第29話 決戦前夜3

 その日の夕方。


「幸村様。敵が攻め込んで参りまする」


 真っ赤な武具で身を固めた真田幸村配下の兵士が報告した。幸村の兵は大阪城にいる他の雑兵と比べて三倍強い。他の兵士のHPが2000くらいだとすれば幸村の兵は6000くらいあるだろう。


 真田丸の物見櫓から敵方の様子を伺う幸村。


「斥候か」


「あれが、でございますか?」


「本気で攻め落とすつもりならもっと大群を送り込んでくる。さりとて功を焦っている様子でもなく。狙いはこの真田丸。即ちこの幸村が造った砦の攻撃防御の力を図る目的と見た」


 勇猛にして知将。真田幸村はこの攻撃を威力偵察と見抜いた。


「あ、威力偵察ってわかる弥一?」


オムツライオン「やぁ弥一君。僕の名前は威力偵察だよ!」


「教えてくれ眼鏡女!!」


「威力偵察は軍事用語ね。本気で攻撃する前に軽くジャブパンチかましてみて、敵の軍隊や砦、要塞がどの程度の力を持っているか調べる事を言うのよ」


「では、この場において迎え撃ちましょう」


「いや。仕掛け石の類は温存しておこう。迎え撃ち、戰天女を交えて早々にお帰り願うのが良作とみた」


「御意。皆の者、出陣じゃああ!!!」


 真田丸が幸村勢の兵が出てくる。


「迎え討ってくるのか。真田丸の仕掛けを少しでも暴いて起きたかったが」


「それなら心配いらないぞ政宗。後世に残された真田丸の設計図がある」


「なんと!設計図を盗み取っていたのか!仙人というのは凄いな!!後で拝借するとしよう」


 政宗、徐福が率いる陽動部隊と幸村軍が平地で接触する。ほどなく上空からバルキリー隊が出現する。幸村の目論見通り早期に戦いは終わってしまうだろう。だがその隙に。


「聴こえるかね。弥一君」


「なんすかモリアーティ教授」


「それは復元された大阪城の地図だ。これで地下牢を目指したまえ。お六君はおそらくそこにいる」


「歴史博物館最高すね」


 弥一達が使っている大阪城関連の地図は政宗達からすれば未来の超兵器なのである。


「我が祖国イギリスに来たら大英博物館に来たまえ。もっと素晴らしいお宝をお見せしよう」


「そうする事にします」


「おい、お前何か言ったか?」


 大阪城の城壁に立つ見張り兵が隣の相棒に尋ねた。


「いや。あっちの真田丸の方でなんかやってみてぇだけど。それだけぜ」


「まぁすぐに終わるよ。戦天女が来てるし、夜になったら戦闘自体にならないからな」


 そんな雑談をする見張りの兵の脇を弥一は素通りする。徐福がかけた隠蔽の魔法は完璧だった。完全なステルス効果により彼らに視認されることはない。もっとも、体温は出ているし、足音はする。

 そもそも、弥一の体自体はその場にあるのだから兵士達が注意深く観察すれば。たとえば雨の中、雨だれが空中を避けて進むとか、水溜りに人間がいないのに足跡ができるとか。

 そういうのも発見できるかもしれないが、彼らは真田丸付近の戦闘を見ているだけである。


「・・・もっとも私のような悪人は夜が大好きだ。こういうお城で財宝を盗んだり、お姫様を誘拐するのに持って来いなんでね」


「今回は助けに行くんだぜ教授?」


「そういうわけだ弥一君。あまりお喋りすると兵士に気づかれるので以降作戦完了まで通信を封鎖する。アウト」

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