9 皇帝の最期-1-

 首都エルドランの夜空は真昼のように明るい。

 各地で起こった叛乱は鎮まるどころか、野原に放たれた火のようにエルディラント全土に広がり、且つその包囲網を徐々に狭めていく。

 特に首都より西は常に砲火が飛び交う激戦区となっていた。

 ゲルバッドの主戦力が結集し、さらにバルダーズ・ネアンが加わったことで政府軍でさえ対抗しきれなくなっている。

 これは立ち上がった民衆や裏で支える民間企業の影響も大きい。

 したたかな実業家はペルガモン政権の崩壊を見据え、叛乱に手を貸すことで自社のアピールと後々の顧客に恩を売ることを目的とした。

 万が一のことが起こった時、政府側の企業だと見做されれば巻き添えを食らうのは必至だ。

 しかし叛乱軍に肩入れしておけば晴れて英雄の仲間入りだ。

 他方、そうした打算や駆け引きなしに純粋に協賛する企業もある。

 度重なる法改正や増税により企業努力を無にされ、成長の糧を奪われた者たちの怨嗟はそのまま蜂起への支援につながる。

 今や正規軍に匹敵する規模にまで膨れ上がった叛乱者たちに政府は手を焼いていた。

「状況は? 詳しく簡潔に報告しろ」

 司令室のモニターを睥睨してペルガモンが叫ぶ。

 叛乱の手はあちこちに伸び、また各地からも逐一情報が寄せられるため、全ての報告を受けている暇はない。

「サトラ地区に駐屯の部隊が離叛。現地の住民と合併して支局を占拠」

「ミームンド特別区、武装集団を一掃したとのことです。実行犯数名を拘束しました」

「カラエド将軍との交信断絶。直前の通信履歴より死亡したと思われます」

 もたらされるのは9割が悪報だ。

 主戦力が国外にあることもあり、多くの地域で政府軍は劣勢に立たされた。

 反対に民衆はさらに攻勢を強め、地方の行政機関や軍事拠点を次々に制圧していった。

 討伐に向かった軍も予想外の抵抗に被害が大きくなり、叛乱軍に寝返る者も続出する始末である。

「なんたるざまだ……!」

 ペルガモンは今になって事の重大さに気づいた。

 まるで転移性の病のように暴動は爆発的な広がりを見せている。

 止められるハズだった騒動など、もはやない。

 今やこの首都近くでも火の手が上がっているのだ。

「各隊に通達しろ。軍事拠点だけは死守するのだ。そこさえ残っていれば手はある。つまらぬ町や村は捨て、最寄りの拠点に戦力を集中させろ。そこで敵を討て」

 勢力図は数時間の拮抗を経て政府軍不利に傾いている。

 民衆の蜂起はいわば見えない敵のようなもので、対応が後手に回らざるを得ない。

 ならば地域ごとに討伐隊をまとめ、叛乱軍を迎え撃つほうがよい、という好戦的な彼には珍しい守りの戦法だった。

「報告します! 南方より艦がこちらに向かっています! 艦数は3。ゲルバッドに鹵獲された小型艇のようです」

「ならば手前の平原で撃ち墜とせ」

 この時、ペルガモンは何かを察知した。

 何であるかは分からない。

 ただ戦慣れした彼の勘のようなものが働き、それが彼に危険を伝えた。



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