第16話 皆で買い物
道行く人のほとんどが半袖の涼しげな服装になってきた。四季高でも衣替えが始まり、女子の白と基調とした制服に男共が浮かれていたのは言うまでもない。
「まだ6月なのに暑すぎやしないか……?8月になったらどうなっちまうんだよ……」
団扇を扇いでぼやく涼。
俺達は今日も何かするわけでもなく部室に集まっていた。
活動はゴミ拾いの依頼が多く、正直やりがいのあるものは今のところ全くない。
「ねぇ、この部活って部費ないの?」
夏恋がブラウスの二番目のボタンを開けながら茅秋に聞く。
「うーん、無いことはないけどボランティア部って必要な備品とかないからやっぱり少ないよ」
「えぇーー……部費があれば扇風機とか買えるのにー……」
項垂れる夏恋。
確かに扇風機の1つくらい置いて欲しいな……
「今度、生徒会に言ってみる。もしかしたら扇風機くらいなら学校の備品で貸して貰えるかもしれないし!」
茅秋はこんだけ暑くても制服を着崩すことなく模範的な服装だった。彼女のような真面目で容姿端麗な生徒が頼めば生徒会も許可してくれるはずだ。
「そういえば、皆は林間学校の準備した?」
滝野が放った言葉に涼と夏恋が凍りつく。
明日から一年生は2泊3日で林間学校がある。
俺は昨日準備して、足りない物を今日の帰りに買う予定なので問題ない。茅秋も昨日メールで必要な物を聞いてきたので準備はしたのだろう。
「な、なぁ悠……この後空いてる……?」
「あぁ、大丈夫だけど……まさかお前まだ準備してないのか?」
「頼む! 買い物付き合ってくれ!!」
「分かったから離れろ!」
泣きながらしがみついてくる涼を押し話す。
「私も行きたい!」
「じゃあ私もー!」
夏恋と滝野が手を挙げた。
どうせこのまま部室にいても今日は依頼は来ないだろう。
「じゃあ今日は活動ないし、すぐに行くか」
「「「 おー!! 」」」
3人が立ち上がって帰る準備を始める。全員用意が出来たのを確認して廊下への扉を開こうとすると、
「ま、待って!!」
振り返ると茅秋が焦った表情でこちらを見ていた。
「どうした茅秋?」
「…………わ、私も行きたい!!」
顔を赤くして大声で言う茅秋に皆驚いたが、すぐに笑った。
「早く準備しないと置いてくぞー」
「うん!」
机に広げていたノートとペンケースを鞄に入れ、俺達の後を追いかけてきた。真面目なように見えて子供っぽいところがあるのが茅秋の魅力の1つだな。
────────────────────
5人で駅前のショッピングモールへ来た。ここなら服も日用雑貨も揃っているので丁度良い。
中に入ると冷房が入っていて涼しかった。
「私、こういう所来るの初めて……」
茅秋がキョロキョロと見渡しながら話す。
それを聞いて夏恋が驚く。
「え!? 普段何処で買い物してるのよ!」
「ネット通販だよ。あとはお母さんが買って来てくれることもあるかな」
驚いた……コンビニには行くくせに、こういう女子高生が好きそうな店には行かないのか……
「そういえば、前に駅前のカフェに連れて行った時も初めてって言ってた気が……」
滝野が茅秋のインドア情報に捕捉を加える。
「普段何してるんだ?」
「うーん……料理、掃除、勉強かな? たまにピアノもやるよ」
お嬢様か!!……って茅秋はお嬢様か……
あんなデカい家に住んでいるのだ。容易に想像できる。
「何か驚き過ぎて疲れた……私、先に服とか見てくる……」
「私も行く。あとで連絡するねー」
夏恋がふらふらと上りのエスカレーターへと向かうのを滝野が追いかけていった。
「涼は何買うんだ?」
「俺は軍手とボストンバッグかなー」
「そっか。じゃあ終わったらフードコート集合で」
「ほーい」
やる気のない返事をして、涼もエスカレーターで上のフロアへ行った。
そして茅秋と俺の2人になる。
「茅秋は何か買うものあるか?」
「ううん。私は付いてきただけだから……」
「じゃあ迷子になられても困るし、一緒に回ろう」
「迷子って! 私、もうそんな歳じゃないよ!」
子供扱いされたことに、頬を膨らませて怒る茅秋。……可愛いからつい、からかいたくなるな。
「雨合羽と軍手を買うから俺達も上に行くぞ」
「ま、待ってよ!」
先にエスカレーターに乗ると、茅秋は次々出てくる階段におそるおそる跳び乗った。
「まさかエスカレーターにも乗ったことないのか?」
「うん……」
恥ずかしそうに頷く。これは信じられないレベルの箱入り娘だな……。
その後も茅秋は目に入るもの全てが珍しく見えるようで、時々ちゃんと付いて来ているか確認しないと本当に迷子になりそうだった。
まだ色々見たいと子供のように駄々をこねていたが、他の3人がもうフードコートに居ると涼から連絡が来たので「また今度来よう」と言うと、大人しく諦めた。
フードコートに着き、3人を探して見渡すと遠くで此方に気付いた夏恋が手を振っていた。
「悪い。お待たせ。結構みんな早かったな?」
「ああ、俺が1番で次に関本さんと滝野さん。それより、随分まわってたんだな?」
「茅秋が駄々こねててちょっとな……」
「ご、ごめんなさい……」
申し訳なさから茅秋が小さくなる。一応反省してるみたいだし、これ以上は責めないであげよう。
「この後どうする?」
「はい!」
「はい、夏恋さんどうぞ。」
挙手した夏恋を指名する。
「ねーねー! せっかく5人で来たんだし、上のゲーセンでプリクラ撮ろうよ!」
皆も賛成らしく、席を立った。茅秋は首を傾げていたが……
最上階のゲームセンターに着くと、騒々しい空間に茅秋が尻込みしていたがクレーンゲームや大型のメダルゲームを見るなり小さな子供のように張り付いて中を眺めていた。
「悠くん! これ何? 凄い凄い!」
茅秋が指差していたのはゲーセン限定の大きなチョコ菓子だった。
まあ、俺も中学の時に初めて見たときは驚いた。こんなに大きいのは売り場では置いてないからな。
「それも今度来たときにやろう。今日はプリクラだけだから」
「はーい……」
いくつかあるプリクラの台から夏恋がオススメだと言うものに入る。
外から見ると大きな箱だが、流石に5人だと少し狭かった。
並びは前に滝野と涼、後ろに夏恋と俺と茅秋。
「ちょっと成瀬くん!! 私に指一本触れないでよ!」
「ひ、ひでぇ……ちょっと寄っただけなのに……」
涼が滝野に理不尽に怒られる。
「もっと寄らないと写らないかも~!」
夏恋がそう言って俺の右腕に抱きつく。それを見た茅秋が「ずるい!!」と言ってもう片方の腕に抱きついた。
恥ずかしいからヤメテ……
でも高校に入学してから委員会にバイト、部活で忙しかったから、こうやって皆で和気藹々とした時間を過ごせるのは楽しいな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます