第23話 最終時空歪曲点ナロモン2

「パーティメンバーは」


前衛 ゴンギツネ

   ヘミングウェイ 

   メロス


後衛 与謝野晶子

   ベートーヴェン

   柳沢吉保


「の構成で行きます」


「なぁ、こいつら能力低くね?HP多い奴でも一万越えてないんだけど?」


「今回の人類悪ナーロッシュ討伐戦はパーティメンバーを全員星3以下の英雄で揃えてあります。☆5ばっかだとキャラ性能によるゴリ押しジャンそんなのただのチートだよとか文句つけてくる奴らがいますかねぇ。というわけで無料ガチャで排出される星3以下英雄のみだけでナーロッシュを倒します」


「無料ガチャで出る星3以下だけで?それだと弱いのしかいないだろ?本当にできるのか?」


「では、やってみましょう。開幕、ゴンギツネがちょろまかしのスキルを発動。敵一体に対し、確定のスキル封印+防御力ダウン+自身にターゲット集中状態を付与、(デメリット)を使用します」


「ボクお役に立ちまーーす」


「ヘミングウェイとメロスは万一に備え、『天国の嫌われ者』と『岩から出た清水』を発動します」


「何その変な名前のスキル?」


「アーネスト・ヘミングウェイは第一次大戦で百発近い弾丸を受けたにも関わらず、無事生還。さらに二度の飛行機事故に遭遇したにも関わらずやはり無事に生還しています」


「ジョセフ・ジョースターかな?」


「メロスはその伝承の中、息絶えそうになった時、岩から出た清水を飲んで再び活力を取り戻し、暴君の待つ都に走って行ったといいます」


「で、具体的にどんな効果があるんだ?」


「自身にリバイブ状態を付与。致命傷を受けた時にHPを少量回復して復活します。ヘミングウェイは5ターン。メロスは3ターンです」


「死ぬ努力をしたところで我には届かぬ!」


 ズガガガガガガガガ!!!


 両手のスマートフォンでゴンギツネを乱打する†異世界悪†ナーロッシュ。

モフモフのケモミミ娘に危害を加えるとは人を心を持たぬ悪鬼羅刹。獣犬畜生に劣る所業。まさに異世界悪と言えよう。


「ますたーの、・・・おやくにたてなかった・・・」


「ゴン!お前からなのかよっ!!!!」


「タゲ集中入ってますからね」


「消え去るがよい」


 ボシュウウウウウウウ!!!!」


 スマートフォンのフラッシュライトから破壊光線が発射される。狙いはヘミングウェイだ!!


「ウアアアアアアア!!!!」


 ちゅいーーん


 通常攻撃にも関わらず一気にHPが0になった。事前にリバイブ効果のあるスキルを使用していなければ即死だった。


「なんて奴だ!スマートフォンがなければなんにもできないくせにっ!!」


「落ち着きなさいよ。相手は異世界悪なんだから。では第二ターン開始。ゴンギツネが戦闘不能になったので控えの与謝野晶子が登場します。ここで奥義:三日の走破、奥義:武器よさらば、奥義:君、死にたもうことなかれ、を相次いで発動。奥義チェーンが発動します」


「暴君よ!私は帰って来たあああああああああああ!!!!」


 ドゴオオオオオオン!!

 

 大爆発が起こる。しかしダメージは0。


「暴君特攻の全体奥義ね。ネガ・ナロウの効果がなければ10万近いダメージが出てるわ」


「だからチートスキルは嫌いなんだ!!」


「君にいい事を教えよう。イタリアと関わると碌なことがない・・・。武器よさらば(グッバイ、ウェポン)」


 突如雨が降り出し、ヘミングウェイが銜えていたタバコの火を消した。そしてタバコを投げ捨てるヘミングウェイ。


「敵全体にクリティカルダウン+攻撃力ダウン効果を付与」


「戦争反対!戦争反対!君、死にたもうことなかれっ!!!」


「でもって防御力上昇+ダメージカット+味方全体にリバイブ状態付与、(回復量は1)」


「リバイブはオマケみたいなもんだな」


「ナロウ装填」


 シャキーン!


 †異世界悪†ナーロッシュの奥義ゲージが一気に満タンになる。


「思い知るがよい。お前達異世界人どもはこの私が性的快楽を得るための玩具に過ぎん。逃げ惑い、泣き叫び、命乞いをせよ。お前達にできるのはそれだけなのだ。我が名はナーロッシュ。異世界の支配者也」


「ほんとクソみたいな理由で異世界で悪事働くよなこいつ」


「10万人規模の都市を10個ほど毎日破壊しながら『まーた俺何かやっちゃいましたか?』とか『俺の魔法の威力が弱すぎるんですか』とかいう連中ってホント困るわよね」


 ナーロッシュの掲げた光球より、膨大な光の本流が溢れ出る。異世界に住む住人達をすべてを原始の塵へと還す魔力の本流。その一撃で国一つ、いや世界が軽く消滅するだろう。それをナーロッシュを毎ターン撃ち出し、ほんの「児戯」というのだ。この攻撃を受けた召喚英雄たちは。


ダメージ0


ダメージ0


ダメージ0


「ファッアア!!!!???」


「何が『ファ?』なんですか?」


「いや。だってこれ10万ダメージ確定の必殺技でしょ?なんで生きてんのよ?!!」


「防御バフと攻撃力低下デバフの重ね掛けの結果よ。レベル差10でダメージが一切通らなくなってラスボスがスタート地点の村をうろついて勇者候補を狩り殺すクソMMOゲーじゃなくて、運営と開発がしっかりしたゲームの場合、こういうことが『実機で可能』となるわ」


 引き続き第3ターン。


「暴君め!友の為に!友情パゥアー!!」


 メロスの通常攻撃でダメージを稼ぐ。奥義でもクリティカルでもない通常攻撃なら確かにダメージが通るようだ。しかしそのターン。


「砕けよ砕けよ砕けよ砕けよ砕けよ」


「きゃああああああ!!!」


「ああ!リバイブが解除された後さらに追加攻撃で殴られたっ!!」


「やだ、髪が乱れちゃう・・・・」


 しゅいいいいいん・・・


「はい。与謝野晶子さんご苦労様でした。ベートーヴェンさん入ります」


「大丈夫なのか?」


「4ターン目。ネガ・ナロウの効果が切れました。ようやく奥義もクリティカルも入るようになり、普通にダメージが入るようになります。とりあえずスキル:月光を使用し、味方全員のクリティカル率を上げます。スキル:暗闇に差し込む朝日でリバイブも付与です」


「おい。もしかして全員リバイブ持ちか?」


「ナーロッシュの攻撃で一撃死するのが前提な戦闘なので自前蘇生能力持ちで構成してるのは確かね。ちなベートーヴェンは頭痛持ちなので攻撃上昇、防御上昇、HP回復もできます。あんま意味ないけど」


「姑息姑息姑息姑息姑息姑息」


「すまぬ、セリヌンティウンスよおおおお!!!!!!」


「思い知るがよい。お前達異世界人どもはこの私が性的快楽を得るための玩具に過ぎん。逃げ惑い、泣き叫び、


「おい、この奥義演出長すぎないか?毎回見るのめんどいんだが?」


「一度見た奥義はスマートフォンの画面右上のコンフィグ画面をタップして設定すると飛ばせるわ。あ、味方の奥義は個別設定で二倍にしといた方がいいわね」


「なんで二倍なんだよ。全部飛ばせばいいだろ?」


「ダメージ判定が終わって自分のコマンド入力に戻る前にゲームをリセットすると、その直前の戦闘コマンド入力開始前に戻るんですよ。だから攻撃対象を間違ったとか、支援魔法を使うのを忘れたとかそういう時はリセすればええんやで?」


「おお、そういう裏技があるのか。覚えておくわ」


命乞いをせよ。お前達にできるのはそれだけなのだ。我が名はナーロッシュ。異世界の支配者也」


 ナーロッシュの掲げた光球より、膨大な光の本流が溢れ出る。異世界に住む住人達をすべてを原始の塵へと還す魔力の本流。今回は防御バフの切れた状態である。ヘミングェイもベートーヴェンも全てを圧し潰す破滅と憎悪の光に飲まれてしまった。


 そして。


 タッ。


「さて、ラジカセを用意して、っと」


 天照はスイッチオン。なんかカッチョイイ音楽が流れだす。


「いや。ここ本来すっげー盛り上がる所なんだろうけど出てきたの柳沢吉保だぞ?ジジィだぞ?悪人面というか悪人じゃねーかよおい。しかも相手HP80万近くあんのにどうやって逆転」


「まず、スキル:金銀改鋳を使用。通常なら味方にクリティカルダウンが発生しますが、既に味方が全滅してるので気にしなくていいわね」


「いやジジイも含めて全滅する寸前やんけ」


「自身に奥義ゲージ上昇状態を付与したら今度はスキル:黄金色の菓子。自身の奥義ゲージが物凄おおおぉおぉぉく増えます」


 シャキーーーン


「一気に満タンになったああ??!!」


「この柳沢に挑むとは愚かな輩よ。ここが年貢の納め時、者共出会え出逢え!!」


 柳沢の号令と共に突如として武家屋敷の中庭が出現する。そして屋敷の屋根や畳の中から一斉に出現する忍者軍団!!


 シュアバババババババ!!!


