10 夜明け-3-

 ボーマ暦の2096年4月。

 暴君ペルガモンに代わり、プラトウ出身の少年が皇帝となった。

 彼はアシュレイやグランをはじめとする有能な側近の助けを借り、万民のための政治に着手した。

 税制を見直し、兵役を廃止し、官民一体となっての新たな国、新たな時代を切り拓く準備ができつつあった。

 叛乱の傷痕も時間とともに癒え、村や町は秩序を取り戻した。

 特にプラトウはペルガモン政権の終わりを告げる象徴として、新政府が支局のあった場所に慰霊塔を建立したため、多くの人が訪れるようになった。

 諸国との戦は未だに終結する様子を見せない。

 ペルガモンが始めた戦はあまりに多く、そして深く、終わらせるにはまだまだ時間と犠牲が必要だった。

 しかし彼らには希望がある。

 暗闇の中から生まれた一条の光がアメジスト色に輝き、世界を覆う。

 多くの者はその予言の存在すら知らないが、知れば誰もが信じて疑わないだろう。

「失礼します。皇帝、先日の件でお話が――」

 自室で本を読んでいたシェイドはそれをテーブルに置き、官吏を迎え入れた。

「はい、聞いています。プラトウのことですよね? 何かありましたか?」

「新たな生存者が見つかりました。追手から逃れるために各地を転々としていたようです。現地からの報告によれば、皇帝がお探しの人物と特徴が一致するとのことです」

「本当ですか!? すぐにでも会いたいです。ああ、でも――」

 彼は興奮を抑え、

「あっちの事務処理を片付けるのが先ですね……」

 つい後回しにしてしまった書類の山を見て照れ笑いを浮かべた。

「最近、本を読むのが楽しくて」

 大きく伸びをして、シェイドは窓の外を覗き見た。

 青い空に数隻の艦が浮かんでいる。

 そのずっと向こう、遥か彼方の上から一筋の光が差し込んでいる。

 彼にはそれが母か、あるいはソーマが微笑みかけているように思えた。

(僕を見守っていてね。僕が絶対に……すばらしい世界を造ってみせるから……)

 心の中で静かにそう誓うと、光は二度、ほのかに瞬いた。






   終

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