3 急襲!-6-
「フェル、あいつを疑ってるんだろ?」
肩越しに振り返って洞窟の奥を示す。
シェイドにぴったりと付くように立っている従者――イエレドだ。
「どうして?」
「さっきあいつが避難所に行くって言った時、慌てて止めてたじゃん」
「………………」
すぐには答えない。
フェルノーラはまだ質問に対する適切な回答を持っていなかったからだ。
「――分からない」
だから彼女はこう返した。
「分からない、って?」
「なんとなくそんな感じがしただけ。悪いことを考えていそうな大人――っていうのかしら」
どこか他人事のように返した彼女はしばらくして思い出したように、
「でもどうして私が”疑ってる”なんて思ったの?」
含みのある訊き方をした。
「アンタと同じさ。分からねえけどなんか引っかかるんだ。ここに来たときから落ち着かない感じだし」
「ふうん……」
フェルノーラは気付かれないようにイエレドを観察した。
おかしなところはない。
彼女の言うように今も落ち着きなく辺りを見回しているが、それもシェイドの護衛のためと考えれば自然な動作だ。
「中央の人なんでしょう? みんな彼の味方だと思っていたけどそうじゃないの?」
彼女がそう問うとライネは難しい顔をした。
「アタシもよくは知らないけど、ちょっとややこしいらしいね」
「ややこしい?」
「皆が皆、シェイド君を良く思ってるワケじゃないってさ。あ、本人には内緒だぞ? 絶対、気にするから」
「ええ、分かってるわ」
やはり彼は変わらないな、とフェルノーラは思った。
「そういうこともあってさ、こうやってぞろぞろ付いてきてんだよ。みんな相当な実力者らしいからヘタなことはできないだろうけどさ」
「あなたもそうなの?」
と、少し意地悪な口調で訊く。
ライネはわざと間を置いて、
「試してみる?」
と大袈裟に指の関節を鳴らしてみせた。
その仕草にフェルノーラは微苦笑する。
「さっき見ていたから分かってるわ」
”見ていた”という表現は正確ではない。
彼女は従者に守られ、迫るドールの群れから目を離せなかった。
だからライネが単身で切り込んでいったのを見たのはほんのわずかな時間だ。
しかしそのわずかな時間で――。
彼女がいとも容易くドールを蹴り壊す瞬間を確かに目撃していた。
(私も少しくらいなら魔法を使えるけど、彼女の前では何の役にも立ちそうにないわね……)
フェルノーラは漠然とだが危機感を抱き始めていた。
ペルガモン政権が倒れたことで苛政からは解放されたが、国境に近いこともあって隣国と衝突する可能性は残っている。
傷の癒えていないプラトウは敵からの攻撃に備えるどころか、人々の生活もままならない。
この状況下では自分の身は自分で守らなければならないのだが、彼女にはそれだけの力はない。
一部では神格化されているシェイドも、ここでの活動を終えれば護衛を連れてエルドランに引き上げてしまう。
そうなればプラトウはどうなるだろうか――?
「………………」
たった数体のドールにさえ蹂躙されてしまうかもしれない。
「おーい? 聞いてるかー?」
そんなことを考えていたものだから彼女はライネが呼んでいるのに気付かなかった。
「……あ、えっと……なにかしら?」
ばつが悪くなったフェルノーラはわざとらしく髪をかきあげた。
「これ、渡しておくよ。そんなの使わなくていいようにアタシたちがいるんだけどね。ま、念のためさ」
押し付けられるようにして手渡されたのは子どもでも片手で覆い隠せそうなほどの小さな銃だった。
(護身用……?)
従者たちが使っていたものとは大きさも形状も異なっている。
「念のため持っておけって言われたんだけどさ。アンタが持っておいたほうがいいと思ってね」
「あなたはどうするの?」
「アタシはそういうの苦手なんだ。構えて撃つなんて面倒なことするより殴ったほうが早いしな」
無邪気に笑うライネだが、けして好戦的な少女ではないとフェルノーラには分かっていた。
彼女は遠慮がちにそれを受け取る。
叛乱軍に加わっていた時に支給された銃のほうが、これより大きく性能も優れていた。
それだけに心許ないのだが、今回は正規の軍を相手にするワケではないからこれでも足りる。
しばらくして洞窟の前に2台の車両がやってきた。
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