 ダメージ17、860


「おい。ダメージ二万いかないぞ?あと五十回今の奥義叩き込む気か?」


「星2の全体奥義ならこんなもんでしょ?」


「砕けよ砕けよ砕けよ砕けよ」


 チュイーン


「ふぅ。概念装備:徒然ネクロマンシーがなければ今ので終了だったわ」


「いや次はないだろ」


「次はマスタースキルでリバイブ付与します」


「姑息姑息姑息姑息姑息姑息」


 チュイーン


「今度こそ本当に後がないぞ?」


「いえ。今の攻撃で奥義ゲージが溜まったわ。失敗したらリセしましょう。成功するのを祈りなさい」


「いや。ダメージ二万じゃ勝てないだろ」


「この柳沢に挑むとは愚かな輩よ。ここが年貢の納め時、者共出会え出逢え!!」


 柳沢の号令と共に突如として武家屋敷の中庭が出現する。そして屋敷の屋根や畳の中から一斉に出現する忍者軍団!!

 は、出現しなかった。代わりにナーロッシュの背後から全身黒タイツの男が出現し、バールのような物で殴りかかる。


 ガンッ!


 リバイブ付与

 99999999999999999999999999999999999ダメージ


 チュイーン


 80万近くあったはずのナーロッシュのHPが一気に残り1になる。


「ファッ!!!!!???」


「これが短筒というものじゃ」


 パァン!


 連続攻撃の締めで柳沢は懐から拳銃を取り出すと一撃を加えた。


 684ダメージ


「え?嘘・・・?なにこれ?!!俺死ぬの???!い、いやだ・・・!!俺は死にたくないっ!!!俺は異世界で好き放題したいんだっ!!!その為に転生して、魔王になって、この力を手に入れて、下等な異世界人どもを蹂躙してぐあああああ!!!いだいいだいいだいだいだっだだいだいだいだいだいだいあだいあいだいだいあ!!いしにたくないないないしにたくないない!!!!!いやだああああああ!!!!」


「あ、なんか急にIT土方か30代無職童貞ニートみたいな喋り方になったぞ」


「実際異世界転生する前はそうだったんじゃねぇですかねぇ。借り物の力を剥ぎ取られたら正体はメッサ小物っしょ」


 ボボボボボッボボオオボッボボボボボボオ!!!!!!!


 †異世界悪†ナーロッシュは白煙をあげながら消滅していった。


「この柳沢を平伏したければ、千両箱を江戸城よりも高く積み上げる事じゃのう」


 と、柳沢吉保らしい勝利セリフを言う。それなりに大物っぽいぞこっちは。


「あのう、今のは一体?」


「星2の柳沢吉保よ。弥一も持ってるじゃない」


「いや。そうじゃなくて、なんでいきなりラスボスのHPが1になったんだ?」


「教えてやろう。小僧」


 柳沢吉保が近づいてきた。


「この柳沢吉保は史実の、江戸時代中期の歴史上の人物。徳川五代将軍綱吉を陰で操り、私腹を肥やしていた。その為、当時から儂の評判はすこぶる悪かった」


「自覚あるんかい」


「今は余り造られておらんが、第二次大戦後、西暦二千年くらいまで、日本では時代劇という江戸時代を舞台にしたテレビドラマが盛んに作られておった。内容は悪徳商人と結託した悪代官、悪家老を正義漢に溢れる同心などが成敗するといった物じゃ」


「ちな同心ってのは江戸時代の警官ね」


「儂の奥義:年貢納付之刻はそんな毎週毎週テレビ時代劇で放送されていた悪役たちの概念が形になった物。即ちやられ役の忍者。浪人。モヒカンバットを召喚し、武家屋敷の中で襲わせるのだ!!」


「忍者と浪人はわかるがなぜモヒカン?」


「え?モヒカンの出てくる人気時代劇アニメ知らないの?」


「そんなのあったのかよっ!!」


「忍者、浪人、モヒカンの出てくる確率はそれぞれ30パーセントづつ。そして残り10パーセントの確率でバールを持った黒タイツが登場するのだ」


「バールを持った黒タイツ?」


「知らぬのか?毎週毎週眼鏡をかけた小学一年生にサッカーボールをぶつけられて倒されるあの黒タイツの事だ」


「あああ!あの黒タイツかっ!!!」


「だが、そんなあ奴も年に一度ほど。眼鏡小学生とその仲間を拉致して勝利を目前にする事もある」


「フフフ、これで終わりだコナル」


「くっそー。黒タイツめっ!!!」


「俺は拳銃を持っているがこいつでお前を殺さずに自動車に閉じ込め、ゴミ捨て用のプレス機で圧し潰してやるぜ!!」


「そうはさせるか!」


「うぐぁ!貴様は白いRX-7を乗り回すなんだか金回りは良さそうだけども喫茶店でアルバイトをする謎の大学生!!くそっ、覚えていろよ!!」


「このバールを持った黒タイツこそが儂ら悪役の希望の星。時に正義の味方をあざむき、殺人や強盗を成功させる。この男を呼び出すのも儂の奥義なのだ」


「バール黒タイツは相手のHPを必ず1にできるわ。ただし発動確率は10パーセントだから普段の周回には向かないわね」


「対ストーリーボス用かい」


「まぁどうしても勝てない人の為の救済措置みたいなものね」

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