第36.5話 新しい私
少しでも女の子っぽくして、彼を振り向かせたい。
その一心で、入学当初はうなじが隠れるほどの長さだった髪もすっかり肩に掛かるほどまで伸ばした。
でも私の恋は実らない。
……そう思うようになったのは林間学校に行ったあたりだった気がする。
彼は私のことが好きという割には、元気のない茅秋をずっと心配していた。
そして、疑念が確信へ変わったのは一緒に水着を買いに行った日だ。
茅秋に悠と買い物に来ているのを見られ、関係を疑われそうになったとき、彼は必要以上に否定した。その後も茅秋と話しているときの彼は、私が見たことのない幸せそうな顔を浮かべていた。
……悲しかった。私は直接フラれてもないのに失恋したのだ。
でも認めたくなかった。そんな簡単に諦められるほど彼への想いは弱くない。
そんな中で海に行ったが、彼が茅秋と親しげに話すところを見る度に胸がズキズキと痛んだ。でも、勝手にフラれて、勝手に落ち込んでいたら皆に変だと思われる。……だから必死に気持ちを押し隠して平然を装った。
王様ゲームで茅秋が王様になったときに私が悠の頭を撫でることになった。
嬉し過ぎて勝手にニヤける顔を抑えるのが大変だった。
……そして、その時は来てしまった。
深夜、王様ゲームでのドキドキが収まらず、落ち着かないので台所へ水を飲みに行くと、ウッドデッキで楽しそうに話す悠と茅秋が見えた。
どうせすぐには眠れないし、会話に混ぜて貰おうとそちらへ向かうと、
「茅秋。……俺の恋人になってほしい」
真面目な表情で茅秋にそう言った悠。
私はいたたまれなくなり、自分の部屋へ逃げ帰った。そしてそのままベッドの枕へ顔を埋める。
頭の中が真っ白になっていたが、涙は止まらなかった。
翌朝、知ってはいるがやはり彼の口から直接聞こうと思い、昨晩のことを尋ねる。
「ねぇ……茅秋と何かあったの?」
「ちょ、ちょっとな……。実は……」
「待って!」
私が彼のことを好きというのは彼自身知っている。多分そのせいか、気まずそうに話し始める彼の顔を見て思わず制止してしまった。同時に流すつもりのなかった涙が溢れ出た。
「やっぱり聞きたくない……聞きたくないよ……」
目の前で泣き出した私に彼はズボンからハンカチを出して何も言わずに差し出す。
……彼は優しい。私の知っている男の子の中では間違いなく1番だ。でも、その優しさは私だけのものではない。皆に優しい。そんな彼が大好きだった。
この日、私の初恋は失恋に終わった。
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ボランティア部の皆と海へ行って、帰って来てから3日。私は彩花と遊びに行く約束をしていた。
集合場所である駅前の花壇へ着くと彩花は既に来ていた。
「彩花! お待たせ!」
彩花は私を見て、目を見開いた。
「夏恋、その髪……」
なぜ? ……というような視線を送ってくる。
まあ、驚くのも無理ない。今まで化粧などしたことなったというのに薄めにメイクをしており、約4ヶ月間伸ばしていた私の髪が入学した時よりも短くなっていたのだから。
「あ、悠にフラれたからじゃないよ? 悠や茅秋みたいな誰にでも優しい人間になりたいと思ったの。だから過去の自分は捨てようって……似合うかな?」
彩花は髪が短くなった理由を聞いてからも少し固まったままだったが、すぐに笑顔で答える。
「ええ、よく似合ってるわ」
そして他愛もない話をしながら二人でショッピングモールの方へ歩き出す。
落ち込んでなどいない。私は前を進み続ける。
『前向き』それが私の取り柄なのだから。
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