5 復讐の始まり-3-
「エルドランに……?」
訊き返したシェイドに従者たちは一様にうなずいた。
現地の賊ではなく、シェイドの命を狙っている存在が明らかになった今、手薄な防備で僻地にいるワケにはいかない。
「でも――」
言いかけた彼は反駁できない雰囲気を感じ取った。
わがままが通るような状況ではない。
(ここに来て僕はまだ……)
復興の手伝いらしいことを何もできていない。
なのに早々と引き揚げるのか――という想いはある。
「お、おい! 大変だ!!」
外で男の叫び声がした。
「あ、皇帝!!」
ここに留まるようにイエレドが言うより先にシェイドは飛び出していた。
ライネがすぐにその後を追う。
外には数人の避難者がいた。
フェルノーラもいる。
彼らは空の彼方を見つめていた。
あの耳障りな音が空気を振動させる。
鼓膜に達したそれはすぐに全身に広がり、まるで地面が揺れているかのような錯覚を起こさせる。
澄んだ空の向こうに、ぽっかりと空いた穴のような――。
黒とも銀ともつかない何かが浮かんでいる。
「…………!!」
その正体を見たフェルノーラは力が抜けたように崩れ落ちた。
「フェルっ!?」
ライネが慌てて抱き起こす。
「お、おい……!?」
呼吸が荒い。
見開かれた瞳は小刻みに揺れ、正面にあるライネの顔を捉えていない。
「どうしたんだよ!? おい……フェル!!」
すぐ横で靴音がして、ライネがそちらを見上げる。
シェイドも同じだった。
かろうじて立ってはいるものの全身は震え、顔は引き攣っている。
(なにがどうなって……?)
避難者たちも一様に彼方を凝視している。
まるで時が止まったような錯覚に襲われた彼女は呆気にとられていたが、すぐに自分がすべきことを思い出す。
フェルノーラの両肩をつかんで力をこめる。
それでも体の震えは収まらない。
「――フェルっ!」
頬を叩く。
「…………ッ!」
軽い痛みに我に返ったフェルノーラは、ようやく自分を見下ろすライネに気付いた。
イエレドたちが出てきた。
音はさらに大きくなり、ついにその全貌が肉眼でも捉えられるほどに迫ってきた。
艦隊だ。
4隻の艦が真っすぐこちらに向かってくる。
「あ、あぁ…………!」
そのうちの1隻は――。
忘れもしない。
忘れることなどできはしない。
――あの日、プラトウを襲ったあの艦だった。
封じ込めていた恐怖が彼らの中に蘇る。
光、音、大地の鳴動が。
一瞬にして焼き払われ、廃墟となった町の、何かが焼けこげる臭いが。
あれが自分から――自分たちからすべてを奪ったのだ。
シェイドはあやうく気を失いそうになった。
あの艦のことはよく覚えている。
しかしあの艦の最後についてはほとんど記憶にない。
「なんでまたあれが来るんだ!」
誰かが叫んだ。
あの時とはちがう。
ここにはもう何もない。
散り散りとなった人たちが集まり、粗末な避難所が建っているだけだ。
「迎えが来ました」
イエレドが言った。
呆然としていたシェイドは一瞬だけ彼を睨みつけた。
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