第13話 アバズレビッチの成り下がり7

 アバズレビッチ婦人と少々長話をし過ぎていたようだ。廊下に出るとモリアーティ教授が迎えに来ていた。


「ではマダム。彼を借りていく」


 教授はアバズレビッチ婦人にそう挨拶をした。


「ええ。またいつでも遊びにいらしてくださいね」


「あ、うん」


 素直に同意できない。


「なんなんだよあの吸血鬼は・・・」


「彼女かね?彼女は私のコレクション。いやこの豪華殺人列車に仕掛けられた舞台装置の一つに過ぎない」


「舞台装置?」


「一等車に部屋を持つ貴婦人。何処か影のある女性の一人旅。そんな女性の部屋で殺人死体が発見されるのだ!!さぁ名探偵の出番だ!!得意げに公衆の面前で彼女の隠しておきたいせせらな過去を暴こうとする!だがそれは大きな過ちだ!!実は彼女の部屋にある、肖像画の一つに隠し通路が存在し、真犯人はそこから既に逃走している!!すなわち、彼女は犯人ではない!!!」


「あんた一周回ってホームズの事が好きなんじゃね?」


「ハハハ。それはあり得ないね。吸血鬼となった己の運命を呪い、世を儚んで太陽の炎に身をさらけ出し、自害しようとした哀れな娘を救おうと考えるくらいあり得ない話だ。では、参ろうか」

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