6 予言を覆す力-4-

 一転してライネたちは苦戦を強いられていた。

 バイクに乗ったドールが数体、避難所めがけて迫ってくる。

 中空を自在に飛び回るそれらは、対空砲の射界外から攻撃をしかけてきた。

 従者たちの注意がそちらに向く。

 その隙を待っていたようにスーツの男たちが動きだす。

 狙いは――もちろんシェイドだ。

「当たって……!!」

 立ち止まって照準を合わせている暇はない。

 避難所に向かいながらフェルノーラは立て続けに発砲した。 

 そのうちの1発が男の肩に命中!

 バランスを崩して倒れこむ。

 傍にいた2人がフェルノーラに気付く。

 彼らはわずかに視線だけでやりとりをすると二手に分かれた。

 一人がシェイドに迫る。

 だが奇襲は失敗に終わる。

 従者の警戒は常に四方に巡らされていた。

「クソ……!」

 シェイドは男の存在に気付いていない――が、従者は彼を見据えていた。

(――やはり殺しておくべきだった)

 睨みを利かせているのはイエレドだった。

 こうなればもはや躊躇いは必要ない。

 情けをかけてやる必要もない。

 一度はシェイドの慈悲によって命を救われたというのに、この愚か者はよりによってその恩人を亡き者にしようと舞い戻ってきたのだ。

 男は走った。

 従者にかまってはいられない。

 上空からの攻撃を防ぐためにシールドを展開しているシェイドは無防備だ。

 護衛の間をすり抜け、あの小さな体躯たいくに一撃を与えるだけでいい。

 しかしそう上手くはいかなかった。

 イエレドは素早く体をさばいて男のふところに潜り込む。

 そしてその腹に銃口を押し当て――引き金を引いた。

 もちろん、一切の躊躇いなく。

 汚れ役は自分が引き受けると言わんばかりに。

 倒れ伏した暗殺者の腹部から煙のつるが細く伸びた。

 数秒、それを見下ろすイエレドに後悔はない。

 だが後ろめたさはあった。

 たとえ敵であっても命までは奪うな、というシェイドの方針に背いてしまったからだ。

 そうしなければならない状況でも、あの心優しい新帝はそうしなくてすむ方法を模索するだろう。

「………………」

 感傷に浸っている暇はない。

 これはシェイドを守るために必要なことだった――。

 短く息を吐くと、イエレドは中空を飛び交うドールに狙いを定めた。




 もう一人はフェルノーラめがけて走ってきた。

 右手にちらりと何かが光る。

 小型のブレードだ。

 柄の部分に嵌めこまれた小さな石から送り出されるミストが、刀身を輝く白で覆っている。

 フェルノーラは男の腹を狙って撃った。

 彼女には軍人ほどの非情さはないが、シェイドほどの情け深さもない。

 生まれ育った町を蹂躙じゅうりんするというのなら、息の根を止めるまでだ。

 そうするだけの覚悟はとうにできていた。

 だから手心を加えたハズはない。

 わざと狙いを甘くしたワケでもない。

 だが放たれる光弾は男の接近を止められない。

 ブレードを覆うミストがフェルノーラの攻撃を巧みに弾き返す。

 互いの距離は次第に近づいていく。

 後ずさりながら、しかしフェルノーラは攻撃の手を緩めない。

 男は姿勢を低くすると、勢いよく地を蹴った。

(………………!!)

 銃を構えなおす。

 銃口を敵の肩に向ける。

 引き金を引く。

 だが間に合わない!

 最後の一撃を弾かれ、二人の距離はほぼゼロになった。

 男がブレードをわずかに下げる。

 フェルノーラは咄嗟に銃を突き出した。

 斬り上げるように一閃した光が銃身をたたき割った。

「あ――」

 武器を失った少女は……。

 迫る敵を呆然と眺めていた。

 手首に走ったしびれを感じる暇もなく。

 暗殺者はブレードを振り上げ、残酷な一撃を見舞う――。

「…………っ!!」

 フェルノーラは反射的に目を閉じた。

 

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