6 予言を覆す力-3-
あれをどうにかしなければ避難所が壊されてしまう!
そう思うもシールドの維持に集中している彼には打つ手はない。
対空砲に加え、味方の戦闘機も迎撃にあたるが、被害は増すばかりだ。
「危ないっ!」
シェイドを突き飛ばすようにしてライネが躍り出た。
光弾が彼女の脇腹をかすめる。
避難所の陰から現れたドールが2体、こちらを狙っていた。
(なんであんなところから……?)
すぐさま銃を抜く。
だが狙いのあまい射撃はドールにかすりもしない。
「ああ、クソ!」
ライネはいらだたしげにドールめがけて銃を投げつけた。
視界に飛び込んできたそれに一瞬、センサーが反応して動きが止まる。
放物線を描いて銃が足元に落ちた時には、淡い光をまとった拳が迫っていた。
ドールの頭部が宙を舞う。
もう1体が標的をシェイドからライネに切り替える。
だがそれは遅すぎた。
弧を描いたつま先が銃をたたき落とし、くるりと身をひねって繰り出された踵が胴体をふたつに分けた。
「やっぱこっちのほうがいいな!」
そう言って笑んだのも束の間。
味方の一角が崩れ、敵のドールが数体、2人に向かってきていた。
標的はもちろんシェイドだ。
シールドに集中している彼はそれに気づかない。
振り向いたライネの顔が青ざめた。
俊敏な彼女でもこの距離では間に合わない。
しかしその心配は杞憂に終わる。
後退した従者たちがシェイドの周囲を固めた。
その様子にライネは胸をなでおろした。
狭所ならともかく、四方から敵が迫る状況下ではひとりでシェイドを守りきるのは難しい。
(これならなんとか……!)
任務を果たせる。
彼女はそう思った。
シェイドは今も避難所を守るためにシールドに注力している。
上空からの攻撃への備えはできているが、地上戦には無力だ。
そこで引き返してきた従者たちと自分がその穴を埋める。
(とはいえあいつらをなんとかしなくちゃな……)
ライネは憎々しげに空を見上げた。
大きく旋回して戻ってきた攻撃機が、再び避難所への攻撃をはじめた。
頭上を通過したそれらは対空砲を巧みにすり抜け、東の空へと消えていく。
「クソ……厄介な相手だな……!)
歯噛みしたとき、切り立った崖の向こうから耳障りな音が響いてきた。
「たいしたものだ」
隊員のひとりが言った。
すぐ横で応戦する少女は民間人で銃の構え方もぎこちない。
だがその狙いは確かで、迫るドールの胸部を次々に撃ち抜いていく。
「訓練すれば……すぐに優秀な兵士になれるぞ!」
それに答える余裕は――ない。
ドールの大群を相手にするのに精いっぱいで、会話に意識を割く余裕がないのだ。
なにより彼女――フェルノーラが戦っているのは故郷を守るため。
軍人になるために戦っているのではない。
「西側に回れ!」
前の部隊から、西方の峡谷に新手が現れたとの報告が届いた。
かなりの数だということだが、その構成は歩兵隊が大半だという。
谷の出口を塞いでしまえば進攻を食い止められる。
――が、そのためにこちらの戦力を割かなければならない。
「トレッド部隊を向かわせる! こちらは施設の防衛が最優先だ!」
それを聞いていたフェルノーラは背後に気配を感じた。
人の――ではない。
漠然とした不安だ。
なにか良くないことが人の姿をして忍び寄ってくるような、妙な感覚だ。
「………………!」
慌てて振り向く。
遠くに見覚えのある姿があった。
周囲を威圧するような戦闘用の黒いスーツを着た3人の男だ。
(あの時の――!?)
彼らが自分たちにとって好ましくない存在であることはすぐに分かった。
そして、ここにいる理由も――。
砲撃によって損壊した避難所は、拘束された襲撃者に自由を与えたのだ。
フェルノーラは銃を向けた。
連中の狙いが変わっていないのならシェイドが危ない。
体内のミストを銃身に送り込み、強化された弾丸を撃つ。
狙いは確かだった。
だが命中には至らない。
「誰か――」
応援を求めようとして思いとどまる。
先ほど西方に戦力を割いたばかりで余裕がない。
フェルノーラは走った。
持ち場を離れることになるが、軍人ではないから軍規違反にはならない。
それに自分ひとり欠けたところで、ここの防備が手薄になることはないだろう。
――そう判断しての行動だ。
今は何より連中を追い、避難所を守らなければならない。
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