6 悲劇的-2-
重鎮がプラトウへ向けて進発したころ。
ひとつの報せがペルガモンに届いた。
「どういうことか詳しく述べよ」
報告書の冒頭を聞いただけで不愉快になった彼は強い口調で迫った。
「はい、これは先日、プラトウで起こった騒ぎなのですが……」
文官は一度読み上げた報告書を口語に置き換えた。
「つまり――税の滞納の問題で住民を連行しようとしたところ、子どもが……家族ではない別の子どもが現れ、持っていた石を当該住民に譲渡するから連行を取りやめて欲しいと申し出たそうです」
なぜよりによってこんな報告書が届くのか。
文官は内心で舌打ちした。
「徴税官はその子どもの申し出を受けて連行を中止しています。石の量はかなりのもので、先に没収していた当該住民の財産も返還したそうです」
「なぜ中止した? 責任者は何をしていた?」
「騒ぎは連行途中に起こりました。よって連行は完了しておらず、当該住民への石の所有権移転を認め、本来差し押さえるべきだった家財の増加と見做したようです」
「なんたることだ! 法を破り、しかもそれを認めるなどと!」
彼は烈火のごとく怒った。
「まったくそのとおりです」
怒声を聞きつけて男がやって来た。
彼は自分の存在を誇示するようにペルガモンと文官の間に割って入った。
「おお、ケイン……ケイン・メカリオだったな」
「はい、名前を覚えていただいただけで光栄です」
ケインは模範的なお辞儀をして言う。
「皇帝、これは許してはおけません。見逃せば後の禍根となります」
「そのとおりだ」
「しかも聞けば、騒ぎを起こしたのは子どもだとか。もしこの話が国中に広がれば、民は国家を軽んじ、ひいては皇帝をも侮ります。そうなれば誰も従わなくなり――」
叛乱の火種になるのは必至だ、とケインは無表情で力説した。
「議論など不要です。プラトウは小さな町、掃除に時間はかかりますまい」
「そのとおりだ」
ペルガモンはこの男をひどく気に入った。
彼は残虐性があって頭の回転が速く、言葉も飾らない。
その性質はことごとく彼の好みに当たっている。
「プラトウを攻撃すると軍部に伝えよ。標的の選別は不要だ」
こうと決めればペルガモンは命令を下すのも早い。
「お待ちください。先に役人を避難させなければなりません」
「その必要はない」
答えたのはケインだった。
「そもそも問題なのは、子どもの言うことを聞き入れた徴税官です。役人は皆、皇帝の忠実な下僕です。彼らは皇帝の意思に背き、たったひとりの子どもに従いました。これは立派な叛逆ですから、この攻撃には彼らへの制裁も含まれているのです」
いくらなんでもやりすぎだ。
さすがにここまで苛烈なことは――と文官が様子を窺うと、ペルガモンはこの非情な理屈に頷いていた。
「その徴税官は何の処罰も受けず、今も同じ職位にあるとのこと。となれば本来、罰するべき自治長が勝手判断で不問にしたということです。これは明らかな越権行為です。自治長といえども罪を犯した部下を許す権限などありません」
ケインは間を置かずに言う。
「見せしめのためにも始末するべきでしょう。叛逆を起こせば官も民も関係ありません」
「彼の言うとおりだ。もしかしたらプラトウの役人共は住民と結託しているのかもしれん」
こうなるともはや情はない。
彼にとってプラトウにいる人間は全て、燃やし尽くすべき安い命となった。
「かまわん。実行せよ。予告も要らん……いや、迅速にだ。近くに待機している隊があればそれを向かわせよ。ただし重鎮を含む一隊が同地区へ向かっている。そちらへ一報を入れておけ。ただし重鎮にはこの件は伏せよ」
これまでにいくつもの地域で民が蜂起し、その度に制してきた。
したがってこれも数ある鎮圧作戦のひとつに過ぎない。
「手向かう者には死を与えよ」
殺戮は秘密裡に行なわれたのだった。
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