茅秋と滝野さんが椅子に座っていた。
「お、滝野さん入ってくれるのか!」
「なんか話聞いたら楽しそうだったし。よろしくねー。」
滝野さんはペコリと軽く頭を下げる。
「悠くんの方はどうだった?」
「あぁ、2人確保できた。」
「ホントに!?やったね!これで人数は…って」
「「何で白鳥(関本)さんがいるの!!?」」
茅秋と扉から顔を出した夏恋の目が合った瞬間、息ぴったりにお互いを指差して驚く。
「ちょっと悠!白鳥さんがいるなんて聞いてないんだけど!?」
「なんで?お前ら仲良しじゃん?」
「「仲良しじゃない!」」
ほら、息ぴったり。
涼が俺の肩をつついて、
「なぁ、お前らっていつの間に三角関係なってたのか?」
「…色々あったんだよ。」
「ほう、詳しく聞かせてほしいな。」
頼む…聞かないで…。
「じゃあ俺先生に報告してくるよ。」
「あっ、私も行く!」
「よし、じゃあ3人は入部届を書いていてくれ。」
茅秋と藍先生に報告をしに職員室へ向かう。
すると、職員室横の掲示板の前で三浦先輩の姿が見えた。
「三浦先輩。こんにちは。」
「お!悠くんに茅秋ちゃん。こんにちは。」
いつもの素敵な笑顔で挨拶を返してくれた。
あの件以来、すっかり三浦先輩に警戒心を抱いている茅秋は俺の後ろに隠れる。
「こ、こんにちは…」
「あはは。茅秋ちゃんにはすっかり嫌われちゃったみたいだねー。」
先輩が困ったように笑う。
「職員室に何か用でもあるの?」
「実は俺達ボランティア部に入ることになったんです。」
「ふーん。ボランティアってなんか大変そうだけど頑張ってね!」
「ありがとうございます!」
やっぱり先輩は天使…いや女神だ。
「悠くん、鼻の下伸びてるよ!」
茅秋が頬を膨らませて俺の耳を引っ張る。
相手には悪いが、嫉妬されるのは少しばかり嬉しいと思ってしまうな。
───その後、先生に報告を済ませて解散した。
途中のバス停まで涼と帰ったが、茅秋は滝野さんと駅前のカフェに行き、夏恋はそもそも家の方向が逆なため、俺1人になった。
夕飯をどうしようかと考えながら歩く。
バイトは始めたばかりなので、まだ今月は母さんから支給された食費でなんとかしなければならない。バイト代が出るまでは無駄遣いは出来ないのでなるべく安く済ませたいところ。
澪が来てくれる時以外はどうしてもコンビニ弁当やカップラーメンばかりの食生活になってしまう。自炊も考えないとな……
家の近くの格安スーパーに入る。
カレーを作れば、三食分以上は何とかなる。二食はカレーライスで食べ、飽きたら出汁を加えてカレーうどんにでもすれば良い。それにカレーは時間が経つほど旨いしな。
カレーの材料と米1kg、冷凍うどん、顆粒タイプの和風出汁を買い物かごに放り込み、会計を済ませる。
コンビニ食数日分の金額のことを考えれば、かなり安かった。
食材調達を終えたので家に向かう。
────────────────────
母さんに食費は最初の月だけくれればあとは自分で何とかすると言ったが、それは父さんがいない所である。父さんの前で言えば面倒なことになりかねない。「宮原家の長男が貧乏臭い生活をするな。」などと言うだろう。
実のところ、俺は父さんと仲が良くない。というか俺が一方的に嫌っている。中学ニ年生の冬休みのあの日から…
父は大手自動車メーカーのC.E.O.をしており、性格はかなりの堅物、真面目。また、昔からの仕来たりを大事にしていることもあり実家には様々ルールがあった。
俺が父さんを嫌いになったのは中学ニ年生の冬休み、家族で父の所有する遠くの別荘へ行った日である。その時は何故か正装で行かされたのだ。その理由はすぐに分かった。
父さんに促され、客室に行くと、見知らぬ髭を生やした男の人と俺と同年代の女の子が座っていた。父の会社と提携を結ぶ予定の自動車メーカーの社長さんと、その娘さんらしい。
…そう、父さんは俺の知らない所で勝手に縁談の話を進めていたのである。
当時14歳の俺とって縁談は早すぎるし、その時はまだ茅秋のことが好きだったため、無論断った。しかし、父さんは俺が折れるまで何度も何度も話を持ち掛けた。結果、俺は渋々茅秋との約束を諦めた。
一人暮らしを始めたのは父へのボイコットの意味もある。別の言い方をすれば父から逃げたのだ。
そんな中、茅秋と思いがけず再会し、最初は大人っぽくなった彼女に気付くことは出来なかったが、昔と変わらない天真爛漫な性格、約束のことも覚えている知った時はとても嬉しかった。でも彼女が嬉しそうに『許嫁』という単語を口に出す度に胸がちくりと痛んだ。彼女とは約束を果たせないのだから…
────────────────────
嫌なことを思い出しながら野菜を切っていると、
「いてっ!!」
集中を欠いてたせいか包丁で指を切ってしまった。
「絆創膏あったかな……」
実家から持ってきた救急箱を開け、絆創膏を1枚取り、患部に貼る。
その後も苦戦しながら調理を進め、なんとか美味しく出来たが、三時間も掛かってしまった。
澪の料理の腕ってやっぱ凄いんだな…。今度改めてお礼を言おう。
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